女の子とメールってやっぱり新鮮だよね?
どうしてこう、現実は漫画やゲームのように夢がないんだろうか。超金持ちしか行けないような私立のでっかい学園とか、全寮制の大学付属の高校とかそんなものはない。かろうじてクラス委員長は女の子(マイエンジェル桜井さん)だけど生徒会長は普通に眼鏡をかけてた男子だった。
可愛い幼馴染みもいなけりゃ、妹なんて夢のまた夢。そりゃ別に今の家族でも十分満足はしてるよ?家族のために毎日夜遅くまで働いている父ちゃんや無償で家事をしてくれてる母ちゃん、可愛い弟までいるのにこれ以上望むと罰が当りそうだ。
しかし、しかしだよ?せめて女の子とメールするくらい望んでもいいよね?気軽に女の子にメールアドレス聞いてもいいよね?
よ、よーし!
「あ、あのメルアド、こ、交換しませんか!?」
「え?」
「いや、えーと、その……メールをすることによってまだお互いのことがよく理解されていない状態から改善されて、よい関係になっていくと思うんですよ。やっぱり男女間の友情ってのも必要だろうし、それにそれに下心とかないですし!」
「いや、下心見え見えじゃん。あんたには教えない」
そう言ってクラスメイトの女子はスタスターっと行ってしまった。こ、これは結構、心をえぐられます。俺の目もとにはうっすらと涙がたまっているのは言うまでもないよね。
「ま、まだ負けない」
「あ、村上君。メルアド教えてくれない?」
「別にいいけど」
俺の誘いを断った女子はあろうことかコタローにメルアドを聞いていた。……負けそうです。
「お!ち、千葉ー」
とりあえず無難に話しできるやつにメルアドを聞こう。まぁ千葉は確かに怖いけど顔は可愛いし、結構ノリがいいから嫌いじゃない。前の掃除の一件以来、話す機会が多くなったし。
「ん?何山田」
「め、メルアドを教えてくれ!」
「メルアド?ふ〜ん、ま、アンタなら別にいいか。いいよ、教える」
「ホントかっ!?嘘じゃないよな!?これで嘘だったら俺泣くからな!それはもう生まれたての赤ちゃんの如く泣くからな!!」
「はいはい、まったく。アンタはいっつもうるさいねぇ」
呆れた顔をしながらも千葉は俺とアドレスの交換をしてくれた。
「サンキュー!千葉ぁ!お前が俺の携帯で初めての女の子だよ!」
「え?もしかして誰も入ってないの女子?」
「うん」
「へ、へー。そ、そうなんだー」
あれ?なんか珍しく千葉の顔が赤くなった気がする。もしかして千葉ってば俺のことを……!?
「ち、千葉」
「え、え!?」
「もしかしてお前、俺のことが好きなんじゃ――」
「ち、調子に乗るなぁ馬鹿ぁ!!」
かつて最強無敵少女と名を馳せた千葉のパンチがあろうことか俺の左頬に見事に入った。そうだな、どれだけ痛いかというと……全速力で自転車をこいでいる状態で電柱に正面衝突って感じかな?
「ふ、ふん!自業自得だからな!」
顔を真っ赤にしてぷんぷんと怒って千葉は教室を出て行った。あいつ、俺のことに気になってるって、絶対!!
よし、次はマイエンジェル桜井さんにアタックや!!
「さ、桜井さん!」
「どうしたの山田君?」
「本日はお日柄もよく〜え〜相変わらず桜井さんは可愛らしくて」
「ど、どうしたのいきなり」
「すいません!俺にメルアド教えてください!!」
もう途中で自分が何言ってるか分からなかった!もう土下座だ、土下座でゲットだ!
「いいよ、交換しよう。そんな土下座何かしなくたっていいのに」
桜井さんはニコッと笑って携帯を出してくれた。おいおい、なんだこの女神は?
「ありがとう!」
ついに俺は念願の桜井美佳子という名前を携帯に登録することができた。って大して苦労とかはしてないんですけど。とりあえず改めて桜井さんは女神だと認識したね、うん。
「ん」
「え?」
桜井さんとちょっとした談笑――つまり、俺の至福の時に銀髪美幼女もとい美少女、東さんが携帯を俺に向けてきたのだ。
「これは、つまり……メルアドを交換してくれるということ?」
「……うん」
「なんで!?いや、超嬉しいけどさっ!でもあの東さんは俺のことが嫌いなんじゃ……」
「……別に嫌いって程じゃない」
も、もしかして東さんってばはやりのツンデレなのか!?
「……とりあえずお前で最後。これでクラスメイト全員」
「は?」
「えっとね、空はクラスメイト全員にアドレス聞いてたんだよ、今日。この前やっと買ったんだけど持ってくるの忘れちゃっててね」
と、説明してくれる桜井さん。なんだよー、てっきり俺のことが好きなのかと思った。
「え、えーと、はい。これが俺のアドレスです」
「……ん」
ま、まぁ相手がどう思ってるにしてもこれで3人目の女の子のアドレスゲットだ。しかも全員可愛い、これは俺が主人公であることを物語っている証拠じゃないか!
「なぁユージ」
帰り道、珍しく幼馴染みの恵子ちゃんとではなく俺と帰っているコタローが急に話しかけてきた。
「なんでお前、うれしそうなの?」
何でって……そりゃ、ねぇ。美少女のアドレス3つもゲットしたんだよ?そりゃ顔もにやけちまうっての。
「な、なんでもないよー」
「いや、絶対なんかあっただろ」
こんな話題をしながら俺たちは帰った。
翌日。ここ2週間とちょっと、見ないようにしていたクラスメイトと話すことになってしまった。
「ねぇ、山田」
俺を呼ぶ声は凛としていてまるで鈴のような声、それでいて艶やかな感じがする。
「悪いけどプリント、教室まで運ぶの手伝ってくれない?」
振り向くとそこには学年で1番可愛いと言われている広瀬涼香がいた。その容姿はやはりすごい。長い黒髪を後ろでポニーテールにして結っている。それでいて顔は大人っぽいので妙に色っぽい。さらにはモデル顔負けのスタイルを持つ完璧超人だ。美人なのは認める。しかし、しかし!
「手伝うというより、一人でやらせる気満々ですよね」
「よく分かってるじゃない」
実は同じ中学校なのだがこの広瀬……かなりのわがままで男というものは女に貢ぐものだと思っている。つまり、かなり性格の悪い女だ。
「あんたってば見てて飽きないし、嫌いじゃないよ」
「好きでもないだろ」
「本当によく分かってるね」
広瀬はにやりと笑う。いらつくけど、かなりの美人なのでなんて言うかこういう仕草一つ一つが妙に凄い。こう、エロいというか美しいというか。
俺はコイツが大の苦手だ。嫌いではない、苦手なのだ。
「とりあえず持って。プリント重い」
「ったく。分かったよ、分かりました!俺が持つからお前はもうあっちいってろ」
女性には紳士として接するこの俺がここまで言うのは、この女がかなりひどいことを物語っていますよ。
昔は、もうちょっと清楚だった気がするんだけどね。
「あ、山田の携帯落ちそうじゃん。よっと」
「お、サンキュ。返して」
「ちょっと今は無理。電話帳見てるから」
「なっ!?」
「えーと、男、男、男、男……男ばっかりね」
うるさいよっ!
「お!春菜に空、美佳子まであるじゃない。じゃあ私も登録しておきなさい」
そう言って広瀬は俺のメルアドと自分のメルアドを交換していた。
「ち、ちょ」
「何よ?嬉しいでしょうが」
「い、いや、まぁ、確かに」
そう言って携帯を俺のポケットに戻す。もしかして広瀬は俺のこと――。
「な、なぁ広瀬……ってもういないし」
まぁ、あいつに好きな男とかいるわけないかー。
「山田かぁ。相変わらず変な奴よね。私があそこまで積極的にしてやってるの気付かないし。まぁ別に好きでもなんでもないけど、今年は楽しませてもらうわ」
とあやしく微笑む涼香は本当に妖艶だった。
『宿題あるから忘れないでね』
優しいよなぁ桜井さん。でも宿題やってません。
『ミス』
何が?って感じなんですけど東さん。
『とりあえずおやすみのメールをしてやる』
何か乙女チックだな、千葉。やっぱりお前、俺のこと好きなんじゃない?
『あんたに初メール。うれしいでしょ?うれしかったら――』
言うまでもなく広瀬。
でも、女の子4人からメール来て1日を終えるなんて最高だな。
そう言って俺は眠りに就いた。
朝、起きるとメールの受信数30数件だった。それは全員クラスメイトの男子だ。どこから情報が漏れたのかは知らないが、『死ね』とか『なんでお前が広瀬さんのアドレス知ってるんだよ』とか『桜井さんはなぁ!』とか。
学校行ったら殺されそうなんですけど……。