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エルド
意識がない中、呼ばれた。
ピクリと反応して契約の当然の流れで移動する。
レオリオは、エルドの部屋に来ていた。
仕事をあらかた片付けて夕食を共にしようと名前を呼ぼうとしたが。
部屋で何をしているのかが気になったのでわざと足を運んだのだ。
だが、
「…いない」
もぬけの殻のがらんとした部屋でひとりごちる。
他の契約者のところに行ったのか、はたまた書室へ行ったのか。
仕方なく呼ぶことにする。
「エルド!」
呼んですぐ、何かが現れる。
だが、それは普通ではなかった。
血塗れの魔女が横たわっていた。
驚き、近寄る。
「エルド?!!!」
ぺちぺちと頬を叩いても反応はない。
「なんだ?どうしたんだこれは?」
よく見ると、胸元に撃たれたような穴が空いている。
体も冷たく、心臓に耳を当てても鼓動が聞こえない。
「え…」
うそだろ
どくんと、自分の心臓が掴まれた気がした。
頭が真っ白になる。
だが、無我夢中になって医者を呼ぼうと立ち上がろうとする。
すると突然きゅっと手首を掴まれた。
驚いてエルドを見る。
「エルド??!!!」
傷口から紫色の光が光り始める。
何かの魔法陣がぐるぐると展開している。
エルドが、ふわりと浮かんだ。
レオリオは膝をついてその光景を見つめていた。
そして、エルドはゆっくりと地面に横たわった。
「エルド?エルド!」
レオリオは必死に名前を呼び、頬を触る。
すると、ゆっくりと目を開けた。
レオリオの赤い瞳を、薄緑の瞳が捉える。
「おうさま」
ふーっとレオリオは安堵する。
「おまえ、どうしたんだよ??大丈夫か?」
レオリオはエルドの髪を撫でる。
「…」
そうか。
またか。
むくりと起き上がり現状把握する。
城の部屋。
ベタベタの体。
穴の空いた服。
パチンと指を弾き、体を綺麗に修復する。
血が綺麗さっぱり消える。服の穴も元に戻す。
改めてレオリオに向き直る。
「失礼いたしました」
正座をしてぺこりと謝罪する。
「いやいや、どうなってるんだよ、さっきまで死んでなかったか?」
「………」
視線をずらす。
「何があった?」
「……契約が破綻しました」
「破綻?」
「第三者に撃たれました。そして、その第三者に私のことを話した契約違反で契約者が例の違反の罰則を受けた返り血でしょうね」
「あれ、マジだったのか?」
全身が血塗れだった。
契約者がエルドのことを他人に話した場合、契約違反として身体中の穴から血が吹き出して死ぬ。
恐ろしい罰則である。
エルドはガリオール男爵邸はどうなっていることやらと考えるが、もうしったこっちゃない。
あの惨劇の部屋を男爵がどう処理するか、楽しみにしていよう。
きっと、私は死んだと思われているだろうし。
ともかく、目の前の王様を見る。
ランプの灯でかすかにしかわからないが、右の頬や髪に血がついている。
思わず手を伸ばす。
「血…」
「ん? あぁ、生きてるか心臓の音を聞いたせいだろ」
ボウと魔法で汚れを消す。
「消しました」
「いいのに。戦場ではいつも血塗れだったし。」
「ここは戦場ではないです」
しっとりと見上げてくる魔女から目が離せない。
「エルド、心臓が止まっていたが、生き返ったのか?」
「……そういうことになりますね」
無気力な表情。
「私は死なない体です」
「不死身?」
「そうですね」
「生まれつきか?」
「さぁ、どうだったでしょうか。初めて死んだときにわかったので、どこでこうなったかなんてわかりません」
レオリオは無表情でエルドを見つめている。
「私が恐ろしいですか?」
エルドは尋ねる。
「恐ろしいな。だけど、なんだろうな。それでも…」
レオリオは、右手を動かす。
エルドの頬を指で擦る。
「そばに置いておくことにする」
ふわっと、レオリオは笑う。
何で微笑むのかわからない。
そしてエルドは予想もしない言葉に驚く。
「恐ろしくて、死にもしないなら、数十年くらい俺のそばにいてもいいんじゃないか?」
ぱちぱちと瞬きをする。
この男は何を言ってるのか。
「契約変更がないならそのままここにおりますが」
「変更はない」
「そうですか」
「そうだ」
そう言ってレオリオは立ち上がる。
「行くぞ」
そう言って、手を差し出す。
座り込んでいたエルドはその手をまた不思議な目でじっと見た。
「ホラ、手」
不思議な顔のまま、言われるがまま手を乗せる。
その手に従い立ち上がる。
「腹が減ったから、夕食にしよう」
レオリオは、にこっと笑った。
この男は笑うとすごく華やかだ。
その姿がすっと自分の中に入っていくようで不思議な気持ちになる。
なんだろう、この男は。
王様は魅了のような特別な力を持っているのだろうか。
「なんだ?」
顔を覗き込まれる。
「いえ、何も」
「ホラ、行くぞ」
「かしこまりました」
シュッと瞬間移動する。
また、執務室に突然現れ、アルベルトが腰を抜かした。
「エルド!移動は常に瞬間移動でなくていい!!!歩け!」
「かしこまりました」
キャンキャンしている主人を見て、何があったんだろう、とアルベルトが打った腰をさすりながら立ち上がった。




