表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/35

1-1

ドドンドドンとアース国の首都サンザに花火が上がる。


国の王権争いに決着がついた。

何十年も続いていた前王の平民を無視した君主政治に終止符が打たれた。

前王の政治はひどいもので、税は重く、飢えもひどく国は荒れ果てていた。

それでも、人々は希望を捨てずに前向きに生活をしていた。


前王の代わりに王様となったのは、前王の第三王子だった。


前王の政治をそのまま引き継ぐ皇太子と我が儘で放漫な第二王子を先に殺し、第三王子は王に反逆する意思を持つ騎士達や国中の反乱軍をまとめて首都へあつめた。

そうして、王の逃げ場をなくし、ついに王の処刑を果たした。


国王の首は城門に掲げられ、これから作る新しい国を作る戒めとされた。


ガヤガヤと街が活気に溢れ出していた。


税は軽くなり、飢えていた土地へ食料を回すために各地から船や荷馬車が走る。


新しい政策を走らせて国を生き返らせるため、急ピッチでさまざまな政策が執り行われた。


そんなアース国が新しい王に変わり一年が経とうとしていた。


「明日、港に船が到着する。例の輸入シルクと、バース地方の染物の布だ。しっかり確認しておくように」

コツコツコツと、恰幅の良い40代の貴族の男。

ガリオール男爵だ。

この街の経済界の重鎮で、主に外交を担っている。

男爵家の執務室で港の管理人に指示を出してさっさと追い出す。

「旦那様、お部屋へおもどりですか?」

「ああ、明日はルヴァンへ出張だろう。今日は妻のご機嫌取りだ。」

「かしこまりました」

バタンと執務室を出て、別の部屋へ行く。


部屋に入ると、ガリオール男爵の奥方が待っていた。

「はい、いつもありがとうね」

奥方はふふと、優しく微笑む。

ガリオール男爵もつられて微笑む。


そのあと、男爵は、不思議な光に包まれる。

光は形を変えて、小柄な少女へと姿を変えた。


「いつもありがとうございます、魔女様」

ピンクの肩までのふわふわの髪の毛と薄緑の目。

茶色の短いズボンに茶色のロングブーツを合わせた少女がそこにいて、無表情で立っている。

「では、また」

魔女と呼ばれた彼女は、ぽつりと呟くと、光となり消えた。


奥方は安堵のため息を吐くと、ソファに腰掛けて紅茶をのみはじめた。



***


「殿下!殿下!!!」

城の庭園を1人の男が走る。

城の庭園の東屋のベンチに顔に本を乗せて寝ている男が1人。

「こんなところでお休みになられてたんですか?!休むならちゃんとベッドでお休みになられてください」

ぷんぷんと男にむかって怒る。

「ってそうではなくて、公爵との約束の時間で執務室前でお待ちですよ!」


しーんと反応しなかったのも、束の間。顔の上に載せていた本を手で外した。


「…せっかく寝付いたところだったのに」

むくりと起き上がり騎士を睨んだ。

ガシガシともう片方の手で髪をかきむしる。

「さっ!休むなら布団に入って休んでください。毎日2時間くらいしか寝てないじゃないですか?!」

「仕事が多いから仕方がないじゃないかー」

「そうですが!休憩するならちゃんとしましょう。こんなベンチの上なんて体が痛くなりますよ」

ふぅ、と男はため息をつき立ち上がる。


「アルベルト、少しは俺をほっておいてほしいんだけど〜」

「何をおっしゃっているんですか?王様なんですから仕方ないでしょう」


男は一年前に国王になった。

レオリオ・ドゥベール・ド・アース

それが男の名前だ。

真っ暗な髪に王族の証の赤目に少し濃い赤が混ざったような変わった瞳。

彼は、前王と、皇太子、第二王子と自分の親兄弟をさくっと始末した。

正直、毎日体がすごく疲れているし気分もよくない。

外の自然の中でのんびりと、何も考えなくていい時間が欲しい。

だけど仕事は滝のように次から次に流れてくるしどれも至急を要する。

一年たってもこの調子でひどく疲れていた。

王になると、いよいよ誰も自分を放っておかなくなった。

仕事は文句言わせないが、健康面、私生活においては小言がやまないし、貴族達は結婚をとせっついてくる。

鬱陶しいことこの上ない。

そんな暇あればこんなふうにゆっくりやすみたい。

後継などどうにでもなる。

10歳年下の弟のグレンでもいいじゃないか。

今12歳で教育中だが真面目で正義感が強く王の器がある。

政治のセンスがいいのだ。

早く大人になって欲しい。


「行く」

「えっ」

「仕事だろー?誰が待ってるって?」

「マグリタ公爵です」

「わかった」


イライラしながらスタスタと執務室へ向かう。

こいつも仕事だからしょうがない。と自分を納得させながら歩く。


執務室の前、日の光がたくさん入る広い廊下に端に設置してあるソファに腰掛けていた男が立ち上がって、礼をする。


「陛下、アースの栄光があらんことを」

「待たせたな。入れ。」


先にスタスタと執務室へ入る後に公爵も続く。

どかっと自分の椅子に腰掛けて、机の上の書類に目を通しながら話す。


「それで?要件はなに?」

「港に停泊中の外国船の件でございます」

「ガリオール男爵の交易船じゃないのか?」

「そうです。港の経済は8割男爵がしめております。交易船の外国人が、港町で騒ぎを起こすなど争いが頻繁におこっておりますゆえ、機動隊の配置を増やす等一時的に対策をした方がよいかと。後、男爵にも話をするべきでは?」

レオリオはふむ、と顔をしかめる。

「その件、港の方からもクレームが来ているので把握している。一時的に他の街の機動隊から応援をよこそう。あと、男爵を呼んでおいて」

「承知いたしました」


礼をして退出する。

ふぅ、とレオリオはため息をつく。

ぽいと見ていた書類を投げた。


「アルベルト」

「今、伝令を送りました」

「首都の機動隊本部のロイはしっかりやってる?前王の時に王の忠犬だったやつを殺して騎士団のロイをつけだだろー?」

「1週間前に抜き打ちやりましたけどサボってる新人を蹴り飛ばしてましたよ」

「………ほんと真面目だな…」

ボソリと、つぶやく。

「港の方の人事もうまく組むと踏んでます」

「様子見でいいか」

パサっと書類を分類のトレーへ投げいれる。


レオリオは人を見る目がある。

使える人間の選別に才能があった。

補佐官のアルベルトにしても、元々騎士団にいたが文にたけており、先を読んで動ける。

レオリオも、信頼をおいている。

この一年で王に何かあったとしても国が回る人事を優先に作ってきた。

前王の忠臣だった貴族達は力でねじ伏せている。

頬杖をついて、アルベルトを見つめた。


「どうされましたか?」

「いや、なんでもない」


再び書類に目を通す。

まだまだやることはたくさんある。

弟に引き継ぐ未来を夢見て、若い成り上がりの王は働いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ