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事の始まり

 真っ白な入道雲が沸き立つ空。

 そこから降り注ぐ容赦ない真夏の光線は、全てを溶かしてしまいそうな勢いである。

 …コンビニってこんなに遠かったっけ。

 自分でも驚くほどベタなことを考えてしまった。ヒキニートにぴったりの言葉だ。

 やっと家の前に到着すると、塞がった両手の代わりに、なんとか足で門を開けた。

 ドアの前まで辿り着くと、先程コンビニで受け取ったばかりの荷物を石畳の上にどさりと置く。

 思っていた3倍は重いそのダンボールには、商品名とともに、ご丁寧に無駄な言葉まで添えられていた。

 __「MELT 時を戻す儀式」

 この後半の厨二くさい文章のせいで、今日は酷い目にあった。

 ……具体的に言うと、ダンボールとこのむさくるしい髭に埋もれた小太りのおっさんを見比べて、コンビニ店員が吹き出した。

 高校生ぐらいだろうか。

 会計の間もずっと笑いを堪えているようだった。まぁバレバレだけど!

 仕方ない。分かる。俺が高校生で、コンビニでバイトしてて、中年のおっさんがこんな荷物受け取りにきたら、吹き出しちゃう。

 でも、それとこれとは別だ。

 もう嫌だった。

 すぐにでも逃げ出したかった。

 逃げ出さなかった。

 あの場面で逃げ出したら、厨二感溢れる物を注文して、自分が吹き出したら涙目で逃げていった恥ずかしい大人としてコンビニ店員の心に刻まれただろう。

 もしかすると後日学校で友達との笑い話にされたかも知れない。

 自分の知らないところで笑い者にされようとなにも困らないのだが、それでも、そんなことになったら恥ずかしいじゃないか!

 

 すでにぐしょぐしょのTシャツの袖で頬を伝う汗を拭う。

 我ながら汗臭い。

 ズボンのポケットに手を突っ込んで、鍵を探す。

 ヒキニートの俺が鞄など所持しているはずがなく、必要なものは全てポケットに突っ込んできたから、ごちゃごちゃしていて見つけにくい。

 ってかそもそもこの真夏に、Tシャツはいいにしても、長袖スウェットの下を着て外出するという行動が間違いだらけだ。

 暑いに決まっている。

 どうしてこんな初歩的なミスを…

 いや。

 それもこれも、長期間の引きこもり生活で感覚が狂っているせいだろう。

 やっと鍵を見つけ出し、扉を開けた。

 

------

 

 白と黒の家具で統一された俺の部屋は、ヒキニートのそれの割には小綺麗である。

 デスクの上を陣取る高スペックPCもなかなか様になっている…が、俺は家に帰ると真っ先にそれをデスクから引き摺り下ろした。

 PCの無いデスクの上には、代わりにあのダンボールを設置した。

 ……開封の儀である。

 こらそこ!笑わない!

 ……っとその前に。俺が何を購入したのか、解説しよう。

 「MELT 時を戻す儀式」

 これは決して、時間を戻す儀式の道具では無い。

 自分の体を、子供に戻す儀式を行うための道具である……

 いや、別に信じてはないよ!

 1500円でそんなことできるはずないから!

 だから、もっとちゃちなおもちゃみたいなヤツが届いて、やっぱり嘘じゃん!で終わるかと思ったのに、案外荷物が重いので困惑しているのだ。

 え?そんなことしてなにになるって?

 そりゃホラ、崇高な目的を果たすためさ……

 子供の体に戻ることにより、合法的に銭湯や温泉の女湯に潜り込み、日本中の全裸の巨乳おにゃのこにぱふぱふされるという。

 ……おっと、話が長くなった。

 そんなこと、どうでもいいんだよ!さっさと開けちゃおう!

 まずはカッターでダンボール上面のガムテープを切り裂いて、上から商品の全容を確認することにした。

 結構苦労するものかと思ったが、割とあっさり作業を終えることができた。

 どれどれ、拝見させていただこう……

 と思ったのだが、上を開けただけでは全容を確認することはできなかった。

 見えたのは、なにやら機械のてっぺんのみ。

 その機械らしいものがダンボールとさして変わらない大きさで、加えてちょうどアナログテレビみたいに四角い形をしているので、他の角度から見た商品の姿が全く把握できないのだ。

 正直驚いた。てか、なんだコレ?

儀式の道具とか言うから、てっきり蝋燭とか、へんな模様が描かれた布とか、もっとオカルトチックなものの詰め合わせかと思ったのだが、なぜか出てきたのは機械だった。

 加えて、そりゃ重かったって言っても、デカすぎる。

 こんなにデカいとは思っていなかった。

 とりあえずさっさとこの物体をダンボールから取り出して、全体を拝見してみたかった。

 俺は、僅かな隙間からダンボールに両手を突っ込み、しっかりと機械の底面を両手で掴み、全身を使って持ち上げる。

 だいぶ重いが…我慢するしかない。

 そいつがダンボールを脱ぎ切ると、近くにあったベッドの上にそっと着地させた。

 くそ、エアコンガンガンの部屋で汗だくとは、なんたる醜態。

 息を整え、顔を上げると、ベッドの上にはアナログテレビがあった。

 いや。マジで。

 予想が当たってしまったが、本当にアナログテレビだった。

 画面みたいなものが手に当たったので薄々感づいてはいたが、やっぱりそうだったらしい。

 あ、コレ。ゴミ売りつけられたヤツだわ。

 なんか埃かぶってるし、絶対地デジ化した後に家の倉庫で眠ってたヤツでしょ。

 よかったな、俺みたいな馬鹿がいて。よかったな、儲かって。

 苛立ちが胸に広がる。

 いや待て、初めから信じてなんてなかっただろ?

 違う。そんなことじゃない。役に立たないだけならまだしも、こんなにデカいゴミを送りつけられたことに苛立っているのだ。

 デスクを振り返り、どしどしと歩み寄る。

 最後の望みをかけてダンボールを覗き込むが、やはりなにも入っていなかった。

 巨体を投げ出された椅子は、ガチャンと音を立てる。

 クソッ!

 勢いよく立ち上がると、俺はPCを机の上に持ち上げ、素早く起動させる。

 とりあえず、あのサイトを探そう。

 もう逃げられている可能性が高いが……

 あった。このサイトだ。

 ダブルクリックすると、パッと画面の色が変わる。

 正真正銘、先週コレを購入したサイトと同じものだ。

 …いや、詐欺にはそっくりのサイトを作るとか言う手口もあるらしいから侮れない。

 必ず特定してやる。

 だが、俺だけの力では無理だ。

 俺は機械に強いわけではないし、そんなことについて勉強したこともない。PCを普通に使うだけなら困らないが、個人を特定するような技術は持ち合わせていないからな…

 だからまずは、警察に相談だ。

 今すぐ電話しよう。

 俺はアドレナリンをガンガン出しまくったまま、リビングの固定電話を使うため、部屋のドアノブに手をかけようとした…その時だった。

 ガ ガガガガ ガガ ジー……

 プツッ

 

 えっ

 

 なにこれ

 

 PCが壊れたか?そう思い、PCの方に向き直る。いや、通常通りだ。

 ……と言うことは、この音は…

 まさか…あ の テ レ ビ…??

 俺、プラグとかコンセントにさしたりしたっけ。

 いや、無理無理。そういうリ•グ的な展開無理だから。

 PCの方を向き、ドアノブに手をかけたまま硬直する。

 どうしよう。

 万が一にも子供に戻れた場合のために、両親が旅行に出かけている今日を選んだ。

 (バレたら恥ずかしいってのもあるけど)

 つまり、この家は今俺1人……

 あ、コレ

 死ぬヤツ???

 

 コレ、振り返ったらアウトなヤツだよな。

 でも、振り返らないことには逃げることさえできないし。

 しかし……しばらく静止しても、音沙汰がない。

 俺は意を決して振り返ることにした。


 数秒静止した後、フェイントを入れて振り返った。

---

---

---

---

 そこにはテレビがあった。いや、そりゃそうなんだけど。

 そして、テレビの画面には…ファンシーなうさぎが居た。

 いや、ある意味ホラーだけど…拍子抜けした。フェイントの無駄遣いだ。

 まぁよかったっちゃよかった。こいつに殺される気はしない。

 しかし、じっくり見てもやはりコンセントにはなにもささっていなかったし、そもそもこのテレビには電源プラグというものが付いていなかった。

 

 

 「コンニチワ。アナタノネガイハナンデスカ?」

 

 ん…?

 いまこいつ、しゃべった?

あいにくアナログ世代ではないため、アナログテレビには電源プラグが付いているのか、そしてそれはコンセントにさすのかということは知りませんでした。調べてもよくわかりませんでした。

適切な表現を思いつく方がいらっしゃいましたら、どうかご教授ください。

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