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  作者: ねね
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テラフォーミングされた星で一般人の私が農業ライフ

丸く重々しい小窓の外では奏でるような雨が音もなく流れて行く。








私の一握の砂は、目の前の重々しい音にすっかり掻き消されてしまい、辛うじて耳に残っていた小さな音色でさえ少しずつ手からこぼれ落ちていった。






何もない空間が延々と続くように思えてならなかった。






カチャン




『味気ないだろうと思って。』




黄色い小花柄のティーカップにゆったりと青紫色の小花が揺れている。




『ありがとう。』




『どういたしまして。』




私の顔より少し小さめの丸い小窓から眺める外の世界はいびつで悲惨で悲しくなる程美しく、それらは闇の中にあっても 煌めき 揺らぎ 沈み 淡い炎の様にうっすらと浮かび上がる。

目の端に飛んでいく灯火は生きているのを楽しんでいるかの様にゆっくりと振り向き、鉾でかき回した後の水滴の様に 淀んだ美しい笑顔を私に向け、胸が締め付けられる程の想いを残して 消えていった。






その日は特別だった。




私はお気に入りの小さな春の花の絵が書いてある薄緑色の靴を履いて。同じ薄緑色のシンプルなドレスを着ていつも通り小さな窓辺で友人が入れてくれた自家製ハーブティーを飲んでいた。




『ハーブティー…好きだね。』




『ええ。好きよ。貴方が入れてくれるこの香り…本当に大好き。』




『ふふっ。今日は特別な日になりそうだしね。』




『そうね。とても楽しみだわ。』


今までも違う何かを探すために視線を窓に向けてみた。


ふと笑うと




青紫色の小花を少し揺らしながら持ってきてくれた友人の顔をしげしげと眺めた。




綺麗な薄紫の瞳の回りを縁取る長いまつげ。


眉は意思の強さが強そうな上向き眉。


大きくなく小さくない形の良い鼻はいつもまっすぐで気持ちが良い。


口は語るに十分なくらいの平均。


それらを囲むような柔らかそうな黒髪。


肌は少しだけ濃い。


…この人はとても整った顔立ちなんだろうな…。




『ん…?何』




『ん?…ふふっ(笑)』


『顔を見てただけよ?(笑)』



突然、静かな部屋に軋むような機械音が響いた。




『入ったようだね。』




窓の外を見てみると鮮烈な赤がまるで宝石のルビーやエメラルドを散りばめたようにキラキラと輝いていた。




『綺麗…怖いくらい…。』






『…土の上に着くよ。』






私はドキッとした。土の上なんて途方もなく久しぶりだった。






『仕度しなきゃ…。』ドキドキが止まらない…。






私は動悸で落ち着かない胸を少しでも撫で下ろそうとこれからの確認事項を口から出してみた。


『途中連れてきた子供たちとここの子の型も確認しなきゃね。』ドクンドクンと胸が高鳴ってるのが凄くわかる。治まる様子がない。






『ふっ…。凄い動悸だね』


『聞こえてしまった?』少し恥ずかしい。


『人の神秘だね。素敵だよ。』



『またそんなこと言って。貴方も物質変換すれば良いのよ。』


いつもの様にジョークを交わしていると少しだけ落ち着いてきた。



『僕はこれが気に入っているからいいんだよ。』


そう言いながら彼はスッと大きな音に溶けるように離れていった。






…エメラルドやルビーの輝きが頬をチリチリと撫でていく…




私は残ったお茶を飲み干そうとまた着席した。






私達が乗ってきた移住館(ゆりかご)には数多くの命も積荷している。


途中で積まれた子も居るらしいが詳しくは分からない。ただ、私が受けた命は『食の確保』だけたったから…




『食の確保…』


『私達の他にも『ゆりかご』は在るのよね?』




『あるよ。』

『大きくは2箇所。』

『ほとんどの市民は第一母艦に乗ってるしね。』


部屋に低く澄んだ声が響いた。




『そろそろ着くけど…急に寂しくなった?』




『そんなこと!…無い。…と思う…』


少しだけ手が震えているのか可愛いカップに小さな波がたった。



ふわっと清潭な顔が柔らかな瞳で見下ろすように近付いてきてくれた。




『緑…。』


節の有る綺麗に伸びた手でティーカップごと私の手を包んでくれた。




『その為に私もここに居る。』


低く…甘く…優しく…。私は泣きそうになるのをグッと我慢した。








ガクン!







『!着いたようだね。』




『!』


小窓から一面緑色の絨毯が見える。


心臓が飛び出るかと思うくらい高鳴った。


私は少し震える手でカップのなかのハーブティーを一気に飲み干した。




『さあ。君の小さな箱庭を創ろう。』




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