3-12
バサバサと、旗が揺れる。
ラグナとアースの国境。
広大な草原が広がる。
雰囲気に似合わず晴れ渡った日。
先にそこにいたのはラグナだった。
ラグナ王と、ダンが待つ。
後ろには皇室騎士が数名控えている。
「うっ」
ダンがふらつく。
「また頭痛か?朝も治癒してやったのに」
「リアーナが来ているからかな」
呪いの権化。
もうすぐ。
馬のかける音が聞こえる。
「おかしいな。リアーナの魔力が感じられない」
そして、何か駆けてくる馬の姿が視界に入る。
「待たせたね」
馬から降りて声をあげたのは、アース国王陛下だった。
その後にアルベルトと、騎士が数名。
そして、ゼオと
「アース国王陛下。ご足労いただきありがとうございます。ラグナ王国、国王のビルド・ウィルソン・ラグナです。どうぞ、お見知り置きを。」
レオリオは、にっこりと笑って握手をする。
「よろしく」
「ところで、後ろに呼んでもいない客が紛れ込んでいるんじゃないかな?」
さすが、ラグナ王。
特別な魔力を持つ魔法使いの一面も持つ。
ふわりと現れたのは、ダリアだった。
「お初にお目にかかります。リュベール国皇室所属主席魔法使いのダリアと申します」
「何故、リュベールの魔法使いがいる?」
「この問題は3カ国の問題の為、リュベール王から直々に命令され、ここにおります。私は国王陛下に絶対的な信頼を置かれているので。でも私だけじゃ物足りないと言うなら映像でもなんでもここに召喚いたしましょう」
ダリアは左手の上にくるくるとリュベール王の書簡を出して提示する。
「聞いていない」
「文は送りましたが…リュベールからなのでまだとどいていないのでしょうか」
すみません、といった顔をする。
「3カ国とはどういうことだ?」
「リアーナルイス公爵令嬢については、我が国も参加しなければならない案件でしょう?」
「…」
ダンの表情が固い。
レオリオが口を開く。
「こちらでも公女についての調べは付いている。公女への虐待、私利私欲の為の処刑、また黒魔術への利用目的。全て黙ってるわけにはいかない」
「公女は我が国の民であり、罪人である。返してもらおう」
「公女はそもそも、リュベールの民であるそうだが?」
「……」
ダンが口を挟む。
「公女は私の妻である。よって、ラグナのものだ」
「母親はリュベールから誘拐した魔女でしょう?それに、その婚姻は家同士の物。ルイス家はとうの昔になくなっているわ」
ダリアが笑う。
「ふざけるな」
バチバチとダンから雷光がはしる。
それは瞬く間にダリアへ向かう。
ダリアは顔色を変えずに自身と国王陛下の周りにシールドを貼る。
「だめじゃない。国王陛下の御前なのに」
挑発的に視線を送る。
「それに、それ、辛そうね」
クイッと指を回すと、ダンが急に苦しみ始める。
額に呪いのマークが浮かぶ。
「くっ…!!!」
ダンは頭から額に汗をかく。
「リュベールの魔女よ。あまりいじめてくれるな」
ラグナ王が、ダンの頭に手を乗せて魔法を使う。
ダンの顔色が良くなる。
「リアーナはどこだ?」
「引き渡せないので連れてきていない」
レオリオが涼しい顔で言う。
「……」
「我々が勝手にアースへ引き取りに行ってもいいんですよ?」
「それは許されないだろう?」
「何故?我が国のものだ」
「彼女を利用する為のくせに」
ピクリとラグナ王が反応する。
「…そんなことはない。」
「皆わかっているのですよ?魔獣の門のことは」
「…それはそれは。説明が省けましたね。
そもそも、話し合いをするのがまず無理ですね」
ユグナ、と声をかける。
ダンはリュベールの魔女を狙う。
「これは、宣戦布告ということでよろしいですか?」
ダリアは微笑む。
ラグナの背後にいた騎士達も魔法で攻撃してくる。
「なんだ、みんな魔法使いなの」
それでも余裕なダリア。
アースの国王陛下の前には、ゼオとアルベルトが前に出て守りを固める。
ゼオが国王陛下の周りに結界をはる。
「ラグナはアースとリュベールを敵に回したということですね」
アルベルトが話す。
「しょうがない」
はぁ、とレオリオがため息をつく。
「あれ?でも、ほら」
ラグナ王が微笑む。
「ちゃんとついてきてるじゃないか」
魔力の光が現れ、弾ける。
ラグナ王とレオリオの間にエルドが立っていた。
「きてくれると思っていたよ。君が来ないとダメだよね」
ラグナ王は両手を広げて喜ぶ。
「リアーナ…」
ダンも彼女を見つめる。
「……」
「ホラ。君がそっちにいるからこんな争いが起きる。君はもともとラグナの公女だ。自分の足でこっちは来るんだ。」
エルドは、黙ってラグナ王を見ていた。
相変わらずの無表情。
何を考えているのか。
「おい!エルド!!!なんでここにいる?!」
誰だ教えたのは!!
とレオリオが怒る。
「ユグナにも、君が殺した家族や皇女たちも、君にはラグナで罪を償ってほしいと思っているよ」
「リアーナ、こっちへ来い」
ラグナ王とダンがエルドに言う。
「…」
エルドが、じっとダンを見つめる。
そして、ダンが魔法を使う。
巨大な魔法陣を展開し、呪文を唱える。
「…何をする」
エルドとダンだけ、別の空間に移動した。
グニャグニャと周りが不思議な紋様の亜空間。
「話をしよう」
「……公爵様」
「旦那様ってもう呼んでくれないのか?」
かつて夫婦として過ごした短い日々を思い目を細める。
「リアーナ。ずっとずっと探していたよ。あの日、君を助けられなかったことをずっと後悔していた。皇女のせいで死刑となった君を」
「公爵様は皇女様とグルだったじゃないですか」
はぁ、とエルドはため息をつく。
「違うよ。彼女は君に嘘ばかり吹き込んでいたんだ。」
「どちらでも、今はいいです」
「よくない。もう一度、僕と一緒にいてくれ。やり直そう。ラグナへ帰ろう」
「ラグナへは行きませんし、あなたとも一緒にはいません。」
「君の不死の魔術を解放すると言ったら?」
ピクリと反応する。
「僕と一緒にラグナへこい。そうしたら不死の呪いを解除してやる」
「…」
エルドは無機質な目で見る。
できないくせに。
額にある魔法陣が見えている。
あの時に無意識に発動した呪いだ。
相当苦しいはず。
本当は自分を殺して手っ取り早く呪いの解除をしたいはず。
だけどそれが出来ないから躍起になっているのだ。
ふぅ、とため息をつく。
「どうだ?」
ダンは何かに気がつく。
昔から何年経っても変わらない無表情の中、
何かが違った。
「私は251年も生きました。今まではそれがただ無意味としか思っていなかったけれど、ようやく、人生の中で良かったと思えることが一つだけできました」
エルドは、両手のひらを向き合わせ魔力を溜める。
空間解除。
ピカッと光ると元の場所にいた。
「リアーナ?」
手を差し伸べる。
エルドは振り返り、レオリオを見た。
「…王様」
「おい!エルド。こっちに来い。そんで城へ戻れ!言うことを聞け!」
レオリオが、エルドに近づく。
腕を掴もうとする。
すると、するりと離れた。
「王様…」
エルドがぽつりと呟く。
まっすぐにレオリオを見ている。
何かを喋っている。
魔法が発動する音で聞こえない。
レオリオはハッとした。
エルドは薄く、微笑んだ。
ーーーーーーー契約
「もしもその忠誠に反したときは、私はこの生を終えましょう」
ーーーーーー
エルドは、レオリオを攻撃した。
ドォンと激しい閃光が落ちる。
パチパチと、残った小さな閃光が光る。
レオリオがいた場所に大きな穴が空いている。
「…リアーナ!アース王を攻撃するなんて」
ダンが喜ぶ。
そして、ラグナ王は唖然として目の前の穴を見つめていた。
「アース王が、死んだ?」
砂埃で前が良く見えない。
「…いや、あそこ」
ダリアが全員移動させていた。
レオリオは不思議な赤色と青色の混ざる光を纏っていた。
「リアー…」
ラグナ王は、リアーナを見て驚く。
頭からサラサラと崩れていた。
そして、ズシャッと体が一瞬で崩れて、着ていた服だけがそこに残る。
「何故だ?」
ダンが驚愕の表情でそこを見つめていた。
「リアーナは、死なないはず…」
愕然としているのはダンだけだはなかった。
ラグナ王も、皆そこを見つめていた。
「フン、どうせ、すぐ生き返る」
その、束の間。
ザクッと血飛沫があがる。
ダンはその場に崩れ落ちる。
「陛下!!???」
そして、砂となって消えた。
ラグナ王は腰を抜かす。
隣に、化け物のように立つレオリオがいた。
「陛下あぁ!!」
力いっぱい叫んだのはアルベルトだった。
「お待ちください!!ひとまず落ち着いてください!!!」
放たれるオーラが禍々しい。
アース国王に伝わる魔力が、放出されている。
これは、前王を殺した時と同じオーラだった。
「兄上」
そこに、グレンが現れた。
「兄上、いったん帰りましょう」
ラグナ王の前にグレンが立っていた。
「……
そうか…」
すうっと、素のレオリオに戻る。
「ラグナ王、二度とアースに関わるな」
そう、言い残す。
ラグナ王らは悔しそうに顔を顰めたが、ユグナがもういない為引かざるを得なかった。
「撤退だ」
「はい」
シュンと、一斉に消えた。
そして、
エルドが消えた後の砂の前に座り込んでいるのはゼオだった。
「おししょうさま」
呆然と見ていた。
あっという間の出来事で頭が追いつかない。
「……死なないはず」
レオリオが見下ろす。
「エルドは、死なないから、きっとすぐ現れるはず」
砂がサラサラと風に舞う。
全てが流れていくまでそこで待った。
ずっと、待った。
待てども待てども、現れなかった。
前に一度死んだのを見た時はすぐに生き返ったのに。
スッとレオリオが立ち上がる。
「帰るぞ」
「国王陛下…?」
「一旦、帰るんだ」
ここで待っていてもしょうがないことに、気がついていた。
ぷつりと、何かの糸が切れたような感覚があった。
ゼオは立ち上がり、移動魔法を使う。
顔は下を向いたままだった。




