九尾
両手に手錠をかけられている私は、無力だった。
(ラーメン、チャーハン、カレー)
おいしい食べ物の名前が浮かぶ。
あの時、男に背かなければ、今頃おいしい食べ物が食べれたのだろうか?
役人たちが、私たちにご飯を配るために空けておく隙間から、他の牢をのぞいてみた。
その穴の横幅は、給食を乗せるお盆の横幅とほぼ一緒だった。
他の牢の人たちは、おいしいご飯を食べているのだろうか。
例えば、暖かいカレーや、熱々のスープとか・・・
・・・いや、違う。
そんな豪華じゃない。
私みたいな高収入の家で育った人には、カレーやスープが豪華なんてありえないかもしれない。
でも私がカレーやスープを豪華と言ったのは、予想していた料理よりも、皆が食べている料理が遥かに質素だったからだ。
どんなメニューかというと、お粥と漬物、黒豆という、いかにも罪人への待遇として、相応な物だった。
・・・獣の気配がする。
射抜かれるような視線を感じる。
「本当は腹が減ったんだろ。」
「え?」
声のした方を見ると、九尾の狐がいた。
「意地を張るな。腹が減るのは、誰でも同じだ。」
なぜか説得力のある声で、狐は言う。
「川にでも行くか。」
狐は私に聞いた。
「別に、魚なんていらない。」
私は冷めた声で言い放った。
「・・・あっそう。」
狐の気配が消えた。
振り返ると、そこには、焼き魚が5尾乗ったお皿が置かれていた。
私は側に添えられていた箸を握り、魚を一口、口に入れた。
塩味がして、とてもおいしい。
・・・あの狐、最初から渡すつもりだったんだ。
どうしてだろう?
私は罪人なのに。