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PSI-異能犯罪捜査班-  作者: ちゃば
6/19

case6

 

「やあやあ、二人ともお疲れ様」


 篝へ向けた苦情を全てスルーされ、疲労感に包まれたままミーティングルームの扉を潜った晃は、先程の死地とギャップの有りすぎる白川の穏やかな様子にぐったりと脱力した。


「さて、早速だけど今回の演習の講評といこうか。まずは……そうだな、百武君からいこう」

「はい!」


 白川の言葉を受けピシッと背筋を伸ばす新人に篝は面倒くさそうに息を吐いた。


「総合的に言えば悪くなかったんじゃないかな? でも、前半の無駄な動き、それから無意味な器物損壊……課題は残るね」

「…………器物損壊?」


 どういう事だと言いたげに視線を送ってくる篝を見て、晃は気まずげに視線を逸らした。


 恐らく白川が言っているのは、篝の策に気が付いてコンテナに扮した金属塊をぶん殴った事だろう。

 もしそれが本当の捜査であれば民間人を巻き込む可能性もあったし、第一捜査の過程で無駄に物を壊せば始末書と賠償金が待っているのだ。


「まあ、それに関しては今後気をつけて貰うとして、気になるのは前半の大きな時間のロスだね。百武君、あれは何をしてたのかな?」

「あっ、あれは……ですね……」


 言葉に詰まる晃が、ちらりと視線を送っても相棒である篝は気付いていないとでも言うかのように極自然な動作で顔を背けた。


(ちょ、ちょっと~! 助けなさいよ、元はと言えばアンタが……!)


 我関せずの篝の態度に慌てながら、上司に促されて晃は渋々口を開いた。


「そ、その……盗まれたプラスチック爆弾による二次被害を阻止するべく撤去に回りました。もしかしたらどこかに仕掛けられている可能性も有ったので……」

「なるほどね、確かにその可能性も否定できない。けれど、今回のケースでは、盗まれたのは起爆装置ではなく火道式時限信管だ。勿論時間差で起爆できる物ではあるけど、火をつけてからどの位で起爆するかという範囲であってタイミングを測れないそれを仕掛けるかな?」

「すみません……勉強不足でした……」


 柔らかな声色ではあるが、的確に部下の取った行動の欠点を指摘する白川に晃は身を小さくする。

 それを見て白川は笑って手元の書類に目を落とした。


「何であれ反省は大切だよ、次に活かしてね。さて、ここからは良かった点だね。爆弾の撤去に制限時間いっぱいを使わずちゃんと行動を修正できた判断力、それから篝君の状態を見てすぐに何が起きているのかを察知し的確な行動をとれた洞察力と行動力どれも素晴らしいよ。良く消火栓を使う事を思いつけたね」

「……消火栓」


 白川の言葉を聞き、篝は合点が行った様に納得した表情で晃を見た。

 視線を向けられている事には気が付かず、晃は照れたように笑う。


「いやあ、その、爆弾を探していたら偶々見つけて……それで、演習が始まる前に伺った篝さんの能力の話を思い出して。水さえあればなんとかなるかなって思ったんです」

「うん、情報を処理して活かす事も出来てるし、今後の成長に期待してるね……さて、篝君」


 浮かべていた笑みを消し、白川は篝に目を向ける。

 いきなり変わった白川の雰囲気に周囲の温度が下がった様に感じ、晃は唾を飲む。


「し、白川さん?」

「体術や咄嗟の判断、異能の使い方は流石だね、全てにおいて合格点だ。でも……この演習の()と言える部分を全く分かってない。始まる前にちゃんと伝えたつもりだったんだけど、どうやら伝わってなかったみたいだ……どうして百武君を遠ざけようとしたんだい?」


 白川にしては珍しい冷ややかな声で告げられた言葉に、うやむやになってはいたが、自分の読みが間違っていなかった事を理解して口を開こうとしない男にじっと視線を送る。


「作戦を遂行するのに彼女は不用だと判断した。かな?」


 黙ったままの篝を挑発する様に白川は問いかける。


「……それもあった」

「それ()という事は、他にもあったんだね?」

「…………」


 答えたくないとばかりに黙り込む篝を見て、晃は初日に聞いた和智の言葉を思い出した。


(篝さんはバディという存在を良く思ってない……それは理解できる……まあ、納得はできないけど)


 晃はくしゃりと顔を歪め篝との距離を詰めると、黙秘を続ける篝にため息を吐こうとしている白川に代わり、口を開いた。


「……バディは信用できませんか」

「……は?」


 真っ直ぐにぶつけられた問いかけに、篝が驚いた様に目を見開くと、意思の強い丸い瞳と視線がかち合う。

 普段の篝であれば、誤魔化すか切り捨ててしまう所だが、目の前の新人はそれを許さないとでも言うように早口に言葉を吐き出した。


「私聞いたんです。篝さんの歴代のバディ達は篝さんを利用しようとする様な人達だったって……もし私がそんな風にされたら相手を信頼して命を預けるなんてできないし、自分一人で作戦を遂行しようって考えると思います……違いますか?」


 問いかけの形式は取っているものの、大きく違ってはいないと確信した様子の晃に、篝は一瞬答えに迷った。


「……俺は、」

「私は、地位には興味有りません。欲しいのは、異能犯罪も異能差別も無い平和な社会だけなんです。貴方だって異能犯罪を取り締まる為に異捜にいるんでしょう? 信頼は要りません、そんなの私だってしてないですし。でも、信用はして下さいよ、私は貴方を利用しません。そんな事をしたって私の夢は得られないから」


 晃は言いたい事は全て言ってやったと言わんばかりに胸を張ってみせる。

 そんな晃にポカンとしていた篝だったが、白川が堪えきれない様に笑うのを見て我に返った。


「ね、面白い子だろう?」

「……別に」


 目尻に浮かんだ涙を拭い茶化す様に言う白川を見て篝はその端正な顔をブスッと顰め晃に声をかけた。


「なんですか?」

「勘違いしてんじゃねぇよ。俺がお前なんかに利用される訳ねぇだろ、身の程を弁えやがれ寸胴」

「ずっ?! はぁああぁあ?! 寸胴?! この人何言っちゃってんの?! もしかしてお忘れですかね?! この、私が! ファインプレー炸裂で貴方を助けた事を!」

「……ぎゃーぎゃーうるせぇな、借りは必ず返す。文句あるかよ」


 シリアスな雰囲気から一転して、ごく自然に悪態をつかれ憤る晃に、篝は不遜な態度で壁にもたれてみせる。


「有るに決まってますけど?! 大体貴方は口が悪すぎるんですよ! ちんくしゃだとか寸胴だとか、女の子に言う言葉ですか?!」

「……女の子?」

「ここ! 目の前!!」


 ポンポンと繰り広げられる新生バディのコントの様な応酬に白川は満足そうに笑う。

 その視線の先には、噛み付く様にきゃんきゃんと吠える後輩を揶揄い、口元を緩める篝の顔があった。


(彼のあんな楽しそうな顔は初めてだ)


 篝の抱える事情を知る白川としては、晃という愚直と言えるほどにまっさらな新人との出会いが、不器用な部下にとって大きな転機になる事を期待してしまう。


 騒ぐ二人に気取られない様に注意しながら、白川はそっと廊下に出た。

 扉が完全に閉まると、人気のない廊下は不気味さを感じる程にしんと静まり返っている。

 周囲を見渡して誰もいない事を確認すると、白川は腕につけた端末を操作した。

 数回のコール音の後、掠れ気味な落ち着いた女性の声が端末から流れる。


「……音寺(おんじ)君、件の調査はどうかな?」

『やはり、例の組織が関与している様です。もう二日もあれば犯人の能力まで突き止められるかと』

「そうか、無理をさせてすまないね」

『いえ、毒薬が生成されているとなれば混乱は避けられませんからね。迅速な対応は必至ですよ』

「ありがとう。PSI(サイ)の狙いが分からない今、我々は少しでも被害を食い止められる様に尽力しよう。引き続き頼んだよ」

「はい。それから別件ですが、少し内々でお話ししたい事がございます。本日お時間頂けますか?」

「分かった、今からそちらに向かおう」

「ありがとうございます」


 通信を切ると、白川は頭痛を抑える様に額に手をやり壁にもたれた。

 チラリと先程閉めた扉に視線を送り思案する。


(さて、このバディの初陣にするべきか否か)


 恐らく未だ部屋でじゃれている二人は、どちらも攻撃に特化した能力者だ。

 晃の怪力に関して言えば、確実に近距離攻撃が主になる為、犯罪者の能力如何では不利になる可能性も多分にあるだろう。

 そこを補う経験が新人ゆえに足りていないのだ。

 その補填を篝に任せられるのか、それが判断の焦点になる。


 思考の波に揺られる白川は、大きな音と共に開かれた扉によって引き戻された。


「あっ! こんな所に! 篝さん、白川さん廊下にいましたよ!」

「……うるせぇ、叫ぶな」


 ひょこりから顔を出した晃に呼ばれ、うざったそうにしながらも素直に近寄ってくる篝を見て白川の心は決まった。


 にっこり笑みを浮かべ両手を新生バディ達の肩にポンと置いてみせる。


「君達、近々出動有るから。そのつもりで」

「えっ?!」


 晴天の霹靂とも言えるほど急な指令を下され、晃は元から丸い目を更に丸くさせ飛び上がった。

 初々しい反応に白川は満足そうに笑い言葉を続ける。


「詳細は追って話すね。じゃあ私はこれで」

「は、はい! ありがとうございました!」


 前線に立てる喜びに拳を握り瞳をキラキラさせる新人捜査官を前に篝は呆れたようにため息を吐く。


「お前、捜査は遊びじゃねぇんだぞ」

「わ、分かってますよ、そんな事! 」


 またも始まる言い合いに背を向けて白川は歩き出す。

 諜報部の中でも特に極秘事項を扱う音寺が内々に伝えたいという事は、かなり危険度の高い案件だろう。


「……異能差別の無い社会、か」


 新人の口にした夢を反芻しグッと拳を握り込む。


「必ず、実現させてみせる」


 その顔は、周囲から仏と言われる普段の穏やかなものでは無い。

 粒揃いの異能犯罪捜査班を束ねる班長、白川義光(しらかわよしみつ)

 無能力者ながらその地位まで上り詰めた男の顔は、未来を見据えて引き締められていた。





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