「魔王と勇者が殴りあった結果」
人知を超えた力がぶつかり合った結果、それは……
大きな力が生み出す世界への影響は、その力が大きければ大きいほどに、計り知れないものになる。それは歴史の中で、何度も語られてきた。
そしてまた、この世界でも、究極の力がぶつかり合っていた。
「よくここまで来たな、人間どもの希望、勇者よ!」
混沌の神が力を授けた、世界に絶望を与える存在【魔王】
「お前を倒し、この世界を救う! 覚悟しろ、魔王!!」
調和の神が力を授けた、世界に希望を与える存在【勇者】
既に、それぞれが神の使徒となり、神に類する【亜神】となった二人の最終決戦は凄まじかった。
「暗黒太陽堕!」 「聖剣斬撃旋!」
ぶつかり合うたび、海は干上がり、大地は裂け、当人達の知らぬ間に、大陸が、文明が崩壊していく。
戦いが長引くにつれ、被害は世界の外、宇宙にまで広がっていった。
「やるではないか、勇者よ」
「さすがに強いな、魔王……全てを出し尽くすしかない!」
「そうだな。これが最後だ!」
「ああ!!」
そして、お互いが最後の力を込めて、
「最終暗黒月堕爆!!」 「最終聖剣斬撃嵐!!」
それぞれ、最大の威力を持った攻撃を放つ。
『カッ』
その力のぶつかり合いにより、二人は対消滅を起こし、
宇宙は崩壊した。
二人の力の残滓は、時間も空間も無い、人知を超えた物理状態で保存されていた。
そこに、量子的揺らぎが生まれ、新たな宇宙が開闢する。
それが我々の生きる、今の宇宙だった。
新しい、この世界には【魔王】も【勇者】も居ない。
正確に言えば、物語に登場する架空のキャラクターとしては存在している。それは混沌と調和の象徴として描かれている事が多い。実際に存在はしなくても、魂の記憶として、遺伝子の中に残っているのかもしれない。
だが、宇宙そのものが【魔王】と【勇者】から生まれたなどとは人々は知る由もなく、唯一、理の外に君臨する神のみぞ知る事だろう。
しかし、それは突然訪れた。
宇宙で一番、高度な文明を発展させていた地球に端を発した星間文明【テラリオン】
彼らの暦で、西暦2827年。
「この解析結果……どう解釈すれば、しかし凄い発見だ!」
【第9世代量子転換型超光速演算論機】がダークマターと呼ばれていた、宇宙の多くを構成する物質の正体を【魔王】と【勇者】であると発見したのだ。
その【魔王】と【勇者】は、中に記憶情報を持っていて、それを読み解いた結果、神の存在が証明されたことにより【テラリオン】は大きな混乱期を迎えた。
約100年間、加盟星の離脱や、信仰を発端とする、内部崩壊などの混乱期を経て【テラリオン】は一つの判断を下す。
ダークマター【魔王】と【勇者】の力を利用した【人工神】の創造。
「私が全知全能の神……この混沌に調和をもたらそうぞ」
文明の行く末を、自らが作り出した神に委ねるというのだ。
その結果、【人工神】はその力でまた【勇者】と【魔王】に類する相反する超越者を創造した。
二人の超越者は、文明を分かってしまった。
そして最後はまた、力と力のぶつかり合いで決着をつける事になってしまった。
「いくぞぉ!!」 「来いっ!!」
その愚かな選択は、再び……
混沌と調和の中で、宇宙の終焉と開闢は【勇者】と【魔王】の殴り合いによって、繰り返されている。