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城でぼんやりと空を見ていたら、いつものように呼ばれた。
ガリオール男爵の奥方である。
男爵といえば、サンザの経済の中心人物で、輸出入でも上位に入る。
港ではかなり力がある人物として顔が広く、ガリオール男爵に歯向かう人物はうらで消される
何故、奥方と契約を結んでいるか。
数年前、ガリオール男爵は世間に知られずとして突然失踪した。
男爵不在となったことが世間にバレれば現状の経済、治安の統制などがまったくの無に帰る。
また、ガリオール男爵夫人は夫と共に事業を行なっていたが、この時代に女の力などでまわせるわけもなく、当然矢面に立つのは男爵であった。
また、屈強な港の男たちをまとめるのも、女では難しい部分があった。
そのため、男爵が失踪したときは途方に暮れた。
世間には療養中ということにして隠した。
そんなときに魔女と出会い契約をしたのだった。
それから、男爵になっているが行方不明の男爵が現れることはなかった。
そして、今。
エルドはいつものように男爵夫人の部屋に現れる。
「魔女様、ごきげんよう」
夫人の様子がいつもと違う気がする。
「こんばんは」
いつもあったどこか不安な様子がなかった。
ガシッとエルドの手を掴んでくる。
「魔女様、夫が、夫が戻ってきました」
目を潤ませながらエルドに訴えてくる。
「…それでは、契約終了ですね」
エルドは素早く契約解除の魔法を使おうとする。
だが、それよりも早い何かがあった。
「これからも、私達に強力してくれませんか?」
ぎゅっと両手でエルドの手を掴み離さなかった。
「夫は帰ってきましたが、まだまだ魔女様のお力を借りたいのです。」
欲に満ちた目でエルドを見てくる。
「…約束は完了です。契約は終了です」
エルドは冷たく言い放つ。
「どうしてですか?お金ならこれからも同じように渡します」
いつもなら、別に断る理由はなかった。
だが、今は違う。王様との契約があるので、ここで、終わらせておくのも都合がいい。
夫人の願いは叶ったのだ。
「契約終了です」
パァン
拳銃の音が鳴り響いた。
拳銃の弾はエルドの心臓を貫いた。
その場にバタンと倒れる。
床に血溜まりが広がる。
「…断らなければ死ぬこともなかったのにな」
部屋の影から本物のガリオール男爵が現れる。
「アンタ、ちょっと殺すことないじゃないか」
夫人が話しかける。
「俺は正直、こんな訳の分からない小娘なんて信用ならないからな。死んじまった方が安心する。」
ケッと吐き捨てる。
「アンタの代わりに何年も頑張ってくれてたんだよ?」
「この小娘が?信じられないな。俺はずっと記憶をなくしてあちこち彷徨ってたんだ。さっさと探してくれた方が良かったよ。」
「でも、殺すことないわ。説得したら彼女の魔法で私たちの力になってくれたはずよ?」
「魔法?」
「そうよ、この子は魔法使いでその力でずっと…」
だが
そのあと夫人は何も言えなくなる。
「どうした?」
振り返って驚愕する。
夫人の顔は青白くなり、ぶるぶると震えていた。
首元に手を押さえ、何かに耐えている。
だが、束の間。
ブシュッ
一瞬だった。
バタンと夫人の体は倒れる。
口や鼻、耳から大量の血が噴き出たのを男爵は見た。
男爵の体も血がかかっている。
呆然とその場を見つめた。
「どう…なっているんだ?」
目をあらんかぎりに見開き、夫人の体を凝視する。
その奥で、ボウっとエルドの体が光り始める。
光が溢れ、やがて光と共にエルドは、消えた。
男爵は何が起こったのか未だに理解ができず、ただ夫人の体を見つめ、そして
叫んだ。




