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4-2

ガタンガタンと馬車が揺れる

長かった旅もようやくゴール地点だ。

乗っているだけでヘトヘトになったが、仕方がない。


「その花。どうしたんだ?」

父親が娘に声をかける。


「昨日泊まった宿舎の近くの湖で見つけたんです」

手に持った赤い花を胸元によせる。

長い薄い色の金髪がサラサラと風になびいた。


「湖まで行ったのか?」


「眠れなかったので」


ふふ、と娘は薄く微笑み、その花を髪に刺した。


***

城内は慌ただしく動き回る使用人で溢れていた。


昨日から、城に各国からアース国王の誕生日祝いのために集まっている。

 

近隣国の王族や、主に姫君が参加する。

未だに結婚をしない国王陛下の妻の座に座るために。


「アルベルト、はいこれ」

「なんですか?」


「西の辺境伯からの報告書の返事」

「…陛下…」


アルベルトが眉間に皺を寄せている。


誕生パーティーに合わせてきらきらしく着飾っているレオリオは、その格好でいつもの仕事をしていた。


「もうパーティーの時間ですよ、そんなギリギリまで仕事してどうするんですか」

「おわらないだろうが」


レオリオがムッとしている。

目の前に積まれた決済書達は、今日の準備などのために未決済でそこに置いてある。

アルベルトがそれをチラと見てため息をつく。


「今日、花嫁をきめるんでしょう?」

「そうだな」


正直どうでもいい。

でも、決めなければならないので目星はつけている。


「リュベールの第一王女でいいかな、と」

アルベルトはずっこける。


「あってもいないじゃないですか」

「一番無難だし、プラスかな、と」

「そういう選び方ですか?」

「ダメか?」


ははっと笑う。

パーティーは楽しくもない。

仕事しているか、庭園の東屋で寝ている方がマシだった。


「今日、たくさん姫君がいらっしゃるので踊ってみたりお話しされてちゃんと確認してくださいね」

「そうだな」


億劫なパーティーに、そろそろ行かなければいけない。


スッと立ち上がり向かう。


「アルベルトに心配かけちゃダメだな」


ぽんぽんとアルベルトの肩を叩く。


アルベルトもわかっていた。

主君が誰を思っているかなんて。

だけど、背中を押さなければいけない。

それが役目だ。


長い回廊を抜けて、パーティー会場へ進む。

招待客はもうすでに大半集まっていた。


「国王陛下レオリオ・ドゥベール・ド・アース様ご入来です」


大きな扉が開き、全員が頭を下げて迎える。

カツカツと王の椅子まで進み腰掛ける。


「顔をあげて、今日は私のために集まってくれて感謝する。皆楽しんで」


ふわりと微笑む。


貴族一同顔を上げたあと、深く礼をする。


パンパンと王が手を叩き、音楽が始まる。

貴族達がまた、会話を始め、我先にと王へ近寄り挨拶をしにくる。

当然、国王目当ての令嬢達もやってくる。


レオリオは外面良く笑顔で、令嬢を迎える。

いつも通りだった。


そして、1人の令嬢が近寄る。


「国王陛下」


「初めまして、リュベール王国第一王女、セルビア・ル・ラ・リュベールと申します」


優雅にお辞儀をする美女。

全体の色がリュベール独特で、薄い水色の髪に薄ピンクの瞳。肌が白く幻想的。

それを際立たせるふわりとしたドレスを着ている。


レオリオが花嫁候補に選んだ第一候補だった。


「初めまして。今日は遠い所お越しいただきありがとうございます」

「ふふ、遠いですが、魔法で一瞬でした。国王陛下、お誕生日おめでとうございます」


可愛く笑ってみせる王女。

レオリオも微笑む。


「今日は妹も連れてきたのですがあいにく第四王子様のもとへそそくさといってしまいました。申し訳ありません」

「いいですよ。第三王女は弟と年も近く話も合うのでしょう。」

「王子がリュベールにいたときも仲良しだったんですよ。2人が並ぶとすごくかわいくて」

「そうですか」

「そうそう、ダリア、ご挨拶なさいな」


ビクッと後ろにいた銀髪の魔法使いが反応する。


「お久しゅうございます。国王陛下、お誕生日おめでとうございます」


「あぁ、ありがとう」


ダリアは表情にはださずひそかに怯えていた。

レオリオから発せられるオーラが恐ろしかった。

何もかも知っていると顔に書いてある。

だけど知らんぷりしてやるからな。

と…

そんなダリアとは反対に王女はふふふと意味ありげに笑っている。


「王女様も魔法使いなのですか?」

「ええ。リュベール王家は全員魔法使いの血筋です。皇族特質の魔力で髪の色がこんな色なのですよ」

「そうでしたね」

「陛下、もうたくさんのご令嬢と踊られたでしょうが、私ともお相手いただけますか?」

「…はい、喜んで」


社交辞令のような笑顔や態度。

やっぱり何とも、思わない。


流されるように過ごす。


音楽がどこか遠くで流れているようだった。


どこかの、令息達が集まって話し声が聞こえる。


「あっちにすごい美人がいる」

「今到着した、ファロン辺境伯令嬢だろ?」

「そうだ。あの、眠り姫だ。生まれてからずっと起きている時間より寝てる時間が多いって噂されていたあの令嬢だ」

「まさか会えるとは…」

「見たい見たい」


ざわざわと、会場が騒ぐ。


「国王陛下、お会いしてみたらすごく素敵ですね」

「お上手ですね」

「ふふ。私、国王陛下にお話がありまして」

「?なんでしょう」

「陛下と魔法使いの話です」

ぴくりと反応する。


「私はリュベールの王女なので、当然ダリアからラグナ国との一件の報告をきいて把握しております。アース国の魔法使いのした事は正直なところ最善でした」


セルビアが遠い目をしながら話す。

レオリオは思い出し、言葉が詰まる。


「だけど、いくら国のためとはいえ、私もダリアも、我が国の噂好きの妖精達も、魔法使いの処遇を憐れみました。

あのものはリュベールの血も流れていますから」


レオリオは訝しげな目でセルビアを見た。


「なので妖精達の力を借りて、魔法使いに特別な贈り物をしました」

セルビアはおくびもせずににっこりと笑う


踊りながら、誰にも聞こえないように話す。


「贈り物?」


なんだこの女はと、どんどん苛立ってくる。

だが、どういうことだと、話を聞く。


「あなたの大事な魔法使いは、魂が二つに分かれていたことを知っていましたか?」


「…知らない。そんなことがありえるのか?」


王女は微笑む。


「どのタイミングかは確定できかねますが、彼女にかけられた魔術と、彼女の魔力が反発したのが原因でしょう。その片割れは転生し、残った半分の魂はこの土地に縛られてずっと生きることとなりました。

さて、問題です。

縛られた魂が解放されたら、その魂はどこに行くでしょうか」


いつのまにか、音楽がやみ。ダンスが終わっていた。


レオリオはぽかんと固まっている。


「答えは、あちらにありますよ」


セルビアは優しく指を指した。


レオリオは呆然としたまま、その、指さす方へ歩き出す。


貴族の人混みをかき分けて進む。


ある、人だかりがみえる。


クン、と知っている匂いがした。


どくどくと心臓が跳ねる。


その先にいたものを目に入れた瞬間、思わず腕を掴んでしまった。


「陛下!?」


ザワリと周囲が驚き、頭を下げる。


「国王陛下、お久しゅうございます。ビクトール・ファロンおくらばせながら参上いたしました。お誕生日おめでとうございます。

……ところで、なぜ、私の娘の腕を掴んでおられるのでしょうか………」


ファロン辺境伯は、冷徹陛下を前にビクビクしながら挨拶をする。


「………」


レオリオが掴んでいた令嬢が、レオリオをじっと見た。


「国王陛下、ファロン辺境伯子女の、シエル・ラン・ファロンと申します。」

掴まれていない方の手でスカートを持ち上げて礼をする。そして…


「…少しお痩せになられましたね。王様」


レオリオは目を見張る。

知っている声色。

王様と、彼女だけが呼ぶ呼び名。


「お食事はきちんとされてますか?"食事は人間の生きる活力"らしいですから」


たまらず、手を掴んだまま走った。


「陛下?!!!」


周りが唖然と見守る中、追う暇もなくあっという間にどこかへ連れて行ってしまった。


残された辺境伯は呆然としている。


「伯爵様?令嬢は陛下と何かご関係が?」

「ただならない様子でしたが」

「わっ、私は何もしらない……

私が聞きたい……」


突然の出来事に伯爵も他の人間もただ唖然とするしかない。


「ファロン伯爵、陛下の事は私が確認いたしますゆえご歓談をお続けください」


さっと登場したアルベルトがその場をフォローする。


正直アルベルトも驚いていたが、令嬢の顔を見てまさかと思っていた。


すると、アルベルトの背中をツンツンと突かれた。


驚き振り返ると、そこに、リュベールの魔法使いのダリアがたっていた。


「ダリア様」

「お久しぶりです」


「まさか、なにか知ってらっしゃるのですか?」

ダリアは少し気まずそうな顔をしながら笑った。


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