3-2
「つま…」
「はい」
「あいつがそう言ったのか?」
パーティーの後、執務室に戻ったレオリオはアルベルトの報告を聞いていた。
「嘘だろ」
「どうでしょう。ピンクの髪の薄緑の目。正直その特徴を持つ女人を他で見たことがありません。年齢的にも同じぐらいですのであり得るのかと…魔法使い様にはエルド様は10代だといいましたが」
ぷっとレオリオが吹き出す。
「まぁ、見た目は10代だがな」
「言いつけ通り国王陛下の特別な方と言いましたよ?噂になっても知りませんよ」
「…しばらくの虫除けになるさ」
「エルド様を本当に妃に迎えればよろしいでしょうに。身分など、いくらにでもできますよ」
「……そうだな」
だけど。
レオリオはぐっとこらえていた。
「アルベルト」
「はい」
「俺だけ、エルドのドレス姿が見れなかったんだ」
「……」
「何故だろうな」
「………国王陛下がお忙しかったからです」
「そうだな。つっからつぎに挨拶にくるからだよな」
「そうですね」
アルベルトは目を合わせない。
エルドは相当美しかったようで、使用人、メイド、パーティー会場でエルドを見た貴族、騎士達の噂になった。
しかも、エルドと話したいと直接ボックスまで行ったら輩もいる。
腹が立つ。
それにも関わらず、自分だけが見ていない。
遠目で見ただけだ。
悔しい。
その隣に座っていたかったのは自分なのに。
いたのはあの生意気な小僧。
しょうがないとはいえ悔しい。
魔法さえ使えれば別にいつもの格好でパーティーの裏から見張れたのに。
あの魔法使いがいなければ。
しかもエルドを妻かもしれないだと?
そんな情報いらない。
いてもたってもいられなくなり立ち上がる。
「陛下!どこへ」
「…休憩だ」
パーティーの格好を脱ぎ、簡単なシャツに真っ黒のローブを羽織る。
すたすたと微妙な顔をしているアルベルトを無視して出ていく。
***
むしゃくしゃしながら森を歩く。
辿り着いたのはいつもの湖だった。
湖に人影がある。
足音に気が付いたらしくこちらを見ていた。
「こんばんは、王様」
「エルド」
足元の花と空に浮かぶ月を見て、ああ、今日が花を摘みにくる日だったかと思いだす。
「熱心だな」
「売れ筋商品の原料なので」
ハゲの薬である。
媚薬に次ぐレベルで需要は高い。
エルドは、いつもの服装だった。
ドレスはとうの昔に脱ぎ、化粧も落としてあった。
「今日はどうだった?」
レオリオは地面にあぐらをかいて座りエルドに尋ねる。
「…魔法を使わないのは面倒でした」
「すまないな。こっちの事情で、不便をかけさせた」
「しょうがないことです」
「そうか、直接助けてやれなくてすまない」
「適切に処置してくださってたので問題ありません」
「そうか」
エルドは、もくもくと花を摘む。
「ドレス姿みたかったなー…」
「見たじゃないですか」
「ボックスのところからちょっとだけだろ。顔もまともにみえなかったぞ」
「見てもなにも変わりませんよ」
「お前のどんな姿でも見ておきたいだけだ。俺が見たことない姿で他の奴らが喜んでるなんて腹が立つ」
エルドは、レオリオを振り返った。
「何を言ってるんですか」
ぽつりと言う。
そして、パチンと指をはじく。
すると、エルドが今日のドレス姿に変わる。
「…」
「これでいいですか」
レオリオは無言で見つめた。
月明かりの下。
フレジアの花の上に、綺麗に着飾った魔女がいる。
「…一瞬で着替えれるならメイドの準備いらなくないか?」
皮肉が先に口から出た。
「そうですね」
フンと、エルドが片腕を腰に当ててレオリオを見下ろしている。
「すごく、綺麗だ」
レオリオは立ち上がる。
すぐに視線は逆となり、レオリオがエルドを見下ろす。
エルドの手をとり、口付けた。
エルドはらしくなくレオリオを見つめたまま固まる。
ほのかに、耳が赤くなる。
パチンと指を鳴らし、すぐ元の姿に戻った。
「もう終わり?!」
「ラグナの魔法使いに勘づかれますよ」
エルドは下を向いていた。
「あっ、ラグナといえば…お前、あの魔法使い昔からの顔馴染みか?」
レオリオが怒りを思い出し聞く。
エルドは、無表情で過去の記憶を遡る。
だが。
「まったく記憶にないです」
「あいつ、いなくなった妻を探してるらしい。特徴がお前と同じなんだ。」
「…まぁ、わたしが抜き取った記憶の中にあるかもしれないですが、もうないので確認のしようがないですね」
あっけらかんと言う。
たしかにそうなのだ。
「お前、人妻だった可能性あるのか!?」
「ないとは、いいきれませんね。記憶がないので」
なんとも言えない感情になる。
どうしようもない。
「あの方を見ても何も思いませんでした。ただの、他国の魔法使いで、他人です。なので大丈夫です」
エルドはまっすぐレオリオを見上げる。
大丈夫。
大丈夫とは…
「じゃあ、いいか、お前絶対あの魔法使いに惚れたりするんじゃないぞ!あいつがいたら絶対隠れろ!」
「…御意」
謎の沈黙が流れる。
「仕事にもどっていいですか?」
「いい」
そして、また花を摘む。
レオリオもその姿を座って眺めていた。




