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3-7


もしも記憶を戻したくなったら、これを飲めばいいわ


長い銀色の髪

ふわふとした、甘い声。

爪の長い

魔女



エルドはパチッと目を覚ました。

「………」


はっきりと、思い出した。

こんなにはっきり思い出すことなんてない。


あの魔女。


***


「お師匠様がいない?」

「そう。今朝見たらもういなかったの」

「朝いないことはなかったのにな…」


ふむ、とゼオが一人で朝食を食べながら首を傾げる。


「第四王子殿下に確認してみるよ」


現在、東の塔の管理は第四王子が担当している。後で謁見申請をしようとシャリっとリンゴをかじる。


「俺がなんだって?」


気がつくと隣に座っていた。

ゼオはビクッと驚く。


「おはようございます!王子殿下!!」

「おはよ」


ふあ〜

とあくびをする。

長い黒髪がさらりとおちる。

今日は結んでいない。

なぜ伸ばしているのか尋ねたことがあったが、兄と区別する為と言っていた。


「どうしたの?」

「お師匠様が朝からいなくて」

「へぇ、珍しいの?」

「いつもなら、メリルに行き先だけは何となく言うんですけど」

「……」


グレンは、魔力の追跡を試みてみる。

あれ?この方角は。


嫌な予感がした。

だが、


「飯食ってから考えよう」

「そうですね」

「メリル、お茶」

「はい」


***


リュベール王国

人間と魔法と妖精の国である。


リュベールとラグナは相反する国として認識され、その間にある大国がアースである。

どちらの国もアースに比べてだいぶ小国であるが、何千年もの魔法の歴史があり、それが当然として生活に根付いている。

アース国の西に位置するリュベール国。

貿易や、旅行客も多い。


リュベールの、首都バドの東に位置する森。

パルムの森と呼ばれている。

妖精が生息しているその森に、何百年も昔から住つく魔女がいた。


妖精が住む清らかな森。

妖精の居住区とは離れた場所に立つ二階建ての茶色の屋根の家。


2階の窓からキラキラと光を落としながらピンクと緑の髪の妖精が入っていく。



「ダリア、起きて」


「うん?」


銀髪の女はピクリとするが、そのまま動かない。


「昨日、街のバーでめちゃくちゃ、飲んでたらしいよ。振られたんだって」

「あれ?あのいい感じの男の子?」

「そう。顔がタイプって言って付き合ったけど、二股かけられてたらしいよ」

「えー最低」


くすくすと、噂好きの妖精が話す。


「うるさいわね、ほっときなさいよ」


布団から顔だけ出して顔馴染みの妖精を睨む。


「あっ、頭がずきずきする…」


二日酔いの頭でくらくらする。


治癒魔法をかける。


ようやく布団からでて、水を飲んだ。


「こんな朝早くどうしたの?」

「全然早くないけど。」

「うるさい」

「可愛い女の子の魔法使いが来てるの」


ダリアはふわふわのウエーブの髪をとかしながら聞く。


「可愛い女の子?」


「そう。ピンクの髪でね、小さくて可愛いの。でもすごく魔力が強いのよ」


「!」


魔力に気がつく。


確かに、外にいる。

窓から顔を出すと、外の切り株にちょこんと座っている女の子がいた。


こちらをじっと見ている。


「中に入ってって伝えてくれる?」


ダリアは服を着替える。

下に降りて魔法でお茶の準備をする。


ぎぃ、と玄関のドアがあき、客が入ってくる。


「いらっしゃい。あなた、この前会った魔女ね」

「はじめまして」


無表情な魔女、エルドがそこにいた。


「とりあえず、座っていいわよ」

「…」


言われるがまま、座る。


「こんな遠いところまでくるなんて驚いた。」

「…突然で申し訳ありません」

「気にしないわ〜 はいこれ。リュベール特産品のお茶」


カチャと、目の前にティーカップが置かれる。


「私は、リュベールの魔法使い、ダリュベリア。ダリアって呼んでね」

「…はい。私は、エルドです」


ニコニコとダリアが笑う。

木のテーブルに向かい合って座っている。


「あなたに消してもらった記憶の場所を教えてもらいに来ました」

「え?」

ダリアが大きな眼をパチパチさせて驚く。


「記憶を消した?」

「200年前、アース国でたまたま会ったあなたに、記憶を消してもらいました。その時、取り除いた記憶の玉をどこにやったかわかりませんか?」


ダリアは、ふむと長い爪の指を顎に当てて考える。


200年前

アース

そして、この混血の少女


「……」


この、なんか無気力でやる気なくて会話する気ない感じ。


「!!!!!あ、思い出した。ラグナの公女だ!」


ダリアは勢いよく手を叩く。


「そうよ。あの時のラグナの指名手配犯だわ。風貌が変わっててわからなかった!」


「…」


「そう、そうよ」


ダリアの目がぼやっと光る。

混血や、強力な呪いより何より、この子の魂がおかしかった。

昨日見た時は感じ取れなかったけど、今ははっきりとわかる。

魂が通常の人間より小さい。

まるで半分無くなったように。


相変わらずの大きさで、おそらくそのせいでこの無気力さなのだろう。

生きる力が半分しかない。

なのに魔力だけは大きくて、ほんと苦労しているだろうに。


「エルドっていったっけ。名前変えたのね。まさか、生きて会えるなんて思わなかった。どうせすぐラグナに捕まるだろうなんて思ってたから。忘れてたわ」

「…それはどうも。私はその時のことをあまり覚えてなくて。あなたのことだけ、思い出せました」


「まぁ、そうでしょうね。あの時のあなた酷かったもの。忘れた方が幸せよ」

はぁーっとエルドを、みる。


「それで、あの時に消した記憶の玉が欲しいの?」

「そうです」


ダリアはうーんと考える。


「なんとなくわかるけど、あなた、思い出しても辛いだけよ。すぐに崖から飛び降りちゃうと思うし」

「…私、死なないので」


ピンと思いだす。

当時の状況がどんどん思い出せる。


「そうだったわね。ギロチンで頭切られたのに死なずに逃亡したんだものね」


何やっても死なないだろう。


「まぁ、あれからもう200年たったし、大丈夫かしらね…」


エルドの頭にちょんと、爪の先をあてる。

魔法で場所を伝える。


「感謝します」


「ねぇ、エルド。どうして今はアース城にいるの?」


「王様への不敬罪で捕まって働かされています」

「結局そう言う理由なのね…かわいそ。あの時一緒にリュベールに来ていたらよかったのに」

「…当時どうだったかはわかりません。今どうしたいかしか、わたしにはわかりません」


はっきりと言った。


「記憶を戻すのは、国王の命令かなにか?」

「…いえ」

「じゃあ、なんでそんなドMなことしようと思うの〜?理解できないんだけど。あなたの記憶って、聞いただけのわたしでも死にたくなる内容よ?」


「…わたしも理解できません」


ダリアは、こけっと頭を捻る。


「何それ」


「なんとなく、そうしなければないと思ったからです」


本当はわかってたけど、言わない。

頭には彼の顔が浮かんでいた。


「ふーん」


「今日、泊まっていけば?リュベールを案内するわよ?」

ニコニコとダリアが、提案する。


「いえ、帰ります」

「ちぇ、つまんないのー」


ぷぅと頬をふくらませる。


「では、ありがとうございました」

「いいのよ〜、その代わりにわたしの弟子を見張っておいてちょうだい」

「第四王子様ですか?」

「そう。アースの国王陛下にわたしのことを悪く話さないようにねって」

「…かしこまりました」


「じゃあ」


エルドはその場で消えた。


魔力が残るそこを見て、ダリアは思い出していた。


"もう、誰とも深く関わる気はありません。何かを感じたり、思ったり、悲しんだり、もう面倒ですので"


リュベールへ誘ったらなんかそんなことを言っていた。

だけど、どうみても、感情を戻すのは自分のために見えなかった。


アース城での様子を少し見ただけだったけれど、何か変わったんだろうか。


初めて彼女に会った時、道端に倒れていた。

ラグナへの諜報活動を終えて、朝方、酔っ払った頭で宿に帰るところだった。

街に倒れたひどい有様の少女のおかげで完全に目が覚めた。

ラグナでこの娘についてかなり多くの情報を手にしたが、まさか、ここで出会うとは。


宿に連れ帰って看病してやった。

体にはまだ治しきれてないアザが沢山あって、髪の毛はギロチンが落ちたせいでザンバラだった。

体も痩せすぎていて、顔もげっそりしていた。


やっと目を開けたと思ったら、無気力で精神が死んだようだった。

食事を出しても口に入れることはなかった。

そんな彼女を魔法で眠らせた。


彼女を看病しているとき、偶然にも指名手配の紙がきた。

ラグナとの国境に近い場所だからこんなのが回ってくるのも早かった。


そんな見ていられない彼女が、珍しく自分から話しかけてきた。

自分は死ぬことができないから、生きるしかない。ならばこの忌々しい記憶を消してほしいと懇願してきた。

彼女の希望通り、それまでの記憶を抜き取ってあげた。

抜き取った記憶は透明な玉になった。


彼女に渡そうとしたら、いらない、と記憶を抜いたぼーっとする頭で答えた。

記憶はないはずなのに、それがなんなのか本性でわかっていたようだった。


わたしが持っていてもしょうがないから、ある場所に隠しておくことにした。


そして、彼女と別れた。


あれから、200年以上が経った。

彼女にまた会えるなんて驚きだ。

忘れてたけど。


エルドが帰ってぼーっとしてたらお昼になった。


妖精がふわふわと家の中に入ってくる。


「ダリア、あの子またくるかしら?」

「どうかしらね〜」

「あのね、」


妖精はこそこそとダリアに耳打ちする。


「あぁ、そういうこと?すっきりしたわ」


気になっていた事が分かった。


さすが、うわさ好きな妖精である。

「こんどコッソリ会いに行こうかな。あなたもくる?」

「うん、暇だったらね」

「……なんなのよ。気まぐれね!」

「そうだ、王女様が呼んでるよ。お茶しましょうだって」

「…わかったわ〜」


だるそうに返事をする。


キャハハと妖精の笑い声が響いた。

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