3-4
第四王子の帰還は瞬く間に城内、国中に広まった。
また、第四王子が魔法使いになったことも話題となった。
会議の前に、ラグナの使節団にグレンが紹介された。
「第四王子様、お会いできて光栄です。」
ラグナの宰相が挨拶をした。
グレンは相変わらず飄々とした態度で迎える。
「はじめまして。グレン・ニューズベル・ド・アースと申します。お見知り置きを」
「王子様、リュベールで魔法学を学ばれたとか…本当でございますか?」
「そうだよ」
パチンと指を弾くと、魔法の光がぽぽぽんと出てくる。
「…まさか、王族が魔法使いだなんて、アース歴史上初めてではないですか?」
「うーん。だけど、今まで魔法とは縁を切っていたし…弾圧した過去もあるからあったけど隠してただけじゃないかな?」
あっけらかんとグレンが話す。
この思い切りのいい話し方。
本当にレオリオと似ていない。
「だけど、これからはうまく魔法使いとも生存していける国になっていくんじゃないかな」
「是非、我が国にもお手伝いをさせていただければと存じ上げます」
グレンは、レオリオに目配せする。
宰相は内心面白くないはずだ。
先に乗り込んでいたのに、グレンはリュベールで魔法を学んだ。今後リュベールとの繋がりがもっと強くなるだろう。
「あぁ、その時は頼むよ」
にっこりと笑った。
***
会議の後、国王陛下の執務室にて、レオリオとグレンがいる。
「ラグナの連中、何か隠しているよね」
グレンが考え込む。
「リュベールとの繋がりが深くなることはあっちにとっては不利のはずなのに…どこか喜んでた。その後も気にしてないようなそぶりだったな」
「……」
「国王陛下?」
「あぁ、いや。なんでもない」
「??」
ラグナはきっと、エルドを調べているはずだ。あれから何度か合わせろと言ってきていた。病弱とかを理由に断ったが。
どうにかして接触をしてくるに違いない。
「まぁ、いい。グレン、もう下がっていいぞ」
「わかりました。そうだ、東の塔に僕の部屋も作っていい?」
にこにこと無邪気に聞く。
「東に?」
「だって、俺の宮に魔法研究部屋作るより東の塔に固めたほうがいいでしょ?」
「お前、本当に魔法使いになるのか?」
「既に魔法使いだけど」
「王位継承の話は?」
「…あー、兄様のあの計画かぁ。考えたんだけど、今の治世が国民が平和に暮らしているから。俺の役割は兄様を支える優秀な宰相になることだと思うんだけど」
「………」
レオリオは頭を抱えた。
「国の皆もそう思っているよ」
悲しげに微笑んだ。
「兄上が血を流して切り拓いた今の治世を、数年たって何もしていない俺が継ぐなんて、そんな不条理なことないと思う。それに、国の皆も、納得しないよ」
レオリオは黙ってグレンを見つめる。
「俺は王様になる器ではないよ。兄上も、分かってるんだろう?」
グレンはじゃ、と部屋を出ていった。
レオリオはいなくなったその場所をじっと見ていた。
アルベルトはその姿を見つめる。
「…」
はぁ、と椅子にしなだれかかる。
結局、どうしたってこの椅子からは降りられないのか。
久しぶりにあった弟の眼をみて思った。
後継者の赤い眼。
以前はまだレオリオと同じ赤い眼に濃い部分があった。
だが、今は澄んだ赤だった。
きっと血の選択でもグレンは国王の椅子からは下ろされているんだ。
そう、王族のしきたりになっている。
「アルベルト…」
「はい」
「茶をくれ」
「はい、すぐに」
気を遣ってささっと動き部屋を出る。
戻ると、レオリオはそこにいなかった。
サボりだ。
アルベルトはやれやれとため息をつき、まだ暑い晴れやかな空色の空を見上げた。
***
庭園の奥の東屋。
日陰になっているそこはレオリオのサボり場だった。
円型に仕切りのないベンチで座れるようになっていて、広く寝れた。
だいたいここで寝る。
周りは迷路のように植物のアーチなどで囲ってあり隠れ家にはもってこいだった。
アルベルトは気を使ってしばらくこないだろう。
ちょっとだけ。
眼を閉じる。
風がそよそよと涼しい。
うとうとと、してくる。
すると、あの匂いがした。
はっとして眼を開けると、ベンチの向かい側に魔女が座っていた。
「起こしてしまいましたか」
「エルド?」
「はい」
いつもの無表情でそこに、座っている。
「俺、よんだか?」
「いいえ」
「そうか、どうかしたか?」
むくりと起き上がり聞く。
「いいえ、特になにもないのですが、ただ、王様が呼んでるきがしたんです」
ポカンとする。
会いにきてくれたのか。
魔女には本当に驚かされる。
ハハっと、笑う。
「気のせいでしたら帰ります」
「いや、嬉しい。初めてだな。エルドが俺に会いにきてくれるのは」
会いにこいと言っていたけど、本当に来たことは一度もない。
いつもレオリオが呼ぶか、行くかのどちらかだった。
「…そうですか」
「あぁ」
ちょいちょいと、手招きをする。
エルドは立ち上がり、レオリオの近くにくる。
ぽんぽんと、横に座れと指示をする。
大人しく座る。
レオリオはエルドの髪に手を伸ばす。
いつもサラッとした美しい髪だ。
魔力のせいかいつも見目麗しい彼女。
黙ったまま、レオリオを見つめている。
落ち込んでいるのが見透かされている。
国の王なのにみっともないな。
本当に彼女は優しい。
人の感情に無頓着なフリをして、本当は一番敏感に気がつく。
そんな彼女をそばに置いておきたい。
死ぬまで。
「エルド」
「はい」
「俺の妃になって、ずっとそばにいてよ」
エルドが相変わらずの無表情で見ている。
「王妃になれと?」
「そう」
沈黙が流れる。
レオリオは横になったまま、赤い眼でじっとエルドを見ていた。
「契約外ですね」
ハハッと、レオリオは笑う。
「そうか」
そうきたか。
自分の体の向きを変え、エルドの膝に頭を乗せる。
手を握り、眼を閉じる。
「王様」
「ちょっとだけ、このまま」
そよそよと、風がふく。
花の香りと魔女の香り。
ずっと、この時間が続けばいいのに。
ふと魔力の気配を感じる。
「王様」
エルドは目の前を見据える。
「失礼、先客がいたんですね」
わざとらしくそういうのはラグナの魔法使い、ダンだった。
東屋のそばからこちらを見ていた。
「…貴様は」
レオリオが、起き上がる。
「陛下、大変失礼いたしました。おやすみのところを邪魔してしまい申し訳ございません」
「では、立ち去れ」
ギロリとレオリオがダンを睨む。
だが怯むことなくこちらに歩みを進めた。
「陛下の隣にいらっしゃるお方ですが、私の知り合いに非常に似ています。
というか、本人だと見受けられるのですが…話をする機会をいただけないでしょうか」
落ち着いた様子とは裏腹に、その眼は力を感じる。
禍々しい魔力が溢れ出ていた。
「断る。彼女は私の支配下にあるものだ。お前と話などさせる気はない」
キッパリという。
「大変言いづらいのですが…」
「なんだ」
ニヤッと笑う。
「その者は私の妻です」
聞いてた通りのことを言う。
エルドは記憶にない。
今も、コイツは何を言ってるんだと言う顔をして黙っている。
「この者はまだ10代で婚約もしていない。ずっとこの城にいる。人違いだ。さっさと去れ」
レオリオは嘘をつく。
「その指輪」
エルドの指輪を見る。
「魔力封じのアーティファクトですね。ではそれを外してください」
「…」
「外さないのならばこちらで解除して差し上げましょう」
ひゅおぉと、そよそよと流れていた風が冷たいものに変わった気がする。
エルドが冷ややかな目でダンを見ていた。
パキンと、指輪を手でつまむと、簡単に割れた。
すると、閉じ込めていた魔力がブゥンとわかるようになる。
「ホラ、やっぱり」
ダンの目が大きく見開き、狂ったように笑う。
「リアーナ」
知らない名前を呼んだ。




