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「おはようございます!エルド様!」


今日も元気にメリルが起こしにくる。

シャッとカーテンを開けられ、太陽の光が部屋に差し込んでくる。


「…おはようございます…」


城へ強制移住してから早一月。


エルドの生活はすっかり変わった。

食事をきちんと取るように口酸っぱく言われ、夜、薬品を作って寝過ごしたとしても朝メイドがしっかりやってくる。


自堕落な生活から一変した。


ぼんやりとしてると、メリルが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。


似たような服がクローゼットにはそろえられて、以前のように魔法で浄化するのではなく、新しく袖を通す。

服はメイドが洗ってくれている。

貴族でなければ平民でもない魔女なのに、高待遇である。


「今日はいい天気ですね」


ニコニコと無垢な笑顔を向けられる。

メリルは平民で、幼い頃からお城へ奉公に出されているという。

年は15歳で、背もエルドと同じくらいで並ぶと同じ年頃の娘にみえる。

エルドからしてみれば、赤子のようなものだった。


可愛くて、つい助けたくなる性格をしていた。


毎日よくこんなに笑えるものだ。


メリルはたまに魔法を見せてほしいとおねだりをしてくる。


なのでコッソリと魔法を見せている。


嬉しそうに笑ったり驚いたりする姿をみていると、エルドの心もあったかくなった。

これも、捨てる気にならない感情だった。


「エルド様、今日はどうされるんですか?」


朝食の、フルーツやお茶をテーブルに並べながらメリルが尋ねる。


「内緒」


エルドがそっけなく答える。


「えーまた、内緒ですか???お昼には帰って来られますか?」

「…さぁ」

「ご飯ちゃんとたべさせないと私が陛下におこられるんですよ??」

「……」


少し罪悪感を感じた。

だが、しょうがない。


「夜はちゃんと帰ってくるから…」


「約束ですよ???」


困ったように眉毛をさげる。


「約束するわ」


ニッコリとメリルは笑った。


そしてエルドは目の前の赤いフルーツをかじる。

ここにきてから本当に忙しい。


今日は薬屋に行かなければならない。


もう1週間も店を開けていない。

そろそろ、常連客たちが困る頃だろう。


***


からんからんと店のベルがなる。

お店をあけると、常連客が、ぽつぽつと買い物をしにきた。


薬屋に来る客はたいがい同じで、普通の薬屋においていない薬がほとんどだ。

それを、すべてエルドが作っている。

本物のオーナーから教わったレシピや、エルドが独自で揃えているものもある。


気がつけば、それらを求めて客がちゃんと入るようになった。


オーナーが求めていた望みは叶いそうにもないが。


いつものようにカウンターでぼんやりとしていた。


カランカラン


「いらっしゃい」


入ってきた男をみて、ハッとする。


「こんにちはマダム」


長い金髪を一つにまとめた長身の男が入ってきた。


「おや?見ない顔だね…」


驚いたことに気づかれないよう、フードを深めようと顔をひっこめる。

この前、ガリオール男爵と話していたオーディン公爵そのひとだった。


「薬がないかと思ってね。知人にここを紹介してもらったんだ。」

「それはそれは、お貴族様がこんなへんぴなところにいらっしゃるとは、どんな秘薬をご入用で?」

「媚薬さ」


オーディンは隠しもせずに答える。


「媚薬。あるかい?」

「もちろんですよ」


エルドは立ち上がり薬棚から目的のものを見つける。


「これは高いよ。銀貨3枚だ」


「安いもんだよ」


「まいどあり」


「使用方法は?」


「薬を一滴何か飲み物と一緒に混ぜて、惚れさせたい相手に飲ませるだけ。

飲ませて、最初に見た相手に効果を示す。」


「わかった。ありがとう」


ニコッと微笑む。


「…この店」

「はい?」

「この店、素敵ですね」

「あぁ、ありがとう」

「またくるよ」

「お待ちしてますよ」


カランカランと静かに出て行った。


王様に報告しとくかな。

ふむ、と考え込む。

媚薬の使い道…

あの公爵に媚薬は必要なさそうだが。


もう夕方な事に気がつく。

窓から茜色の空を見て思う。

そして、しずみかけている太陽と離れた場所に満月がある事に気がつく。

今日は湖へ行く日だ。

いつものハゲの薬を求めてあの男性客が来て最後の一本を買って行った。

また作らなければ。

あと、作っておきたい薬があった。



***


夕方、エルドはメリルとの約束を守り部屋に戻った。


部屋では、ニコニコのエルドが待っていたが、陛下から晩餐に来るような指示も来ていた。


そういえばまた昼を抜いた。

この城のシェフは相当腕がいいのか、エルドが食べ物の味を知らないだけか、相当クセになる味だった。


また食べたい気持ちと、この暮らしにどっぷり浸かってしまっている自分が嫌な気持ちとで複雑だった。


そして、晩餐の時にレオリオが言った。


「エルド、今日湖に行くんだろう?俺も行く」


この男は、満月の日を把握していたのか。


「夜中ですけど」

「かまわん。今からまた仕事するから、呼びに来い」

「かしこまりました」


そして、仔牛のステーキを黙って口に運んだ。


すると、見られているのに気がつく。


「?」

「いや、なんでもない」


パッと目を離す。

不思議に思ったものの、気にせずまた食べ続けた。


***


「大丈夫か?」

「ちょっと、まってください」


立ち止まり振り返る。


夜中、エルドは執務室へいつものように瞬間移動で現れた。


湖まで移動のため魔法を使おうとすると、レオリオは待てと言った。


「湖まで歩こっか」


とんでもないことを言い出したのだ。

命令なので従うも、城を出てだだっ広い庭園

を歩いていたところでレオリオについていけなくなった。


「おうさま、はやいです」


明らかに疲れている。

便利な移動手段を常用しているため、長く歩くことがない。


しかも、歩くスピードが速い。


「普段歩いてないからそうなるんだぞ」


「……私をいくつだとおもってるんですか」

「そういえば、年齢的にはもう老人を通り越してるな。見た目が10代なんだから普通に暮らしていればそれなりに筋力あるだろう」

「…老人…」


言われてみるとそうだ。


「もう少し、ゆっくり歩いてください」

「おぶってやろうか?」


この国の1番偉い人のおんぶ…

許されないだろう…

呆れる。


「自分で歩きます」


また、歩き始める。


庭園を抜けると、森がある。


エルドは魔法で灯りを増やした。


2人の周りをふわふわと飛び回る。


「湖までは、草を刈り取って道を作ってあるから歩きやすいはずだ」

「そうですね」


ふと、思い出した。


「王様、今日薬屋に金髪のお貴族様がいらっしゃいました」

「オーディンが?」

「はい。」

「何をしに?」

「薬を買って行かれましたよ」

「薬?わざわざ、自分で?」


貴族にしては珍しい。

普通、執事や下人に買いに行かせる。

しかも公爵という身分であるにもかかわらずだ。


「何を買った?」

「媚薬です」


はぁ?という顔をする。


「あいつには、いらないはずだがな」


存在自体が媚薬みたいなものだ。

甘いマスクと振る舞い、佇まい。

完璧でよりどりみどりだ。

婚約者もいる。

何に使うのか。


「覚えておこう。何かあればまた報告して」

「御意」


2人並んで歩く。


「助かってるよ。いつも。エルドが来てから何かとやりやすくなった。感謝してる」


移動や、諜報活動。また呪いの類の探知や、城の従業員達に薬まで卸している。

あとはレオリオの相手。


城内で、エルドの存在も知られてきた。

怖がる使用人ももちろんいるが、メリルのように興味が強いものもいる。


「城の暮らしは窮屈じゃないか?」

「いえ、全く。かえっていい暮らしをさせていただいてて感謝しております」


ふっとレオリオは微笑む。


「西南地方の飢餓地区を知っているか?」


突然、切り出す。


「………噂には」


「俺に政権が渡った後、前の王のときにあそこが1番危害があった。俺はそこを早く立て直そうと動いていたんだが、あそこに訪れた時に痩せた住民達がこうはなしてきた。

たまに不思議な女がやってきて、夜中大量の食べ物を教会や道端に置いていったりしていたらしい」


「……」


「ある男が、たまたま明け方にその女を見たらしい。フードを被った小柄な女の子だったと。不思議なことに空から降り立って、どこからともなく大量の荷物を一瞬でそこに出現させたらしい。そして、また消えた」


「へぇ…」


「お前、契約金の使い道はどうしてたんだ?」


調べられているのか。

王様の諜報員は優秀なのかもしれない。


「…正直お金は必要ないので。あげてました」


「ふぅん」


「随分でかい奉仕活動をしてたんだな」

「暇つぶしですよ」

「…正直、それでも救われた人たちがいるんだ。すごいよ、お前」


わしわしと頭を撫でられる。


「褒められることはしてません。いらないから、いるところに置いてきただけですので」


そして、撫でてくる腕をよける。


「お前、本当に自分の名前とか思い出せないのか?」


「……」


エルドは月を見上げる。

まだ湖にはつかない。

ゆっくりゆっくり並んで歩く。


「最初の記憶は忘れたんじゃなくて、頭から全部抜き取ったんです」


「抜き取る?」


「魔法で自分の中から記憶を消すんです。私は私の元々あった記憶を抜き取って捨てました。

だから、思い出せないというか、不可能なんです」


「なんでそんなことを」


「忘れましたけど、多分、嫌なことが多すぎて面倒になったんだと思いますよ」


「捨てるほどに?」


「今でも、嫌な記憶ほど残ります。良い記憶はあったはずなのに、時間が経つと忘れて、嫌な記憶しか思い出せなくなります。」


夜風がそよそよとふき、エルドのピンク色の髪をふわふわとなびかせる。


真っ直ぐ前を向きながら話す。


「悪い記憶だけが積み重なると嫌になります。だから、感情はちょくちょく捨てるようにしてます。そして、人間とは深く関わらないこと。」


スッと、レオリオを見る。


「そうしないと、もうやっていけないんです」


いくつもの経験が彼女を構成して今に至る。

記憶も感情も捨ててきたと言う割に、彼女の瞳には幾重にも重なるような哀しさが滲んでいる。


「王様は、そうはさせてくれなくて困ってますが」


うーん、とレオリオは困ったように笑う。


「だって、気になるから仕方ないじゃないか」

「そうですか」


話しているうちに湖につく。


エルドは魔法でかごをだし、花を摘む。


「これ、何に使うんだ?」

「ハゲに効く薬の原材料です。店の売れ筋商品です」

「そうなのか…」


こんなに幻想的に咲いてる美しい花なのに…

レオリオは聞かなきゃよかったと思った。


「根っこの部分が頭の薬で、花の部分はまた別の薬です」


レオリオは地面にあぐらをかいて座って、頬杖をつきエルドを見つめた。


「花は、保湿成分が高いので肌の薬になります」


かごいっぱいに花を摘む。


「なんで、ここにしか咲かないんだ?」

「ここだけといいますか、同条件がそろえばどこにでと咲きますよ。なかなかないですけど…」

「へぇ…」


ぷちぷちと花をかごにどんどん追加していく。

レオリオはぼんやりとそれを見ていた。


「王様、なんでついてきたんですか?」

「ん?気分転換」

「この湖にくるのが日課なんですか?」

「あー」


レオリオは湖の先にまだ道が続いており、その先を見つめた。


「あっちに、皇族の墓地がある」


エルドはレオリオの見つめた先をみてわかった。

あぁ、なるほど。


「だからたまにくるだけだ」


エルドはもくもくと花を摘んでいる。


「なんか言えよ」

「え?あぁ、変わった趣味ですね」

「そうだな」


レオリオは両腕を後ろについて、空を見上げる。


「あそこには歴代の皇族と、皇妃達が眠っている。俺の母親も、父親も、兄もみんな」


ぽつぽつと話す。


「俺の母を殺したのは父親で、父親と兄達は俺が殺した。そんなのの墓が一緒に仲良く並べられてるなんて滑稽だよな」


「王様のしたことは偉業だと、巷では語られています」


「偉業ねぇ。」


ぷつりと近くにあった花を積む。


「ただ、母親の仇をとりたかっただけかもしれない」


レオリオの母は前王のせいで心を病み、また、他の皇妃達によるいじめもあり、自害したとされている。


「母親を死なせた前王が許せなくて、この男は死んで当然だと思う理由が揃ってた。そして、兄達も同様で生きてても同じことが繰り返されると思ったから躊躇いなくやった。」


それだけ。

きっとあの世で自分を呪っているだろう。


「でも、俺もいずれあそこに並べられるんだ。」


はぁーと空に息を吐く。


「皇族ですから」


「そうだな」


すると、目の前にすっと花が差し出される。


レオリオはそれを受け取りまじまじとみる。


「なんだ?」


「花の色が赤色」

「それがどうした?」

「フレジアの花で赤いものがあったので。桃色が普通ですが、異種でしょうね。だけど、美しかったので、王様にあげます」


レオリオはエルドを見上げる。

相変わらず無表情だった。

そして、また花を摘み始める。

カゴは二つ目に突入している。

いったいどれだけ持ち帰るつもりなのか。


「…俺は男なんだけど」


「いらないですか?」


「いや、いる」


魔女らしくない。

感情が欠如しているようで、心の奥底には優しさがあるのが、わかる。

きっと励まそうとしてきたんだ。

励ましの言葉を言えそうにない奴だから。


リリーエヴァンのことも、薬屋のことも今回のことも。

優しさが彼女をこんなふうにしたのだろうなと花を摘む背中を見ながら思った。


***

「陛下」

「どうした?」


次の日、アルベルトがいつものように書類の山を執務室に、運んでくる。


「メイドが噂してましたよ」

「何を?」


「その花です。フレジアの赤い花」

「これか?」


メイドに花瓶に刺しておけと命じた。

落ちてたと言い訳をした。

アルベルトはなんだかニヤニヤしている。


「フレジアの赤は非常に珍しく異質で、恐れられ嫌われるせいか、それに因んで生まれた花言葉があるそうで」

「特に意味はないが」


アルベルトはこそこそとレオリオに耳打ちする。

レオリオは書類を落とした。


いや、あの花はエルドが適当に励まそうと渡してきただけで、他意はない。

そもそもあの魔女が花言葉なんぞ知るわけない。


「落ちてたんだ」


書類で顔を隠す。


「左様でございますか。」

「そうだ。ホラ、これ公爵に持っていけ。南の部屋にいるだろうから」

「かしこまりました」


アルベルトはどこか上機嫌に部屋を出て行った。


レオリオはアルベルトがいなくなったのを確認してから、頬杖をついて花を見た。



偶然で全く関係はないけれど、なぜか気持ちが期待して高揚した。


はぁ、とため息をついて、また書類に向き合った。


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