3-1
雨の季節が終わり、一年の中で比較的に暑い季節になった。
青青とした空が広がる日。
沢山の馬車と共にラグナから使節団がきた。
今日は国の貴族たちが集まり、宴会が開催される。
「アース国王陛下、お会いでき光栄でございます。ラグナ一行ご招待頂き誠に有難う御座います」
ラグナ国の宰相が代表して国王陛下に挨拶をする。
来賓等を迎える城内で1番広い謁見の間にはラグナ国の代表10名ほどがいた。
他に護衛騎士達も来ていたが、外で待っている。
「長旅ご苦労だった。部屋に案内させるので、夜の宴会までは体をやすめるがいい」
レオリオは、いつもと違い来賓を迎えるための豪奢な服を着ている。
隣にはアルベルトや宰相がいる。
部屋の両端には国の近衛騎士がズラリとならぶ。
そこに、いつも隣に置いている魔女の姿はなかった。
ラグナの宰相をはじめ、髪の色や肌の色は大きな違いはないが眼の色が皆緑だった。
純粋なラグナ族の証である。
皆、黒や紺色の刺繍の入ったローブを羽織り、ブーツを履いている。
暑いはずなのに汗もかかず涼しい顔をしていた。
「ラグナから、国王陛下へ贈り物を持ってきております。どうぞ、お受け取りください」
レオリオは薄く笑う。
そして、使節団は礼をして下がっていった。
一緒に来ていたジェハイド公爵も一緒に下がる。
「エルド」
使節団が完全に下がった後、魔法使いを呼ぶ。
シュンと陛下の御前に頭を下げた状態で現れる。
「どうだ?」
「全員、保護魔法と気温調整の魔法がかかってます。あと、1番後ろにいたフードを深く被った男が、魔法使いです。あとは魔力のない人間です」
「わかった」
「先程、持ってきた荷物も軽く確認しましたが、すぐに発動する魔道具の類は確認できませんでした」
「部屋に運ばせるから、ラグラン公爵と一緒に行って確認しろ」
「かしこまりました」
ペコリと礼をして行こうとする。
「あと、エルド、言い忘れていたんだが」
「はい」
「使節団が来ている間は姿を変えろ」
「…ああ、変身魔法を使えと?」
「いや、それはやめたほうがいい、そうじゃなくて」
「?」
「まぁ、いい。メリルに指示をしておく。ひとまず、使節団が持ってきた献上品を確認してこい」
「かしこまりました」
すっと消える。
「使節団にも、エルド様の魔力の気配で我が国に魔法使いがいることを勘づかれるのではないですか?」
「まぁ、もうバレている可能性が高いがな。それに関しては一応、手を打ってある」
***
キラリとゼオの左の中指の指輪が光る。
「滲み出る魔力を抑制する指輪なんて、よく作りましたね」
「…普段垂れ流しているから、それを中に閉じ込める分無駄な魔力使用も防げるから」
しかも、相手に魔力を勘づかれない。
指輪が滲み出た魔力を吸収し、体にまた循環させる。
これをつけているのでラグナの魔法使いには勘づかれないはずだ。
相手の魔法が異常に進化していなければだが。
ゼオはエルドがラグナが来ることを、無意識のうちに警戒しているように見えた。
何をそこまで緊張するのか。
こんな指輪まで作って。
「お師匠様、この宝石、魔導石じゃないでしょうか?」
ゼオが使節団からの贈与品の中できらりと光る石を見つける。
「……」
こくりと、エルドは頷く。
青色の宝石のような魔導石のネックレスがあった。
魔導石は魔力を込めて使用者に魔法の恩恵を与える石である。
今はなんともないただの石だが、あとから呪いを込められる。
エルドがじっと、そのネックレスを手に取り見つめる。
ぱきん
「あ」
「お師匠様!それ割っちゃっていいんですか?」
「…まだ、石の状態だから平気よ」
多分
と、心の中で思う。
「他は大丈夫」
点検が終わる。
ラグラン公爵に完了の旨伝える。
ラグナの使節団がいる間は無闇に魔法を使うなと指示が出ている。
歩いて東の塔へ移動する。
すると、
「エルド様ー!!」
向こうからメリルが走ってくる。
「何をそんなに焦ってるんだ?」
ゼオがメリルに言う。
「はーはー」
かなり急いだのか、息が上がっている。
「国王陛下から、ご命令が…早くお部屋に…」
はーはーと息を乱しながら言う。
「?」
そんなに移動する内容ってなんだ?
ひとまず部屋に急いだ。
「これに、お召し変えを」
部屋には既に何人もメイドが来ていた。
「その前に入浴よ」
「そうだった」
バタバタと、エルドを、引っ張る。
ゼオは同様に部屋に連れて行かれた。
あれよあれよと服を着せられ、髪を整えられる。
「メリル、なんの真似?」
鏡の前にすわり、髪とメイクを施されているときに聞かれる。
「国王陛下からいつもの格好だと魔法使いとわかってしまうので、貴族のように仕立てて紛れ込めとの仰せです」
「…」
まぁ、近くにいた方がいいけども。
変身魔法使ったらバレるかもしれないし。
ドレスは久しぶりだ。
リリーの時以来だった。
出来上がったエルドをみて、メイド達は感嘆の声を上げる。
薄い青色の控えめにスカートが広がったドレスに肩までの髪もゆいあげる。
「エルド様、世界一美しいです」
「そうね…これ、逆に目立っちゃうような…」
メイド達が感想を述べる。
エルドは無表情で黙ったままだった。
コンコンコン
「どうぞ」
ゼオが入ってくる。
「お師匠様…」
エルドの姿を見て固まる。
「どこの姫かと思いましたよ…」
ほぅ、と見惚れてしまう。
ちなみに、ゼオも礼服を着ていて美少年度がましている。
「魔法使いとばれなければいいのよね」
「それなら大丈夫じゃない?」
「2人ともすごく目立つけど、魔法使いにはみえないわ」
「でも、こんな美男美女が会場にいたら目立つわよ?」
「……」
パーティーは既に始まっている。
見張りを仰せつかっているため、急がねばならない。
コンコンコン
「エルド様、会場へお急ぎください」
アルベルトが、呼びに来た。
すっと、エルドが進む。
「行きましょう」
「はい」
2人の姿を見たアルベルトが固まる。
「どうされました?」
「いえ…これは想定していなかったと、反省してました…」
2人の仕上がりがその辺の貴族よりも数倍美しかった。
魔法使いとは恐ろしい生き物だ。
アルベルトは、このままホールに出していいだろうかと悩んだ。
***
ガヤガヤと城の大広間とそれに続く広間に貴族たちが集まり、パーティーを楽しんでいる。
お酒と軽食がテーブルに並ぶ。
基本的に出入り自由だ。
今は国王陛下の挨拶中だ。
レオリオは、立ち上がって儀式的な挨拶をしていた。
貴族達は陛下に集中していたはずだが、すこし、貴族たちの視線が上を向いている気がした。
気にせずに挨拶を続けた。
(何事だ?エルドは来てるのか?)
魔法使いがいれば事態を把握しやすい。
まだきていないのか。
目立たないように変装させようとしたはずなのに。
レオリオが席につくと、使節団の宰相が挨拶を始める。
その隙にアルベルトがサッとレオリオに近寄る。
コソコソと耳打ちをする。
「エルド様達ですが、目立つのであちらから見張りを頼む事にしております」
「目立つ?」
レオリオはあちらと言われた場所を見上げる
人影が見えるが姿までは見えない。
「目立たないように着替えさせただろう?」
「お二方とも見た目が下手な貴族よりも美しいので着飾ったら余計に目立つようになってしまいました」
「……」
なるほど。
それは考えてなかった。
「どちらへいかれるのですか?」
いきなりどこかへいこうとするレオリオをアルベルトが引き止めた。
「……ちょっと用が…」
挨拶を待つ貴族達がキョトンと、こちらを見ている。
アルベルトはコソコソとレオリオに耳打ちをした。
「エルド様のところへは、行かせませんよ」
国王陛下はパーティーも多忙なのだった。
レオリオはイライラを笑顔で隠し、元に戻った。
***
「お師匠様、いいところあってよかったですね」
エルドとゼオは、大広間の二階部分のボックススペースにいた。
劇場のように、2階部分が個室になっており下が見下ろせるようになっているのだ。他のボックスにも、貴族達が利用している。
天井が高く、2階も高い位置にあるため顔は見えにくい。
ここなら安心して見張れる。
迎えにきた使用人がここに連れてきたのだ。
ラグナの動向を見張る為、少し身を乗り出してみた。
すぐに引っ込めたが、なぜか数名から見られている気がした。
エルドは下に意識を集中させる。
特に変わった動きはない。
「魔法を無闇に使えないのは不便ですね。喉渇きました」
「とってくればいい」
「いいんですか?」
こくりとうなずく。
今日はずっとこのソファで過ごす。
特に違和感は無いはずだ。
こういった場所はいくつもあって、他も埋まっている。
王様も、視界に入るしちょうどいい。
ただ、ラグナの魔法使いの場所がわからない。
あの時気配を記憶したが、どこにもその気配がなかった。
そんなときだった。
「お嬢様」
声をかけられ振り返ると、見知らぬ男がいた。
「利用中とは知らず、申し訳ありません」
「…」
魔法使いの気配に気を取られて気がつかなかった。
こういうとき、普通の人間の気配はわからなくなる。
魔力があったほうがどれだけわかりやすいか。
どこぞの貴族風の男が立っていた。
エルドを顔を赤くして見ている。
「少し休憩しようとここまできたのですが、大変失礼をいたしました。
私はタリオリア侯爵家の長男、シルバリオと申します。お隣で少しだけでもお相手いただけないでしょうか」
真剣な表情で訴えてくる。
「連れがおりますので、お引き取りいただきたいです」
エルドはいつもの無表情でキッパリと言う。
「では、せめてお名前だけでも」
「名乗るほどのものではありません。お引き取りを」
すっぱりと断る。
子爵はしょげしょげと降りていった。
カーテンを引いておく。
エルドは再び魔力をおう。
***
「陛下、ご機嫌いかがでしょうか」
「クラアール宰相」
アルベルトの横でちょうど自国の伯爵との会話が終わったタイミングでラグナの宰相がやってくる。
灰色の髪の緑色の目をした中年の男だ。
オーディンと交流が深いのもこの男だった。
隣にはもちろんオーディンがいる。
「アースの方々は人柄が暖かいですね。親切で話しやすい。」
「そうですか」
「魔法に興味がある方が多く、連れてきている魔法使いが人気でして。ご紹介してもよろしいでしょうか」
「ああ」
そっけない態度と言葉で対応していたが、ピクリとレオリオはそちらを見た。
パーティーにそぐわない真っ黒なローブの、フードをかぶっている男がいた。
国王陛下の前のため、スッとフードを外す。
すると、端正な顔立ちの20代ほどの若い男が現れる。
暗い青みがかった黒髪と深い緑の目が印象的だった。
耳に金のピアスをつけている。
長い髪を後ろで一つにまとめているようだ。
男は国王に深く礼をする。
「アース国王陛下、はじめまして。ラグナ国皇室付き魔法使いのダン・ユグナと申します」
魔法使いは冷たい印象から一変して優雅に微笑む。
「魔法使い、若いな」
「国王陛下、この者は若いなりをしておりますが我々よりもずいぶん長く生きております。何歳だったかな?」
「…もうあまりかぞえてないのですが。おそらく260ぐらいでしょうか」
260。
レオリオはどこかできいたやりとりだなと、思った。
「魔法使いは長生きだな」
「陛下は驚かれないのですね。アースにもこのもののように長く生きるものがおりますかな?」
「いや、知らないな」
「ラグナの優秀な魔法使いはみな長生きしております。この者は魔法使いのなかでも格別魔力が高くこのように長生きしておりますが、せいぜい150年ほどで死にます」
「興味深いですね」
ニヤリと宰相が笑う。
「聞いたところによりますと、アースにも現在魔法使いがいるとか。もっと魔法使いを増やすのであればわがラグナから派遣して育成可能でございますよ」
レオリオはオーディンを睨む。
「……いや、我が国は貴国と違い神殿との関連もあるからな。魔法使いの取り扱いは慎重なんだ」
「そのようで。ですが、貴族達の噂では街に謎の現象が起こることが増えた…と。魔法使いを増やす必要があるのでは?
レオリオは笑顔をくざさず心で思う。
やれやれと。
「貴国にも陛下の知れぬところで魔法が横行しているのでは?早めに手を打った方がよいかと。今回の交流にて、魔法使いの導入に是非興味を持っていただければ」
「…それは楽しみだな」
フッと笑い、ワインを飲む。
2階のボックスをチラリと見る。
人影がチラリと見える。
ちゃんと見てるだろうか。
しかし、ボックス席の下で何やら男達がざわついている。
「2階のボックスに見たことのない美しい令嬢がいるらしい」
「どんな?」
「ピンクの髪で緑の目で小柄らしい。さっき、シルバリオがテンション高めに話してきた。」
「それは見ておきたいな」
子息達の大きな話し声が聞こえて
レオリオはワインを潰しそうになる。
目の前では、宰相がまだ何か言っているが、耳に入ってこなかった。
「陛下?」
「すまない、ちょっと、アルベルト」
レオリオはアルベルトを呼ぶ。
コソコソと耳打ちをする。
すると、アルベルトはサッとどこかへ行く。
「宰相、失礼した。で、なんだ?」
レオリオが話す。
宰相はビクッとする。
国王陛下から不穏なオーラが出ていた。
「いえ、大したことではございませんでした。ところで陛下。未だ妃を迎えていないようですが、本日は誰とも踊られないのですか?」
「そういうことは興味がないんだ」
ニコリと冷たく言う。
不穏な空気を感じ、宰相は笑顔のままだまる。
「宰相、すまないが席を外していいかな?急用なんだ」
「お相手頂き光栄でございました」
深く礼をする。
後ろで、ラグナの魔法使いが2階を見つめていた。
***
「お師匠様」
カーテンを開けてゼオが2階のエルドのいるブロックに入ってくる。
「すみません、遅くなりました。下に降りたらいろんな人に捕まっちゃって…ってあれ?」
「なんか食べ物も飲み物もたくさんありますね」
「…そうね」
ゼオがくるまで何度も訪問者があり、そして誰からかわからない食事と飲み物がいくつも来た。
全て無視して、全て勝手に置いていった。
その後、事態を把握されたのか、部屋の前に使用人が待機するようになった。
近づいてきたら門前払いする算段である。
「短時間でモテモテですね」
あははっとゼオが笑う。
まだ幼い表情だが、13歳。
幼い頃から迫害され、家を出されたりした際街でいろんな大人を見てきたので、男女のあれこれもそれなりにわかる。
「これ、俺が食べてもいいですか?」
「いい。媚薬の類は入ってない、毒はわからないけど」
その一言で食べる気がなくなる。
エルドは薬屋で媚薬の販売をしている。
媚薬は高価だが需要が高く売れ筋商品だ。
エルドが作った物は多少魔法をかけてあるのでわかる。
だけど、毒薬などは把握不可だった。
エルドは上からレオリオと魔法使いが話しているのを見ていた。
魔力が禍々しい。
エルドと同等の魔力を持っている。
しかも、体に張り巡らせてある魔法の数がおびただしい。
保護魔法
回復魔法
攻撃魔法の反転
呪いの反転
わかる範囲でもそれぐらい。
他にも知らない魔法陣がぐるぐると彼を取り巻く。
ラグナの魔法使いは神経質だな。
と思う。
レオリオとラグナの宰相が離れた。
魔法使いがこちらを見ていた気がする。
視線に気が付いたのか。
指輪をしていても、魔力を嗅ぎつけたのだろうか。
王様に何かしてる気配はないから大丈夫だろうか。
「エルド様」
カーテンを開けて、顔見知りの使用人の1人が入ってくる。
「はい」
「ラグナの魔法使い様がお会いしたいとの申し出なのですが…」
「…」
どういうことだ?
魔力で気づいたのか?
そんなバカな。
落ち着いて。
ひとまず
「会うのは王様の指示がないとできない」
「そう話したのですが…」
「できないものはできない。」
「わかりました」
困りながらまた、行く。
「しつこいですね」
エルドは黙っている。
レオリオは視界にいる。
別の侯爵に捕まっている。
こちらの状況は気が付かないだろう。
「お師匠様!」
気がつくと手すりから身を乗り出してレオリオを見ていた。
何人かが気がついてこちらを見ている。
それに気づいたのか、レオリオがこちらを見た。
目が会う。
レオリオが一瞬固まったようになり、そしてアルベルトに指示を出したようだ。
アルベルトがこちらに足早に向かう。
エルドはそれを見た後、引っ込んだ。
「お師匠様、どうしちゃったんですか?」
ゼオが普段しないエルドの行動に驚いた。
「王様は気がつくと思った」
何もなかったようにエルドは再び座り、ゼオの持ってきたグラスに口をつけた。
***
ボックス席の少し離れたところで魔法使いと側近の男が話しているところにアルベルトが来た。
「魔法使い様、お引き取り願います。」
「少しお会いしたいだけです」
「ここにおられる方は陛下に関わる特別な方の為、陛下の許可がなければお会いできない方です。あいにく許可されておりませんのでお会いすることは許されません」
「陛下の特別…ですか?」
魔法使いは驚いたようだ。
「何か理由があるのでしたら、陛下には私から話しますが本日は無理です」
「…いえ、ただ探している人の特徴に似ていたので」
「そうなのですか」
「はい。私の妻に」
「奥様ですか、探されてるということは行方不明なのですか?」
「はい。もうだいぶ昔なのですが… ピンクの髪に薄い緑の目をしていて」
アルベルトはどきりとする。
同じ特徴の人間を見たことがないが、他にもきっと存在するだろう。
「お気の毒ですが、この方はまだ年齢が10代です。お探しの奥様とは年齢が違います」
「そうですよね」
ハハ、と乾いた笑いを見せる。
「失礼いたしました。国王陛下の特別なお方とは知らず、大変無礼を働きました。」
深々と礼をして、魔法使いは去っていった。
アルベルトは、嫌な予感しかしていなかった。
この話を陛下に報告しなければならない。
どんな顔をすることやら。




