「塔」
その世界には塔がありました。
この世界には、それはそれは大きな、大きな塔が聳え立っている。
この塔が建て始められたのは、今から何百年も昔の事だ。
時の権力者の気まぐれだったのか、何か目的があったのか、今はもう誰もわからない。
だけど、ずっとずっと、高く高く、塔は伸びていった。
造り始めは人力だ。
大勢の人々が大きな石をせっせとせっせと運んで、少しずつ塔は積み上げられていった。
だけど、ある程度の高さまでは順調だった石の塔は、酷い嵐の夜に半分から崩れ落ちた。
でも、人々は諦めなかった。
「壊れてしまったのだから、もういいじゃないか」
誰もそんな事は言わなかった。
誰もがこの塔を建てることに人生をかけた。
否、塔を建てることが人生だという人々が集まって、塔の袂は大きな街となっていた。
皆が塔を建てることを通じて、纏まるという事を覚えたのだ。
古代より続いていた争いの歴史を、そこで転換できたのだ。
その後も試行錯誤は重ねられて、人々は塔をより高くする為に科学を発展させた。
今は機械の時代だ。
機械が人の補助をして、塔を伸ばし続けている。
塔のお陰で世界の科学は発展し、人々の暮らしはより良くなった。
人間皆が、一つの目標に向け一致団結をする事で、国も纏まり、一つとなった。
醜い戦争も、長い間起こってはいない。
そして今日――
塔は遂に星の大気を突き破り、宇宙へと到達した。
更に延伸して、先に出来上がっている宇宙基地と接続される予定だ。
私達は遂に星の海へ、新しい世界へと旅立つのだ。
塔は【軌道エレベーター】として、これから来る宇宙開発の中心を担うだろう。
私は【惑星統一政府】の【実験光速艦】艦長だ。
人類の希望を背負って、この星の海に一番乗りで漕ぎ出す探検家となる。
『どうやら、今回は上手くいったようだね?』
『ええ、この星の知的生命体は、より良い選択をしました。ファーストコンタクトも間もなくでしょう』
『それは良かった。前に試した星では、確か……』
『ええ、最初は良かったんですが、人間同士で争ってしまい……我々も撤退しましたよ』
『早々と我々の仲間になる為の、良いお膳立てだったというのに』
『結局、我等が介入した文明は滅び、今では残骸が砂漠の遺跡として、観光名所となっているとか』
『へえ。その星の知的生命体、今はどうなったの?』
『なんとか科学文明が興りましたが、一つに纏まることなく、星の環境破壊も相まって、まだ自由に星の海を渡る段階には到っていないようです』
『そうか。この星の文明とは、雲泥の差が出来てしまったな』
『仕方ありません。きっと、あの星の人間は知的生命体として、まだ未熟だったのですよ』
『名は地球だったか。環境にも恵まれた豊かな星だと思ったのだがな』
おわり
世界よ、平和であれ。