終章
「ゼオ!これみて!」
「姫様、素晴らしいですね」
真っ直ぐな長い黒髪をポニーテールに結い上げた赤い目の小さな少女が得意げに笑う。
その指の先にはふわりと浮かぶコインがある。
「うわ、もうこんなの出来るのか?」
ガチャリと、グレンが現れる。
魔塔の魔法の研究室。
「お・じ・さ・まっ!!!」
少女はグレンの登場に喜び、飛びつく。
「うわっ!びっくりした。レイリー!本当に俺のこと好きだな」
「うん!レイ、おじさまが大好き。だってかっこいいもん」
「って、おまえのパパと顔変わんないけど…」
「だって、パパは魔法使いじゃないもの」
「そこ?」
ゼオから見たらどっちも変わらない特徴をしている。
レイリー。
レイリシア。
レオリオとエルドの娘で、今5歳である。
黒髪に赤目の皇室の特徴を強く持って生まれた女の子だった。
だけど、生まれた時から魔力を持っていることがわかり、魔力を扱う練習をしている。
コンコンコン
「はい」
「ゼオ」
「あ、お后様」
エルドだった。
「レイリー、そろそろ行くよ」
「ママ!」
レイリーは母親に抱きつく。
エルドは娘の頭をよしよしと撫でる。
「お師匠様、姫様の魔法めきめき成長してますね…」
「そうなのよね。皇室の血ってやっぱり特殊よね。不思議。将来はリュベールに嫁がせようかな」
おてんばやんちゃな姫の将来をすでに案じている。
すっかり母親になってしまった。
「ママ、お腹すいた。ケーキ食べたい」
「あなたはもう少しお淑やかを練習しなきゃね。レディがそんなこと言ったらだめだよ」
「ママだって言葉遣い注意されるじゃん」
「…」
エルドは、昔のままの喋り方で今も暮らしている。
たまにアルベルトが注意してくるが、全然気にしていなかった。
「王様が呼んでるから行きましょうね」
「はーい。おじさま、ゼオ、またね」
ばいばいと手を振る。
エルドと手を繋いで庭園を歩く。
「ママは昔魔法使いだったって嘘みたいだね。今はなんも使えないもの」
「……そうね、嘘みたいな本当の話」
子供に語るには長すぎる昔話だ。
「ママもしゅんかんいどうとかしてたの?」
「してたよ。ゼオとそれで鬼ごっこもした」
「えー楽しそう!私も早くできるようになりたい!」
にこにこ話す。
「でも、今は歩くしかないからふべんでしょ???」
「そんなことない。だって、今はここにいればそれでいいから」
「?」
庭園の東屋に向かう。
エルドは娘にしーっと指を口に立てて見せる。
東屋で寝ているレオリオと、絵本を読む少年が1人。
「ママ」
少年が気が付き、エルドに駆け寄る。
「ママ、パパねちゃった」
「疲れてるのよ」
よしよしと、息子の頭を撫でる。
レイリーと同じ風貌。
黒髪に赤目のかわいい少年。
レイリーの弟で皇太子のルータスだ。
「ルー、何読んでたの?」
「魔法使いのえほん」
「これ私もスキー」
レイリーがパラパラとめくる。
「ねぇ、ママ、なんでママの名前はシエルなのに、みんなエルドってよぶの?それ、絵本の魔女の名前だよね?」
ルータスが質問してくる。
「……」
あぁ、この、絵本なのか。
昔、アルベルトが言っていた。
エルドは見たことがなかった。
「ママのあだ名だよ」
むくりとレオリオが起きる。
「ママは昔、魔女だったんだ。名前がないって言うからエルドって俺がつけたんだよ。でも本当はシエルっていう名前だったんだ。」
そんだけ。
ははっと笑う。
「こんなところでまた寝て。ルーが誘拐されますよ」
「この2人には何重にも保護魔法をゼオにかけさせてるから。触る前にふっとばされるさ」
なのでアルベルトも騎士も連れていない。
「さて、腹減ったな」
「パパ!レイ、ケーキ食べたい!」
可愛い娘のおねだりに顔が緩むレオリオ。
よしよしと頭をなでる。
「メイドを呼んで、準備させるか」
「やったぁ」
「ぼくもたべる」
レオリオは立ちあがり、娘を抱き抱える。
「エルド、行こう」
手を差し伸べる。
ふわりと自然にエルドは微笑み、手を取る。
また、本を大事に抱き抱えた息子の手を反対の手で握った。
魔法はいらなくなった。
だって、会いたい人が会える場所にもういれるから。
だけど、魔法使いの私も忘れない。
この街にいた、ピンクの髪の魔法使いのことをずっと忘れない。
終わり




