4-3
執務室まで走り、バタンと扉をしめる。
はぁ、と、いきをつくと、まじまじとその令嬢を見た。
「……エルドか?」
薄い金髪の長い髪をハーフアップにゆいあげており、瞳の色は薄い緑。
煌びやかに飾っているが、その顔立ち、声、
背格好も同じだった。
その無表情も。
「はい」
返事をした。
「お久しぶりです。王様」
見上げてくる表情は無表情だけど、少し赤みがかっていて気持ちが感じ取れるくらい温かみがある。
レオリオはエルドの手を掴んだまま、はぁーと片手で自分の顔を覆う。
「おまえ、俺がどれだけ探したかわかってるのか?!」
思わず怒鳴る。
「すみませんでした、最後に言ったんですけど、聞こえてなかったんですね」
「え?」
「また、すぐ会いに行きますって言ったんですけど」
けろりと言う。
最後の魔法使う時だろうか。
「魔法の音がデカくて聞こえなかったから」
「それは申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げる。
「もともとのエルドが転生するはずだった器に入っただけですよ。ですが、それから大変でなかなか会いに来れませんでした。
この体、ずっと寝たきりだったからうまく動かなくて。
私もう魔力がないので魔法使えないから動けるようになるまで時間がかかりました。
あと、最初記憶がなかったのですが、何ヶ月か前に突然思い出しまして」
妖精の贈り物とは、もしかして記憶のことだろうか?
「なんで、あんなことをした?」
切なげにエルドを見下ろす。
エルドはまっすぐレオリオを見たあと、俯く。
「…王様に迷惑をかけたくなかった。そして、あの私はもう、王様に迷惑をかけてまでそのまま生きる気力がなかったんです。何百年も、何も得ることもなくただのうのうと生かされた。リアーナとして生きた人生も、その後の人生も、エルドとして過ごした日々も、もう終わらせたかった。」
「だけど」
「リュベールの魔女にその計画を持ちかけた時、私の片方の魂のことを教えてくれました。片方が中途半端な形でこの世界にいると。それがファロン令嬢であること。それを聞いて、なぜか嬉しくなりました。」
「なぜだ?」
「死んだらその体で王様にまた会えるかもしれないと思いました」
気まずそうに目を逸らす。
「…王様にまた会いたいと思いました」
顔がみるみるうちに赤く色づいていく。
「契約違反をして、あんな形で私がいなくなって、切り裂きたい程怒っているんではないかと心配したのですが」
「怒ってる相手に会いにくるのか?」
ついつい、からかう。
「…契約を破ったことを謝りたかったんです」
随分と、人間らしく素直になったもんだ。
思わず吹き出してしまう。
「怒ってない。やっと俺に会いにきてくれたからそれで精算だ」
「そうですか」
そうあえば最初、会いに行かなかったから訪ねてこられたんだった。
レオリオは美しいドレス姿のエルドを改めて見て、口を開く。
「新しい生活はどうだ?」
「そうですね。魔法が使えないので移動も大変ですし、食事もきちんととらなければならなくなりました。両親と兄弟がいる生活が初めてで新鮮です」
「そうか」
レオリオが微笑む。
「でも、やっぱり」
エルドが下を向く。
髪の毛にさしていた花を抜き取る。
「魔法使いのようにすぐ会いにいけないのはもどかしいですね」
あの頃はどこへでも瞬間移動できた。
好きなところへ。
エルドはスッと花をレオリオに渡す。
「赤いフレジアだ。…おまえ、これの意味知らないだろ…」
レオリオが怪しい目でエルドを見た。
「…え?何かあるんですか?」
きょとんとレオリオを見つめる。
レオリオは顔を赤くして、照れながら言う。
「…"私を愛してください"だそうだ」
「!?」
知らなかった。
そんな意味があったなんて。
「あぁ、だからさっきいろんな令息がこっちを見てニヤニヤしてたんですね。恥ずかしい…」
気まずいので視線をそらす。
「懐かしくてつけてただけだったんですが…でも、やっぱりこれは王様に受け取ってほしいです」
「!」
すっと、レオリオは花を取り、エルドの手を握る。
「エルド、俺とまた契約をしてほしい」
「魔法で契約はもうできませんよ」
「違う、魔法じゃない」
レオリオは跪くと、エルドを見上げて言う。
「俺と結婚して、ずっとそばにいてよ」
エルドは唖然とする。
一国の王が跪くなんてありえない。
だけど、この国の王様は王様らしからぬ王だった。
「王様?」
「なんだ、契約しないのか?」
エルドは空いた口が塞がらない。
だけど、その言葉に勝手に体が反応していて瞳からぽつりと涙が落ちた。
「???」
ぽろぽろ落ちるそれを止められない。
「エルド?」
勝手に流れるそれをぬぐいもせず、エルドは口を開く。
「結婚なんて、王様は本当に勝手ですよね」
エルドは、レオリオに満点の笑みを向けた。
レオリオはその笑顔に胸が締め付けられる思いだった。
無表情の彼女の笑顔、ずっと見たかった。
嬉しくて泣きそうになる。
「返事は?」
「もちろん、契約します」
レオリオは微笑む。
立ち上がるとエルドを強く抱きしめた。
エルドもまた、その広い背中に手を回した。
***
パーティー会場では、国王陛下が令嬢をつれて出て行ったことで話が持ちきりだった。
アルベルトは対応に追われ、ファロン辺境伯も戸惑っていた。
そして、その後帰ってきた国王陛下によってその場が収集され、滞りなくパーティーは閉会となった。
夜、エルドは東の塔のあの部屋に足を運んだ。
今は誰も使わなくなったその部屋にいくと、しゅんと魔法使いが現れる。
「ゼオ」
「…お師匠様!」
見ないうちにエルドよりもずっと背が伸びた彼を見上げる。
「泣いてるの?」
「……また、お会いできて嬉しいんです」
「あら」
「お別れも、感謝の言葉も言えてなかった。俺をあの場所から連れ出してくれたのはお師匠様だったし、その後ここで魔法を覚える事を決めたのもお師匠様がきっかけだった。ありがとうございました」
涙を堪えている。
「ゼオ」
「はい」
「おっきくなった」
「…ははっ」
ゼオはくしゃりと笑う。
「俺、もうすぐ16歳ですよ」
「そっか」
エルドはゼオに謝る。
「お師匠様…」
ぼろりと、ゼオの目から涙が落ちる。
おっきくなってもまだまだ子供だ。
「私はもう魔法使いじゃないから、いろいろと助けてね」
無表情でお願いをする。
相変わらずだった。
「当然です。」
ゼオは笑った。
コンコンコン
「ファロン伯爵令嬢様、いらっしゃいますでしょうか?」
「はい、どうぞ」
ドアを開けてメイドが入ってくる。
「国王陛下がおよびです…」
メイドは頭を下げて挨拶をした後、ハッとした。
「…」
「メリル、久しぶりね」
入ってきたのは以前エルド付きだったメリルだった。
メリルは両手で口を覆い、驚いた後、泣き出した。
「エルド…さまですか??」
「うん、そう」
けろりと答える。
するとメリルは顔全体を手で覆い、俯く。
エルドがいなくなった日、詳細は語られなかったが、ゼオから城から消えたことが伝えられていた。
突然主人の失踪にぽっかりと心に穴が空いた気分だった。
エルドは黙ってメリルの背中をさする。
「また、よろしくね」
メリルは顔を上げて、あの満面の笑みを見せた。
エルドもまた、薄く笑った。
***
半年後
アース国の国王陛下がようやく結婚をした。
国を上げてのお祝いに、街全体が歓喜に沸いた。
お相手は、眠り姫の異名を持つ美姫で、パーティーで国王陛下の心をいとめたと噂された。
そして、それから5年がたった。




