3-5
「リアーナ・ルイス、僕の妻だ、何百年もどこで何をしていたんだ?ずっと探してた。まさかこんなアースにいるなんて全く予想してなかったよ」
エルドは相変わらずの無表情で男を見る。
エルドは、レオリオの前に立つ。
いつもの黒いローブが風にはためく。
「国王陛下の御前で、無礼です。すぐに立ち去ってください」
エルドはダンの話を全て無視した。
「リアーナ、まさか、俺を忘れたのか?」
「…下がりなさいといっています」
「忘れたフリするのか」
魔法使いが狂ったように叫ぶ。
レオリオはドン引きしていた。
なんだこいつは。
「王様、縛り上げてよろしいでしょうか」
「やれ」
エルドは魔法陣を展開する。
ピンクの髪がふわりと浮かぶ。
だが、幾重にもかけられたダンの保護魔法が邪魔をした。
反射された魔法が攻撃魔法になって帰ってくる。
避けるが、ピッと頬に傷をつくった。
エルドは別の魔法を何個も出す。
眩い光が幾重にも出る。
そして、ダンも魔法陣を出すが、瞬く間にダンが横になっていた。
光の手枷と足枷がかかっている。
「王様、お怪我はありませんか?」
エルドが涼しい顔で尋ねた。
「ない」
レオリオは立ち上がる。
エルドのそばに行き、頬に触れる。
「怪我をさせた。すまない」
「問題ありません」
エルドは手を頬にかざして治癒魔法をかける。
すぐに傷はなくなった。
シュンと、グレンとゼオが現れる。
「でかい魔力感じたから何事かと思えば、本当に何事?」
グレンが、倒れているラグナの魔法使いを見てギョッとする。
「陛下、いかがされましたか?!」
近衛兵とアルベルトが走ってくる。
「コイツがエルドに喧嘩をふっかけただけだ。連れていけ。あと、宰相を部屋に呼べ」
「はっ」
「エルド、よくやった」
「…」
頭を撫でる。
レオリオは魔法使いが呼んだ名前が頭に残った。
ルイス。
その名前に少し聞き覚えもあった。
よくない事が起きる気がした。
***
「宰相、魔法使いの躾がなってないようだな」
宰相は謁見室で膝をついて頭を下げていた。
「申し訳ございません…勝手な行動をした上に陛下に無礼な態度をとりました。」
「その場で殺してもよかった。なぜ生かしたのか。優しいな、俺も」
レオリオは冷ややかな目で宰相を、見下ろす。
「会議は終わりだ。即刻国へ帰れ。」
「…かしこまりました。今後、国を挙げてお詫びに参ります。」
「こなくていいぞ。貿易だけで十分だ」
「…ですが、陛下」
宰相がまだ口を開く。
「まだ何かあるのか」
「貴国の桃色の髪の魔法使い…
あの方について我々から陛下にお伝えせねばならぬ事がございます」
「…なんだと?」
「また、本件については改めて文をお送りいたります。重要なことゆえ、国の判断もきいてから参ります。それまで是非お手元にとどめておいていただきたい」
「…失せろ」
宰相はニヤリと笑い頭を下げて出ていった。
「まさか、こんな形で終わるとは」
「最悪だな」
「陛下」
オーディンが膝をついている。
「オーディン。今回は失敗したな」
「想定外な事が起きました。残念です。ですが、これからも、アースとラグナの良好な関係となるよう尽力します」
「既に良好ではないがな」
「…申し訳ございませんでした」
「お前に罰はない。下がれ」
深く礼をして、退出する。
「エルド様についてとは一体どういうことでしょうか」
アルベルトが真剣な表情で聞く。
「本当かも、わからない話だ。本人の記憶がないから確かめようがない。それに、200年前の話だからな。今更だろう。だけど、奴らがそれを盾に何か要求してくるだろうから、調べておく必要がある」
「かしこまりました」
「リアーナ・ルイスという女についてだ」
本人がとうの昔に忘れた名前を他人から聞くなんて。
何が起こるかわからない。
***
「お師匠様、ラグナの魔法使い縛っちゃうなんて…あの男より強かったんですね」
「俺も見たかったなぁ…」
少年2人が興奮して話す。
ゼオとグレンは、年も近く、意外と相性もいいらしく2人でごそごそ何かしている。
エルドは自室のソファに腰掛けて、外を見ていた。
「ゼオ、もうそれ外していい」
エルドが指輪をさしていう。
ラグナ御一行は強制帰国だ。
国王陛下を、怒らせてしまった。
リアーナ
そんな名前だった気がする。
何百年も呼ばれなかった名前だ。
記憶を捨ててからは必要のなくなったものだ。
そして、もう私を表す名前は、別にある。
「エルド」
ふと顔を上げると、いつものあの顔があった。
ゼオは頭を下げている。
「王様」
「大丈夫か?具合でも悪いのか?」
「いいえ」
「兄上、エルドにかまいすぎじゃないですか?」
「お前に指摘される筋合いはない」
「ロリコンですよ。」
「……エルドはいい年だから。」
「え?」
「エルド今何歳になった?」
「250歳です」
「……あぁ、そういうこと」
グレンは、リュベールにいた若々しい年寄りを思い出す。
グレンに魔法を教えたのも、見目美しい200歳を超える魔女だった。
「魔法使いは本当に詐欺だよな」
はぁ、とため息をもらす。
「せっかくいいなぁと思う子見つけたと思ったのに」
「そんなこと考えてたのか?」
「え?考えるよ。リュベールでもちゃんと姫達と交流してきたよ。第三王女が年も近くて可愛くて好み」
レオリオと違いアグレッシブな弟だった。
「お前、今何歳だ?」
「この前15になりました」
「…あぁ。そうか。もういい、エルドと話があるからお前ら出て行け」
グレンは、ちぇーとつまらなそうな顔をして、ゼオは礼をして退出した。
「さて、昼間のことだが。リアーナ・ルイスがお前の名前か?」
エルドが視線を下に向けて考え込む。
「…思い出せないです」
「ラグナの魔法使いだったのか?」
「…」
やっぱり思い出せなかった。
捨てた記憶だ。
魔法なので、当然の結果だ。
ふむ、とレオリオは黙る。
「思い出せないならいい。」
レオリオはエルドを見る。
「…王様が私はエルドだと言ったので、私はエルドです」
真っ直ぐにレオリオを見ていた。
レオリオはカァッと赤くなる。
「そ、そうなんだけどな」
なんだろう。
忠誠心が凄い。
「大丈夫だ。お前は絶対に渡さないから」
きゅっとエルドの手を握る。
「はい」
エルドの顔が少しだけ緩んだ気がした。
気のせいだったかもしれない。
よく見るといつもと同じだった。




