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1年ぶりに建国祭が開催された。


街はにぎわい、朝から店の看板横に国旗を下げ、出店やイベントが催される。

子供たちは伝統的な揃いの帽子を被り、灯籠に絵を描き準備する。


建国祭の最後に城から灯籠を空に浮かべるのだ。

これも伝統だ。

この日のために皆それぞれ願いを込めた灯籠を準備している。


港でも、建国の祝賀イベントが開催され、屈強な海の男たちの力自慢大会や、酒の飲み比べなどで盛り上がっている。


「これからのサンザの港は、アース帝国の経済の基盤として変わらぬ地位と進化していくことを、ここに誓います。皆と共にこのアースを盛り上げていこう」

ステージの上で、ガリオール男爵の祝賀演説が行われている。

男爵の声に、参加者や民衆は大いに同調し盛り上がりおおーっと拳を突き上げた。


満足そうに頷き、男爵の演説は幕を閉じる。

壇上から降りると他の貴族たちにつかまる。


「男爵様、お疲れ様でございます。あちらに席を用意しておりますので一緒にいかがですか?」

誘いが、後を耐えない。

演説の前にも別のグループの席ですごしたが、そこにガリオール夫人が現れる。

「申し訳ありません、男爵はこの後重要な接待がありまして… 私が代わりにお伺いしますわ」

「夫人が?いいでしょう!ガリオール家の敏腕秘書の話を是非」

酒も入っているのでニコニコして同調する。


夫人はコソッと男爵に耳打ちする。


「ありがとう。もういいわ」


男爵は、こくりと頷きスタスタとどこかへいく。


そんな、男爵を追いかけるものは少なくない。

男爵はそんな彼らを巻きながら移動する。人の少ない小道に入り込む。


「あれ?」


男爵を、追いかけていた貴族は、道の突き当たりまで来たところで彼がいないことに気がつく。

「どこへ行ったんだ?」


きょろきょろと後ろを振り返れども男爵はいない。

はて、と首を傾げた。


***


街からずっといろんな音楽が聞こえてくる。

笑い声やにぎわいが、ここまで響く。


エヴァン侯爵邸では、これから始まるお城での建国記念パーティーの為の準備で騒がしかった。


「綺麗よ、リリー」


鏡に映る自分をじっと見る。

特に何も感想はない。


「国王に挨拶をして、侯爵様と灯籠を一緒にあげてくれたらそこまでで今日はいいわ」

「かしこまりました」


リリーに扮した魔女は頷く。


「さぁ、行きましょうか」


エヴァン侯爵夫人は娘のリリーを連れて玄関へ降りる。


父親や兄の称賛を聞き、ニコッと微笑む。


馬車に乗りこみ城へと向かう。


夫人は、笑顔を貼り付けた違和感のない娘を横目で見た。


***


煌びやかなお城の建国パーティー。

貴族たちは城で建国を祝う。


レオリオは会場の王の椅子にて酒を飲みながら貴族達の様子を眺めていた。


次から次へと来る挨拶を笑いながら適当に交わしている。


つい、先程まで仕事をしていた。

アルベルトから着替えろと強めに言われるまで仕事をしていた。


こんな、パーティーのどこがいいのかさっぱりわからない。

だだっ広い会場にごちゃごちゃと着飾った貴族たちが溢れている。


「陛下」

呼ばれて目の前を見ると、エヴァン侯爵がニコニコしながらこっちを見ていた。


「アースの栄光があらんことを」

ささっと礼をする。

「陛下にご挨拶申し上げます。」

「エヴァン侯爵、久しぶりだな」

「はい、お久しゅうございます」

エヴァン侯爵夫妻が頭を上げる。

後ろにはエヴァン侯爵夫妻子息子女が控えている。

レオリオはふとある匂いに気がつく。


「ん?」


あの匂いがした。

先日の湖の女の匂い。

誰だ?

どこだ?


エヴァン侯爵が何か言っているが、全て無視する。

きょろきょろする。


ふむ。

顎に手を当てる。


「陛下?」


エヴァン侯爵や、周りの騎士達、アルベルトもきょとんと陛下を見た。


「いや、なんでもない…」


周囲を注意深く見ながら匂いのことを考え込む。


「よろしければ、我が娘リリーに陛下のダンスの相手をする栄光をいただけませんか?」

「あぁ」


ザワッ


「ん?」

「へっ、陛下?」


アルベルトが驚愕の表情で見ている。


「どうした?」


「光栄でございます!!!」


エヴァン侯爵が歓喜の表情で見ていた。


コソッとアルベルトが耳打ちする。


「エヴァン侯爵の娘とダンスするって陛下頷いたんですよ?どうされたんですか?」

「え。言ってない言ってない。話を聞いてなかった。」


「おど…」

きっとエヴァン侯爵を見て、踊らないと言おうとしたところ、


「陛下!いい機会なのでいってらっしゃいませ!」


アルベルトが言った。

勢いが強く、ギョッとする。

レオリオはイラっとする。


この野郎。

一回ぐらいおどってきてください。

国王なんですから。


目と目で会話をする。


しょうがない。女性達のご機嫌取りでもしよう。

ため息をつきながらも立ち上がる。

そして、ようやくまともにエヴァン侯爵の娘のリリーを見る。


美しい娘だった。

だが、それだけだ。

ニコニコしている。

国王陛下に恐れるそぶりもない。

しかし、母親の様子がおかしかった。

青ざめた表情で喜んでいるようには見えない。侯爵と態度が正反対で気になった。


すでにダンスホールでは何組も踊っており、オーケストラは、ずっと音楽を奏でている。


レオリオは娘に近づき手を取る。

その時にあの香りがした。

目を見張り娘を見る。


相変わらずニコニコしている。

仮面のようだ。


「陛下にダンスの、お相手をしていただける光栄に感謝いたします」


ドレスの裾を持ち優雅に礼をした。


新しい曲が始まる。


「あなたの母親はどうしたんだ?すごく顔色が悪い」

「……さぁ、お母様は今日体調がすぐれないようで… 建国祭だから無理して参加しているようです」

「そうか」


手を取りくるりとまわす。


「何か香水でもつけているのか?」

「いいえ、何もつけておりません」

「この匂い、最近気になっているんだ」

「え?」

「最近、森の湖であった女もつけていた」


ピタッと突然リリーが止まる。

あんなに、張り付いていた笑顔が、消える。


「どうした?」


リリーはハッとする。


「いいえ、なんでもありませんわ、失礼致しました」


ニコニコとまた笑顔になる。


じわりと手に汗が滲む。

レオリオは、それに気が付いていた。


「陛下が私に興味を持っていただけて光栄です。父も喜んでおります」

「そうか」

「ですが、私には出過ぎた真似でございました。夢でも見ているような心地でございます。」


もうすぐ曲が終わる。


「夢は見るもので、現実で叶えるものではございません。今日この日の栄光は胸にしまっておきます。」


曲が終わる。

動きが止まる。

目が合う。

不思議と、リリーの青色の瞳が薄緑に見えた。


「今日のこの時間のことはお忘れください」



リリーは、自分の顔を隠すかのように手のひらを顔の前にだし、レオリオに向けた。


「お相手いただき、ありがとうございました」


これで永遠に、さようなら



レオリオの頭に声が聞こえた。


あの日の女の声


盛大な拍手がおこっているが、よく聞こえない。


リリーは皇帝陛下に深々と礼をして去っていった。



そして、母親の元へ行き、2人で姿を消した。


皇帝陛下は、あれよあれよと次は我こそはとダンスを申し込んでくる貴族達の波に囲まれた。

まぁ、いいかと。

何人か続けて踊ることにする。

別に誰でもよかった。

踊るなんて大したことない。


王子の時も、開かれたパーティーで知らない令嬢と踊ったりした。


だが、あまりにも続く為、アルベルトがとめにはいった。


レオリオはなんだか不思議なかおをしていた。


「陛下?どうかされましたか?」


「……」

頭の中の記憶をずっと辿っていた。

何か何かが引っかかっている。


「なんでもない、行くぞ」


貴族たちの視線を無視して会場を出る。

アルベルトは何が何だかわからず、とりあえず付き従っていった。


***


「侯爵様ったら、何を考えているのかしら…」


休憩室でエヴァン侯爵夫人が不安げに歩き回る。


ソファに腰掛けたリリーは、先程までの笑顔を消して無表情で夫人を見つめている。


「夫人」


「なっ、何?」


「国王陛下は危険と判断しました」


「どうして?どうしたの急に」


「これ以上、リリーは続けられない」


真っ直ぐに夫人を見つめる。


「えっ、そんなこと言わないで?!!お願いよ!」

「大丈夫。私も、責任をとりましょう」


すっとリリーは立ち上がる。


「どうして?どうして??お願い、リリーがいなければ!リリーがいなければあの人はおかしくなってしまうの!

だからお願い、まだ続けて?お金ならいくらでもはらうからっ」


がくがくとリリーの体を揺する。


冷たい眼差しで夫人を見下ろす。


「大丈夫。あなたの、望みは叶えましょう」


すっと夫人の頭に手をかざす。


さようなら



***


建国祭が終わる。

フィナーレは城から空に上がる灯籠だ。


海に溶ける特殊な紙で作られた灯籠。

願いを込めて空に飛ばす。

風が山から海へ吹くこの時期に行われる。


海に放たれた灯籠がやがて落ち、海に溶ける。

そして願いが叶うとされる。



空に大量にはなたれた灯籠を見て、人々が感嘆の声を上げる。

執務室からその光景をレオリオも見ていた。


「うわぁ、綺麗ですね!陛下!!」


アルベルトが、書類片手に声を上げる。


「……」


結局、パーティーの参加はあれでやめにして執務室で仕事をしている。


レオリオは今日の、あのエヴァン侯爵令嬢を思い出していた。

あの、違和感。

先日のガリオール男爵に感じた違和感と同じだった。

匂いも同じことに気がついた。

何が起こっているんだろう。


「アルベルト」

「はい、陛下」

「エヴァン侯爵令嬢について調べろ」

「え?」


アルベルトが不思議な顔をする。


「エヴァン侯爵には息子しかいませんよね?」

「何を言ってる?今日俺とダンスした令嬢だぞ?」

「えっ?!どの御令嬢ですか???」

「一番初めに踊った令嬢だ」

「一番は…あれはロベイン公爵令嬢でしたよ?」

「え?」


話が噛み合わない。

コイツはどうしたんだ?


「確認はしてみますが、エヴァン侯爵には娘はいないはずです…」


「……」


父親や兄弟と殺し合いをした冷徹王子と呼ばれた男がぞくりと背中に悪寒を感じるなんて。


「詐術か?」

ぽつりと呟く。

そんなものがこの世界に存在するのか。


あの女を探さねばならない。


***


空にうかぶ灯籠たち。

ふわふわと願いとともに飛んでいく。


郊外の墓地に、1人魔女が佇む。


灯籠を一つ持っている。


「かわいそうな侯爵令嬢」


墓地の石に魔法で名前を刻む。

名前がぼやっと光り輝く。


「でも、私はあなたのことを覚えているから」


ふわりと灯籠を浮かべる。


「リリー・エヴァン」


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