3話
「ヒスイ(さん)大丈夫 (ですか)?」
目を覚ましたヒスイに駆け寄る二人。
アイリスの少しカールしたセミロングの茶髪が顔をくすぐる。
そのすぐ後ろにはピンク色のショートヘアと、その髪の間から少し突き出た小さな二本の角が特徴的なネムが今にも泣きそうに目をウルウルとさせている。
「うん、大丈夫」
そう言って起き上がったヒスイは二人のすぐ後ろに闘った男がいるのを見てギョッとした。
即座に魔力を練ろうとしたが、それは失敗に終わった。
「くっ、これは」
(魔封じの拘束具か)
ヒスイはキッとアルを睨みつけると、二人に逃げるように言ったが、二人は悲しそうに目を伏せると、ゆっくりと首を横に振った。
ヒスイの頭に最悪の事態がよぎった。
そして、それは現実となった。
「ごめんなさいヒスイさん私達、その……奴隷になっちゃいました」
頭が真っ白になった。
「謝らなくていいわ。ほとんど私のせいだもの」
気付けばヒスイは男に向かって叫んでいた。
「あなた達の狙いは私でしょ?私の事は好きにしていいから、どうかこの二人は見逃してください」
土下座をしてお願いしますお願いしますと何度も繰り返した。
そのエメラルドグリーンの瞳からは涙が溢れ、瞳と同じ色の綺麗だった髪は土で汚れていく。
それでもヒスイは辞めようとしなかった。
ここまでやられると流石に気まずいのだろう。
アルはポリポリと困ったように頬をかくと、大きくため息をはくとヒスイの肩に手をおいた。
怖かったのだろう、ビクッと体を震わせた。
それでも抵抗はしなかった。
「お前の言いたい事はよく分かったよ」
「じゃあ、二人を…」
「けどな……残念ながらそれは出来ない」
(初めから分かってたわ。わざわざ自分から捕まえたら賊を逃すはずがないもの)
ヒスイは何も出来ない自分が悔しかった。
(ごめんなさいお父様。もう、ここまでのようです)
もう絶望しかない。そう思った時だった。
「俺が今二人を逃したら二人は帝国兵に捕まる。この意味は分かるな?」
ヒスイはただ頷くことしか出来なかった。
ヒスイの目に、小さな希望の光が灯った。
それを見てアルは嬉しそうに笑うと、
「そこで君たちに一つ提案がある」
などと言い出したのだった。