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2-5

少年は城の庭園の木の上の太い枝に座り、空を眺めていた。


「ゼオ」


木の上から呼ばれた方を見ると、メリルがいた。

首都に連れてこられて2ヶ月が経つ。

ゼオは東の塔に部屋をあてがわれ、魔法使いとして育てられている。

はずだった。


「メリル」

「拗ねてないでおりておいでよ」


その言葉にさらにムッとする。

するすると降りてメリルの前に立つ。

ゼオの方が年下で、身長もずっと低い。


「拗ねてないよ。気分転換してただけだ」

「そうですか〜 ホラ手が空いたから字の練習しようよ」

「…」


「あっ、また意地悪されたんでしょ」

「…違う」


ゼオは城に来てエルドから魔法を教わっているが、城全体から歓迎されているわけではなかった。

使用人の中にはゼオに嫌がらせをしたり、悪態をつくものもいた。


「気にしてない。別に前いた街の方が酷かったし」


結局、どこへ行っても同じかとため息が出た。

閉じ込められたり追い出されたりしないだけマシだった。

やるべき事をすれば給料はでる。


「みんなゼオをやっかんでるのよ。顔は可愛いし、陛下からの指示で城に来たんでしょ?平民なのに1人部屋も与えられているから」


「別に、気にしてないって」


メリルは、最初からゼオを受け入れていた。

同じ年頃の弟がおり、扱いに慣れていた。

エルドに言われて、字も教えている。


「怪我した?」

「もう、治した。擦り傷だし」

「すごいね。魔法って。ゼオみたいな特別な人間がもっと増えればいいのに。」


わぁーと、目を輝かせながらメリルは言う。


「エルド様、今日は遅くなるって。ホラ行くよ。早く勉強してもっとすごい魔法使いになってよ」


ゼオはエルドから魔法を教わる予定なのだが、エルドはやる気がないのか放置されることが多く、今日も何も言わずに留守にしている。

魔導書を読もうにも字が読めない書けないだったので、メリルに字を教わっている。

読むことは覚えたので今は書くことだ。


「なれるかな」

「ならなきゃ、ここでは生きていけないよ」


メリルのこともごもっともだがそんなにすぐ切り替えはできない。

やっぱり、エルドに放置されているのが気に入らなかった。


***


朝、エルドは相変わらずメリルに起こされる。


相変わらずの無表情で着替えて、用意してもらった果物をかじる。


ご飯を食べろと管理され続けている為、妥協案で果物を食べる。


「エルド様、今日はゼオの指導ですか?」

「……今日は別の仕事がある。」

「ゼオが拗ねてましたよ。エルド様から指導が全然ないって」

「…」


そういえば、王様に指示されていた。

忘れるところだった。

金髪貴族の動きが怪しいのと、結局ガリオール男爵に詐術をかけにいかなければならなかった。

あと、契約している雑貨屋、薬屋も行かなければならない。

その妥協案で、字の練習をさせていたんだった。


「…」

だが、しょうがない。

それに気を回す気にもならない。

基本的なことはできるようだし、魔術書からでも覚えられる。


やっぱりエルドは黙って出かけていった。


しかし、その姿をゼオは見ていた。


また、何も言わずに出かけていく。

何をしにいっているのかがずっと気になっていた。

ゼオはエルドの気配を追って瞬間移動した。


***


パッとエルドの気配を追う。

知らない森に出る。


そして、ここでまた気配がとぎれている。

感覚を研ぎ澄まし、気配を追う。

エルドの気配は独特で探しやすい。

ただの人間と違い禍々しい力がある。


見つけた。

パッと移動する。


次は、岩の上だった。

思わず、よろける。


「あれ?ここのはず」


あたりを見渡す。

エルドの姿が見当たらない。

岩だらけの山の上だった。


「うわっ!」


何かが頭に乗ってきて驚く。

鳥だった。


驚いて心臓がはねた。


しかし、エルドの魔力が途切れていていない。改めて魔力を追う。


反対方向に魔力を感じる。

何をやっているんだろう。

不思議に思いながら延々とエルドの魔力を追いかけた。


***


「おかえりなさいませ、エルド様」


夜になってようやくエルドが帰宅する。


「ゼオにあいませんでしたか?今日は姿が見えず、さっき帰ってきたんですけどすごく疲れてるみたいで寝ちゃったみたいです」


「…」


エルドは、ゼオの部屋を覗きに行く。

ベッドの上で魔術書を開いたまま眠っていた。


じっと見つめた後、フッと消えた。


***

それから、ゼオはエルドが仕事と言い不在にする日は魔力の跡を追いかけるようになった。


行く場所行く場所、気配はあるのに本人は全く見当たらない。

謎だった。


エルドは一体何をしているのか。


そんな事を2ヶ月ほど続けたある日。


魔力を追ってたどり着いたのはサンザの街の一角だった。


店の中からエルドの気配を感じる。


透明化して中に入る。

普通の雑貨屋だ。

中はこじんまりとしていて、ヘアアクセサリーや女性向けの小物が置いてある。


「ターニャちゃん」

「はい、ルカさん」


「あの箱を外の物置にだしてきてくれる?」

「はーい」


元気よく返事をした一つ三つ編みの女。

ルカと呼ばれた女性はお腹が大きい。


外に出て、倉庫の前に老婆がいる。


「ターニャ」

「はい、おばあちゃん」


どさりと荷物を下ろす。


「話していた通り、今日で終わりにしよう」


ターニャと呼ばれた少女はニコリと笑う。


体が光り、光りがやむとその姿はエルドの姿にかわる。


「はい」


無表情の魔女が立っていた。


「手を出して」


老婆は両手を差し出す。

エルドは老婆の手を握る。


「契約終了」


その一言で、2人の手の上に紫色の魔法陣が現れ、パキンと割れて粉々になり消えた。


「これで、契約解除です。ご利用ありがとうございました。」

「今まで、どうもありがとう」


老婆の息子は、娘が死んだ事を実は分かっていた。

だけど、乗り越えるのに時間がかかった。

今は新しい家族を迎えて前に進んでいる。


「では」


シュンと、消える。


残った契約はあと一つ。


エルドは街の高台の屋根へと移動する。


そこで、手のひらの上に魔法陣を作る。

青色の光が溢れる。


両手でそれを広げ空に大きく展開する。


ぐるぐる回り魔法が発動し、やがてキラキラと消えた。


エルドはじっと空を見つめていた。


かとおもえば、グッと何もない空間をいきなり掴んだ。


すると、透明化していたゼオが現れる。


「見つかった」

ちぇーとそっぽをむく。


「大分、魔力の使い方がうまくなった」


ぽん、とゼオの肩を叩く。


「瞬間移動は魔力の移動や使用が細かくて繊細だから、魔力の使用練習にちょうどいい」


「…まさか、わざとあちこち振り回してたんですか?」


黙っている。

肯定である。


「それより、さっきの魔法はなんですか?」


ゼオは自身の今までのことより、今日見だことの方が気になっていた。


「さっきのは、詐術魔法」

「詐術???」

「街の人間の記憶からある記憶を抜いたのを戻しただけ」

「何のためですか?」


エルドは高台で強い風がびゅうびゅう吹くため、髪があちこちに靡くのを止めることもなくただ街を見下ろしていた。


「何のため… さぁ、何のためだろう。そうしようと思ったからそうした。別にしなくてもよかったかもしれない」

「何言ってるんですか?!」

「契約外のオプション。長年利用してくれたから、最後にサービスした」


街の人間の記憶を、本来の記憶にもどした。

ターニャが母親と死んだと言う、前にかけた詐術を解いただけだ。


「ゼオ」

「はい」

「帰る」


シュンと、エルドは先に消える。

デオは、さっきの光景が脳裏に焼きついたまま、名残惜しそうにエルドをおう。


エルドが、魔法を使う姿がこの世のものでないように美しかった。

そして、なぜか優しさを感じた。


そして、あの老婆の満足げな表情。

どんな契約をしてエルドは娘になりすましていたのか。

だけど、きっと人のためなんだろう。

いつもこんな事をしているのか。


いつも無表情で無感情な人なのに、あの魔法からはそんな不思議な感覚があった。

ぶっきらぼうでも、結局は優しい人だと、思った。


***


「お師匠様!魔法教えてください!!」


ある日、朝っぱらからやってきたゼオは開口一番そういった。


「…その呼び方、嫌…」

「お師匠様」


エルドは引いていた。


「ゼオ、字の読み書きは?」


「ばっちりですよ〜」


と、メリルがニコニコと、ノックをしながら入ってくる。


「なんだか急に真面目にやり始めて。でもやる気になったらすぐおぼえたんですよね。だけど、淑女の部屋に朝っぱらから勝手に入るのは絶対ダメよ!」


メリルはゼオの、耳を引っ張って外に出した。


「いててててて」


エルドはベッドの上で膝を立ててすわり頬杖をついた。



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