万引き
息が苦しい。
私は盗んで来たリンゴを食べ始めた。
甘酸っぱい味と同時に、物を盗んだという罪悪感が襲う。
話は、今から20分前。
国と国同士の争いから逃げてきた私は、今まで感じた事が無いほど、空腹だった。
学校の授業中に空腹になる事があるけれど、そんな物じゃない。
お腹のあたりが締め付けられるように苦しくて、今にも倒れそうだったのだ。
いくら「万引きはダメだ」という教育を受けてきた私でも、流石に食欲には勝てなかった。
私は店頭に並んでいたリンゴを盗み、今までに出した事の無い速度で走った。
店主の怒号が商店街に響く。
私は一生懸命になって走った。
捕まりたくない。その一心で。
思えば、あの時、素直に謝っていれば良かったのではないか。
店主は、根は優しそうな人だった。
事情を説明すれば、店頭に並んでいた、苺や葡萄や桃などを、お腹いっぱいになるまで分けてくれたのではないか。
そう考えると、自分のした事が馬鹿らしくなって来た。
「居たぞ!」
誰かが叫んだ。
私は自分の周りを警察が取り囲んでいる事に気付いていなかった。
逃げようと思ったが、無駄だった。
私の手に、手錠がかけられた。