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1-11

「王様は、普通魔女と食卓につくことはしないのでは?」


目の前に並んだディナーを前にエルドが無表情で尋ねる。


「この国では俺が法律だからね」


ははっと笑う。

王様なのに、王様らしからぬ自由な男。

その王様に王様らしさを求めることを諦めた側近たち。


戸惑っているのはエルドだけだ。


「お前は、細すぎる。その辺の子供のほうがよっぽど肉がついてるぞ」


「……」


「普段何食べてるんだ」


エルドは記憶をたどる。


「昨日は… パンひとつ」

「は?」

「一昨日は…豆の乾燥させたやつ」

「はぁ?」

「その前は、思い出せないですね」


「まてまてまて。一日でそれだけか?」

「はい」

「おかしいぞ。金ならあるんだろ?本当は貧乏なのか?」

「違います。食事が面倒で、普段は魔法で栄養を蓄えているので。口から物を入れるときは食物がやむおえなく手に入ってしまったときですね」


どういう理論だ。

やむおえなくって。


「食べたく無いのに無理やり食べてる風だな」

「そうですね」


否定しない。


「おまえ、その無気力さはおまえの生活習慣からくるものだ。絶対そうだ。なぁアルベルト」

「そうですね。食事は人間の生きる活力ですから」

「ホラ」


エルドは無表情で彼らを見る。

仕方なく、久しぶりにフォークとナイフを持ち口に運ぶ。


前菜とスープ、メインとデザートの構成である。


目の前の前菜のメニューを食べる。


口に入れた途端、動きが止まる。


レオリオもアルベルトも動きが止まった魔女をじっと興味深く見ていた。

少し、表情が高揚したように見えた。

しばらくして、口が動き始める。

無言、真顔でただひたすら食べる。


「どうした、大丈夫か?」


無視して、食べ続ける。

いつのまにかメインを食べている。

ずっと無言である。


ニヤニヤとレオリオが笑う。


全てのメニューを食べ終わる。


「どうだ?うまいだろ。うちのシェフの味は」


エルドはやっぱり無表情だが、ふぅとため息をつく。


「今まで口にしたもので1番おいしかったです」


素直に感想を述べる。


「食の文化の発展に感動しました」


ガクッとアルベルトが項垂れるが、魔女は満足しているようなのでいいとする。


「そうか。それは良かった」


レオリオも満足そうだった。


「ひとまずは毎日しっかり食え。肉つけろ」


「……善処いたします」


正直今日これだけ食べたら1週間はご飯要らなかった。


***


「陛下、報告致します」


執務室に騎士がくる。


「どうだった?」


「ガリオール男爵夫人の葬儀が本日執り行われております。死因は原因不明の病死、男爵は急な訃報に精神的なショックを受けており、よくわからないうわ言ばかり言っているの事。」

「うわ言?」

「はい。曰く、女の呪いだと。夫人と交流のあった女の呪いで、自分が撃って殺した。だけどいつのまにか消えた。

そのあと夫人が血を撒き散らして死んだと。」

「……」


「ずっと何かに怯えて、部屋から出てこないそうです」

「………わかった。さがっていいぞ」


頭を下げて、退出する。


アルベルトと2人になる。


「さて、どうしようかな」

「男爵も引きこもってしまっては港の治安や経営状況が不安になりますね。」

「…あそこの息子は?」

「はい。遊び歩いて、今はどこでなにをしているのか」

「ふぅん」

「ひとまず、男爵の噂が広まるだろうし、港の警備をさらに厚くして。まぁ、すでに厚くしてる可能性あるか。確認だけ怠るな。」


ガリオール男爵家も没落かな。

没落後台頭してくるのはどこだろうか。


嫌な狐の顔が思い浮かばれる。


どこからも目が離せない。


「そうだ。アルベルト。エルドに1人、侍女をつけろ」


「え?魔女様にですか?」

「なんだ。だめなのか?」

「いえ、魔女様は貴族ではないので…侍女など不要ではないでしょうか?」

「ダメだ。アレは見張りをつけなければすぐに自堕落な生活を送る。」

「……御意」


たしかに。

見張りは欲しい。

まだ完全に信用はしていけないと、アルベルトは思う。



「陛下、使用人からの選抜になりますが良いでしょうか?」

「任せる」


あくまで監視だ。

そもそも、あの魔女は侍女などつけても大概のことは自分でやるし、嫌がりそうだ。


「陛下、それと」

「なんだ?」

「縁談の書状が何通もきております」

「………うーん、まぁ、あっちに置いておいて。暇になったら見るから」


はぁ、とアルベルトはため息をつく。

暇なんてないじゃないか。

結婚する気がまるでない王様。

世継ぎをつくるのも王の役目なのに。


「王の座はいずれは弟のグレンに渡すつもりだから。俺はそれまでの繋ぎでいいんだ。結婚もしない」


第四王子は現在14歳。

成人まであと4年だ。

今はリュベールへ留学中である。

便りが来ないのが不安だが、諜報部によると真面目に勉強中との事。

大丈夫だろう。


「私は、陛下の治世が永遠に続いて欲しいです」

「戯言だな」

「臣下は皆そう思ってます」

「それこそ、詐術だな」


ガタンと席を立つ。


「陛下、どちらへ?」

「散歩だ」

「かしこまりました」


アルベルトは礼をして見送る。

この手の話はいつも逃げられる。

王様らしからぬ王。

望んでなったわけではない王様。

あまりにも酷い状態に嫌気がさして全王や皇太子を殺したのはレオリオだが、その後の治世までする気はないらしい。

死んだ皇太子が予定通り即位していたら

今も自由奔放に暮らしていただろう。


本来の、後継者。

皇太子がまともだったら。

はぁ、とため息をつく。

後悔してもしょうがない。

本当にイカれた奴だったから。


だけど、第四王子にうまく引き継げるだろうか。


***


「エルド」


部屋に入ると、魔女はそこにいた。

ソファの上で足を椅子にあげて本を読んでいる。


レオリオに気が付く。


「王様」

「まじめに本を読んでるのか」

「命令なので」


エルドが読んでいるのは、書室にあった魔術書だ。

魔法に精通していないアース国だが、他国から流れてきたものや、戦争で回収されたものなど、魔術書の類は外部に出ないように管理されてきた。


レオリオはエルドの座っているソファの向かいに腰掛ける。


「役に立ちそうか?」

「意外と」

「そうか」


すっとエルドは指を前に出す。

不思議な円が現れる。

読めない字が周りを取り囲んでいる。

すると、周りにぽんぽんと虹色のシャボン玉が現れ、開け放たれたまどから外に出ていく。


「綺麗だな。さっきの円はなんだ?」

「魔法陣です。大きな魔法を使う際に使うらしいです」

「さっきのはただのシャボン玉じゃないのか?」

「あれは、偵察玉です。目的地に飛んでいき、その場所の情報をそのまま見ることができます。」

「へぇ… アレはどこにいったんだ?」


エルドは外を見つめたあと、レオリオを見る。

「ガリオール男爵邸です」

「へぇ。優秀だな」

「男爵の様子でも見ておこうかと思いまして」

「見てどうする?」

「私にとって都合悪ければ、それなりの対応をします」

「怖いな」

「怖いですか」

「敵には回したくない」

「そうですか」


エルドはぽんぽんといつものようにティーセットを出す。


勝手にカップにお茶が注がれる。


「どうぞ」

「コレもなれてきたな」

「王様をもてなすには粗末ですが」

「はいはい」


いつも通りのやりとりだ。


「おまえ、ちゃんと飯はたべてるのか?」


「………」


昨日の夜のあと、今日の朝、昼とあったが、契約者のところへ行っていた為食べていない。


「忙しかったので」


言い訳をする。

どうして食事を管理されなければいけないのか。

見た目に合わせて子供だと思われたらたまったもんじゃない。

ほっといてほしい。


チリンチリンとレオリオはベルを鳴らす。

すると、メイドが入ってくる。


目がくりっとした10代半ばごろの女の子だ。

栗色の髪をお団子に纏めている。


「はいっ!陛下、お呼びでしょうか」


サッと現れ、頭を下げる。


「顔を上げろ。エルド、この部屋付きのメイドだ。何かあればメイドに言え。朝昼晩と訪ねさせるから。どこかにいくときはちゃんとメイドに言え。」

「………御意…」


なんだろう、この待遇は。

確実に管理され始めている。


「エルド様、メイドのメリルと申します。よろしくお願いします」


可愛らしく礼をする。


「さっそくだが、軽食を持ってきてくれ」

「かしこまりました」


そのやりとりに、ぎょっとする。

軽食…

食わせる気か。

もう、ほっといてほしいな。


するとあっという間に目の前のテーブルにデザートやらサンドイッチやら、やたら量が多い軽食が並べられた。


紅茶も、メイドが入れたものに変えられる。


エルドは目の前のきらきらしい光景にたじろいだ。

こんなものは初めてだ。


「さ、遠慮せず食え」

「……」


その圧に腹が減ってないとは言えない。

食べたくないとも言えない。


エルドは無表情で目の前のイチゴのケーキを口に運ぶ。

ぱくりと口に入れた瞬間、エルドの動きが止まる。


「…」

レオリオは新しい紅茶を飲みながら、どうしたのかと見ていた。


「どうした?!」

「……」


相変わらず表情は変わらないがモグモグと口を動かしながら、

ごくんと飲み込む。


「失礼しました。あまりの美味しさに感動したようです」


レオリオはガクッとする。


「そうか…まぁ、たくさんあるから好きなだけ食べなさい」

「ありがとうございます」


この魔女は今まで本当に食べ物に縁がなかったようだ。

昨日の夜も、美味しさに感動していたんだろうな。

なんだか可哀想で、レオリオはエルドにもっと美味しいものを食べさせてあげようと心に決めたのだった。

結構な量を食べた後、落ち着いたのかエルドは紅茶を飲んだ。


「何か食べている姿は人間らしさを感じるな」


言われ、キョトンとする。


「……それはよかったです」


じわりと心に滲む温かさ。

この男にあってからやっぱり何か変だ。

目の前で微笑まれると調子が狂う

温かい感情がいっぱい溢れて、疲れる。

だけど、いつものように感情や記憶を抜き取りたいと言う気持ちが起こらない。

ふと、思い出す。

そういえば昔、同じように世話を焼いてくれた人間がいた気がする。

でも、感覚だけで思い出せない。

不思議だ。


そこで、頭に映像が入ってくる。


「…王様、男爵が誰かにあってます」

「誰とかわかるか?」

「……金髪の髪を後ろで一括りにしてます。

瞳の色は濃い緑…背が高い…」


ピンときた。

狐だ。

思ったより動きが早かったな。


「男爵はどんな様子だ?」

「…完全におかしいですね。何かに怯えた表情で、金髪の男に何か訴えているようです」

「へぇ…」

「映像だけで、何を話しているのかはわかりませんので、見にいきますか?」

「どうやって?」


パチンと指を鳴らす。


瞬時に移動する。

ガリオール男爵邸。

2人の男の言い争いの目の前だ。


「…エルド」

「姿も声もあちらには届きませんのでご安心を」


なるほど。

また便利な。

堂々と腕を組み見学する。

エルドも相変わらずの無表情で堂々としている。なんてことないことらしい。


ガリオール男爵は立ち上がり、何かに怯えた表情で向かいに座る男を指差している。


「お前にガリオールは譲らない!ふざけるな!」


男は優雅に紅茶を飲み、半眼で男爵を見上げる。


「おまえ?」


男爵はハッとして、口を押さえる。


「男爵?身分というものをわかっていますか?」


ニヤニヤと笑いながら、20代程の男は足を組み直す。


「しっ、失礼した。つい、興奮してしまい…」

「先日、奥方が亡くなられてから本当に頭がおかしくなってしまったようですね。いい医者を紹介しましょうか?」

「結構です!」


あはははと男は笑う。


「公爵様。お気持ちはありがたいですが、私の事業に手出しは無用です。」

「そうはいっても君、何年も業務に携わってないじゃないか。君の奥さんがずっと取り仕切っていたの気づいてないとでも思うのかい?」

「………最初は私がやっていたんだ。問題ない」

「昔はその港を圧力で押さえつけて統制して裏で随分遊び呆けていたよね。危ないなぁと思っていた矢先、酔っ払ってフラフラと港で海に落ちる君を見たとウチの騎士がいうものだから死んだかと思ったら生きてただろう?

驚いたよ。

それからだいぶ大きな組織になっているから、管理するのは大変だよ。ウチも港の事業には絡んでいるし。それにあくまで協定だよ。勘違いしないでほしい。」


「どうせ、いずれ乗っ取るつもりなんだろうな。」

ボソリとレオリオがつぶやく。

エルドはじっと金髪の男を見ていた。

男爵が仕事をしていなかったことに気がついている。実際に行方を絡ましていたことには気がついていないようだ。


「まぁ、その、おかしな病気を治してからちゃんと自分の仕事を見てごらん。僕はいつでも大歓迎だからさ。警備だって独自に取り仕切れる。準備は万全だ」


ふふんと笑う。


男爵は悔しそうに唇を噛んでいる。


様子からして男爵の負けだった。


「じゃあ、僕はもう失礼するよ。」

「…わかりました」


スタスタと部屋を出る。

ついていこうとする男爵にふりかえり

「見送りは結構」

スパッといい、部屋を出て行った。


男爵は近くにあった花の花瓶を掴み、力任せに床に叩きつけた。


ガシャんと大きな音がして、メイドが駆け寄る。


はぁはぁと荒く息をし、ただならぬ雰囲気だった。


「王様、もういいでしょうか」

「いいぞ」


シュンと戻る。

今度はレオリオの執務室だった。


慣れたのか、アルベルトは特に驚かなかった。


「陛下、どちらへ行かれていたんですか?」

「なぁに、ちょっと偵察に」


ニヤニヤと笑いながら執務室の椅子に腰掛ける。


「狐が動いていたぞ」

「狐ですか?」

「オーディンだ」

「ジェハイド公爵ですか?」


金髪長髪の男は、オーディン・ジェハイド公爵だ。

若くして爵位を継いで、広大な領地と、サンザの食べ物の輸入や、海路での貿易も視野に入れている。

膨大な財産を所有し、公爵という地位も持つ。


「狐はずっと狙っていたからな」

「陛下に話されていましたもんね」

「まぁ、狐がなんとかやってくれるだろう。」


エルドは黙って立っていた。


「エルド、男爵の監視、たまにしておいてくれ」

「かしこまりました」

「下がっていいぞ」


ぺこりと礼をして消える。


「男爵に会ってきたのですか?」

「いや、ちょっとコッソリな、見てきたんだ」

「コッソリ?」


するとレオリオはだんまりと考え込んだ。


「ガリオールからオーディンに権力が変わるとなると、貿易相手が大きく変わるかな」


今までは海の貿易は殆どが海を挟んだボパルト国だったが、オーディンはどちらかというと反対側のベルモットと強い繋がりを持つ。


「まぁ、様子をみよう」



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