ヒスイ対アル
時は少し遡る。
実はヒスイ達が兵士に囲まれていた時、更にその兵士達を見ていた者がいた。
どこにでもいる黒目黒髪の男だが、そのとても整った顔立ちと金・銀色の刺繍を施した黒いコートから、見た者には貴族の様な印象を与えるだろう。
森の中では金や銀はとても目立つはずなのだが、完全に気配を絶っている彼に気付くものはいない。
彼の名はアルト=ヘルグライン。
人類最強のスレイヤーの一角で、スレイヤーの中でも最強との呼び声が高い男だ。
基本彼が本名を名乗ることはないため、彼の事を知るものは少ない。
彼のスレイヤーとしての呼び名は黒星。
本人はアルと名乗っている。
そんなアルがなぜこんな帝国の端の森にいるのか?
これは本当に偶然としか言いようがない。
彼はとある彼の過去の出来事から、権力を嫌う。
そのため、これまでも幾度も権力から人々を守ってきた。
今回もたまたまではあるが帝国の兵士が森へ入って行くのを見て、気になってつけてきたのだ。
(ありゃ盗賊か?にしてもなんでわざわざこんな誰も来ない森で盗賊なんかやってんだ)
何か裏がある。
アルはそう判断した。
戦いが始まった瞬間、逃げた二人に一瞬で追いつくと手刀で気絶させて残りの一人の元に行こうとして…
「貴方、二人を離しなさい」
振り向いた時には既に帝国兵は全滅し、魔法陣を構築したヒスイがすぐ後ろに立っていた。
逃した仲間が気絶させられていれば、誰でも敵だと思うだろう。
(完全に敵だと思われたな。…どうしたものか)
「岩針撃」
ヒスイはアルが一瞬思案によって固まったのを見逃さなかった。
放たれた魔法は帝国兵に放ったものと同じではあるが、先ほどとは違い対象が1人なので先ほどとはその威力は桁違いだ。が、
「冬智・玄武の拳」
アルに迫った巨大な岩針はアルの放った拳を受け、一撃で砕け散る。
そのまま加速術を使用し、一歩でヒスイの目前に迫るアルの足が地面についた瞬間、ヒスイも前へ踏み出し、肋骨を切りつけてきた。
アルもそれを反射的にかわし、距離をとる。
(コイツ、魔術だけでなく接近戦もできる)
二本のナイフを構え、身体強化特有の魔力の流れを読み取ったアルは即座に自身も魔力を練り上げ、同時にヒスイも魔力を練った。
発動もほぼ同時だった。
「大地龍の一撃」
「磁力雷流砲」
三頭の大地龍と三発の雷流砲が衝突した。
凄まじい爆音と共に衝撃波が森の木々を大きく揺らし、大きく地面の削ったが、数秒後には雷流砲が土の龍を粉々に吹き飛ばした。
バチバチと音を立てて迫る雷はヒスイの直前で大幅に威力を落としたものの、自身の持つ最大にして最強の魔術を正面から打ち砕かれて棒立ちの状態のヒスイに直撃。
アルは気を失って倒れるヒスイをそのまま抱き上げた。