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「え?これ、わたしにですか?」


メリルは小さな手のひらサイズの銀色の丸いケースを渡された。


エルドは、朝食後しばらくしてメリルに薬をプレゼントした。


満月の日に大量に取ってきた保湿成分沢山のフレジアのピンクの花を煮詰めたり、他のハーブや蜜蝋をとかし入れ魔法をかけたり、混ぜて冷やして寝かせてを繰り返して完成した。


「わぁ、良い香り…」

「少しすくって、手のひらに伸ばすと乾燥や、痒みとかを和らげてくれる」

「ありがとうございます…」


メリルは高揚した顔をしていた。

喜んでいるようだ。


エルドは、若くて可愛いメリルの手の肌が荒れていることに気がついていた。

そこで保湿クリームを作ることにしたのだ。


「肌に合わなかったら使うのをやめて。また違うのを作ります」


メリルはさっそく手に塗っている。


「すごい!手が楽になりました!」


乾燥でぴりぴりしていたのだろう。

感動している。


「エルド様、ありがとうございます」


感動して嬉しそうなメリルを見ていられず、

エルドは無表情でまた魔導書に目を向ける。


そして、ヒヒンと馬車が止まる音がした。

早朝の静かな時間のため、音が響く。


窓の外をじっとエルドは見つめる。


「今日は公爵様方などが集まって会議の日ですね。王様をお待たせしないよう、皆様早くからの到着になります」


「…へぇ」


なんだか、魔法の気配がした。

こっそりとシャボン玉をとばした。


***


城の会議室にて、何十人もの貴族達が集まっている。

月に一度の定例会議である。


「…バカにしてるのかな」


「ハッ、陛下、失礼したしました!!」


バシッと書類を机の上にばら撒く。


「くだらない舞踏会を開いてる暇があったら東部に行け。貴様の領地もあるだろう。領民が洪水で死にかけてるんだから、行って泥まみれになりながら仕事してこい」


びくびくと恐怖に嫌な汗がダラダラと流れる。


「わかったらサッサと行っておいで」


「はっ、失礼いたしました」


睨まれた侯爵はすぐさま退散した。


「アドレ伯爵、東部は様子次第で今年度は減税の調整をしろ。随時報告をおこたるなよ」

「御意」


「次」


スッと手が上がる。

オーディン公爵だ。


「陛下、他国からの使節団の申請がございます」

「どこだ?」

「ラグナです」


ピクリとレオリオが、反応する。


ラグナは、アースの北に位置する国だ。

気候や環境はさほど変わらないが、ラグナはアースよりずっと小国家である。

そして、魔法文化がある国である。


「ラグナ?」


「我が、オーディン公爵家は最近ラグナと貿易を、拡大しているのですが、ラグナ側から

もう何年も国としての交流がない為、今アースの王権交代後落ち着いたタイミングで一度親交を深めておきたいと申し出がありました。」


「……ふぅん」

「いかがでしょう、陛下」

「いまの程よい距離がちょうどいいんだけどな。」


アースは大国だ。

どちらかというとラグナに貿易で物資を与えている側である。


すっと、他の伯爵が手を挙げる。

「陛下、ラグナは魔法が常用されている国です。敵対せず、程よい距離を保つのがよいかと」


「正直使節団は今は時期ではない」


「陛下、一大事が起こった時のための盾とする為早めに親交を深めた方がよいかと…」


「盾ねぇ…」


「それに、陛下が今1人だけ所有している、魔法使い。ラグナを参考に我が国でも増やしては如何かと」


他の貴族達もハッとしてオーディンをみる。


「……」


レオリオはオーディンを睨んだ。

魔法使いに関しては緘口令をしいている。

この場でそれを言うことがどういうことか。


「オーディン」

レオリオが睨む

「城内に緘口令を敷いているようですが、時間の問題かと…魔法使いの取り扱いはそれのプロに教えを乞うた方が問題は少ないかと…」


オーディンは国王を前に、少しも怯むことなく挑発をしてくる。

レオリオからは不穏なオーラと赤い目が爛々とオーディンを睨んでいた。

周りの貴族達の方がことの成り行きに怯え始める。


すると、レオリオがはぁーと大きくため息をついた。


「使節団はひとまず許可しよう。だが魔法使いについては検討だ。そもそも、するにしてもラグナではなく、交流の深いリュベールにするべき案件だ」

「かしこまりました」

「あと、魔法使いに関してはラグナに他言無用。下手な交渉を持ちかけられてきても面倒だ」


ギロリとオーディンをきつく睨みつける。

オーディンは深く礼をして御意と答えた。


***


会議後、執務室にオーディンはそのまま訪ねてきた。


「陛下、謁見を許可頂きありがとうございます」


「それで?なんだ?」


「ラグナの件、許可頂きありがとうございます」


「どうせ最初から通ると思っていたくせに。魔法使いにしてもそうだ。もう国中に魔法使いの存在が知れるところになる」


はははとオーディンが笑う。


「陛下のそばに置かれている魔法使い様はお会いできないのですか?」

「あいにく、今日はいない」

「残念です」

「使節団は、許可したが魔法使いについては慎重に検討する。勝手に動くな」

「御意」

「使節団については、おまえに任せる。

城で滞在させるから、お前が準備しろ。アルベルト、手伝ってあげて」

「かしこまりました」

アルベルトが答える。


「それに、オーディン、ガリオール男爵の子守りもしてるんじゃないか?」

「アレはもう終わりですね。男爵は今だにおかしな挙動で経営もまともにできていません。もう、譲渡の手続きに入っています」


「そうか」


「陛下、あと気になる噂が」


「なんだ?」


「陛下が、どこぞの令嬢にゾッコンだと」


書類にサインをしようとしていたが、書き損じた。


「誰が?誰に?」

「相手は存じ上げません」

「何故そんなことに?」

「私が聞いたのは、フレジアの赤い花がきっかけで陛下がどこぞの令嬢と恋仲であると。」


噂とは恐ろしい。

何故こいつの耳にまで入るのか。


「そんな事実はないんだけど」


「ならよかったです、わたしはこれにて失礼いたします」


よかった?

気になる言い方をする。


オーディンは執務室を後にした。


その後をふわふわと見覚えのあるシャボン玉が付いていく。

レオリオはじっとそれがオーディンの跡をつけていくのを見届けた。


「アルベルト、ラグナの現状を調べて報告しろ。」

「かしこまりました」


魔法使いについては、アースは表よりは中立の立場をとっている。

リュベールとラグナの間に位置をしているが、過去の戦歴から言ってリュベール寄りとなった。

リュベールと友好関係を築き、今に至る。

魔術関係で窮地に陥れば助けを求め、反対に経済などに関して手助けをしている。

今も、アース国の第四王子がリュベールへ留学中である。

魔法使いの扱いについては慎重に行う。

現状、魔力を持ったアース国民は存在するならば、それらを何とかする手を撃たなければならない。


現状、魔法使いは役に立つ。

だが、危うい。

その存在が多くなれば、悪も出てくる。


「エルド」


ふと呼んだ。

しゅんとエルドはすぐに現れた。


「王様、お呼びでしょうか」


「シャボン玉が今オーディンの跡を追っていったぞ」

「お貴族様達の中に魔力を感じたので、追跡させて戴きました。」

「オーディンから感じるのか?」

「はい」


何をやっているのか。

頬杖をついて考え込む。


「なんの魔力だ?」

「守護魔法ですね。あのお貴族様には追跡魔法がかけられています。ラグナの魔法使いがかけているのでしょうね」

「そんなの、わかるのか?」

「魔力を感じ取るのは簡単です。」


ホラ見たことか。

すでにラグナはあやしいじゃないか。


しかし、ふと、レオリオが考え込む。

「もしかして魔力を持っている奴とかこの国にいるかわかるのか?」

「いますよ。たいがい魔法使いになれるほどの魔力があるとコントロールできずに暴走させてしまって、それをネタに迫害されるのがオチなので。子供のうちに死ぬか、孤児院ですごしていると思います」


ふむ。

子供か。


「わかった。ありがとう」


ぺこりと頭を下げて消える。


「アルベルト、諜報員をよんで、調査をさせろ。」

「孤児院とかで迫害されてる子供の調査ですか?」

「そうだ」

「わかりました。影を回します」

「あと、疲れた…茶をくれ」

「メイドをよこします」

「頼む」


アルベルトが出て行き、レオリオは黒髪をぐしゃぐしゃとかき、椅子にだらりとして、大きくため息をついた。


「グレンは何をやっているかな…」

ぽつりとひとりごちる。

未だに連絡もなく長いこと姿を表さない弟のことを考えてまたため息がでた。


***


くしゅん



リュベールの首都に近い大きな森。

パルムの森。


「やだ、風邪??やめてよ。あっち行って」

銀髪の美女がしっしっと少年に手をひらひらさせて言う。


「ひど」


黒髪の少年は、ずずっと鼻をかみながら女を睨む。


「グレンにはもうあらかた教えたからもう帰ったほうがいいんじゃない?留学期間とうに終わってるのになんで帰らないのよ。あっちの両親が心配するんじゃない?」

「あー、そんな寂しいこという?」


ふはっと少年が笑う。


「心配ないよ。俺の親はとっくの昔に死んでるし」

「え?そうなの。じゃあ、兄弟?」

「そうだね〜」


あっけらかんと話す。


「もうちょっと、魔法の事を勉強してから帰りたいんだ。ほらうちの国、魔法使いいないでしょ?ゼロよりは1くらい魔法使いがいてもいいと思うんだ」

「アースの国王陛下次第でしょ?あなたにどうにかできる権力あるの?」

呆れたと、美女は笑う。


「まぁ、それなりにね」

少年は、にっこり笑った。


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