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第 二 話


 千晴とメリザは外に出た。千晴は自分がいた建物が、想像以上に大きいことに驚いた。煉瓦造りのその建物は横に長く、装飾にもこだわっていた。高い外壁に囲われ、ところどころに鎧を纏った男たちが立っている。おそらく、兵士だろう。もちろん千晴がいた世界に兵士はいなかった。千晴は、この場所がいかに大切な場所か確認させられた気になった。まっすぐ歩き、大きな門に差しかかる、門番と呼ばれる男が、ゆっくりと門を開ける。新しい世界に千晴の胸は高鳴った。


 その景色に千晴は思わず目を見開いた。千晴たちが立っているちょうど正面には、大きな噴水が見え、その噴水を中心に円形の広場がある。そしてそれらを囲うように、煉瓦造りの建物が並んでいる。赤い屋根が可愛らしい。


 「すごい。メリザさん、すごく綺麗な街ですね」


「そうかい?気に入ったならよかった。ここがセントラルと言って、この国の中心と言われている街だよ。僕の研究所は、ここから歩いて二十分くらいの場所にある」


 歩き出すメリザに千晴はついて行く。

 千晴にとって、そのどれもが新鮮だった。街を行く人は、穏やかで、子供もたくさんいる。


「こんな言い方、失礼なのかもしれないですけど、思っていたより、平和で穏やかな場所で安心しました。向こうでは、こっちの世界は無法地帯だとか、犯罪世界だとか悪い事ばかり言われてましたから」


「ずいぶんな言われようだ。でも、否定はしないよ。このセントラルは確かに平和だ。子供も多いし、教育機関もしっかりしている。でも、北は戦争地帯だし、東に行けば異種族がはびこっている。そこには人間に恨みを持ってるやつらが多い。中でも危険なのは、西の方角。千晴ちゃん、同じ国でも、西区は立ち入り禁止だよ。僕も仕事じゃなかったらいかない。命がいくつ会っても足りやしないからね」


 メリザの口調は優しいものだったが、その内容は恐ろしかった。もともとこの国は、国境が曖昧で、セントラルと言われる中央区を中心に、北区、南区、西区、東区とあり、それぞれが独立的と言っても過言ではなかった。戦争の多い北区、移民の多い東区、西に位置するカルマリア国に占領された西区、南の方には海がある。



 この国のことを話していると、あっという間にメリザの研究所に到着した。


 「ここが僕の研究所、通称mery's研究所」


少し年季の入った、その建物は、白を基調とした、二階建ての建物だ。格子状の窓がおしゃれに見え、あまり研究所という感じはしなかった。


 「わあ、おしゃれですね」千晴は目を輝かせながら言う。


「とにかく先に、千晴ちゃんの部屋に案内するね。荷物も置きたいだろうから」キャリーケースに、リュック、そして小さなハンドバックと、千晴の荷物は多かった、メリザの厚意でリュックはメリザが持っている。


 押戸を開け、中に入る。外からの印象より、広く感じる。正面が壁になっており、そこには重厚な額縁に入れられた絵が飾ってあり、右手には四人ほどで使える応接ルームが見える。こっちだよ、とメリザは左に進む。角に沿うようにソファーが置かれ、そこを曲がると、ちょうど正面の壁の裏側へ来る。そこはデスクが並んでいたり、書類が積まれてあったりと、研究所らしい空間だった。


 「今日はお休みでね、みんなはいないんだけど、ここに住み込んでるのが僕のほかに二人いる。たぶん自室にいると思うんだけど」


 メリザはその二人を探しているのか、控えめにあたりを見渡した。しかし、人の姿は確認できず、再び歩き出す。

 この部屋の一番奥にあるドアの前まで来た。メリザがドアノブに手を掛けようとした瞬間、ガチャ、とドアが開いた。


 「あれ、先生。おかえりなさい」少年は、驚いたのか、大きな目を見開きながら言う。メリザの髪色よりさらに明るく、オレンジに近いショートヘアは規則正しく外に跳ねている。幼さはあるものの、整った顔立ちの少年は、千晴の背より、少しだけ低かった。


 「ただいま。ちょうどよかった、昨日言っていただろう、この子が真世界から来た、千晴ちゃん」


千晴を手で指しながら、説明する。千晴は、橘千晴です、と頭を下げた。


 「ふうん、頭悪そうですね」


 千晴は耳を疑った。確かに自分のことを頭のよさそうな顔と思ったことはないが、初対面の少年に言われるとは思っていなかった。

 メリザは、その反応には慣れているのか、小さくため息をつき、話を続ける。


「で、こっちはナナキ」今度は少年を手で指しながら言う。「今十六歳だから、千晴ちゃんより二つほど年下になるね。さっき言ってた、ここに住み込んでる人の一人だから、仲良くしてやって。ちなみにまだ学生だから昼間はいないことのほうが多いかな」


「よろしくお願いします」千晴はもう一度頭を下げた。


「それより先生、こないだ出席日数足らなくてレポート書かされてるって言ってたじゃないですか、もうすぐ書き終わるんで、終わったら見てもらえませんか」


 ナナキは千晴との会話をそうそうに終わらせ、メリザに問う。千晴への対応とは違い、目を輝かせ、生き生きしている、


 「ああ。見るのは見てやるが、ちゃんと出席するんだよ。千晴ちゃんとも仲良くね」ため息交じりに言う。


 ナナキは嬉しそうに、去っていく。その背中を見送ると、ドアを通り、メリザが口を開く。


「ごめんね、悪い子ではないんだけど、ちょっと複雑な子だから。あ、ちなみにもう一人の方は僕と同い年で、ナナキよりは社交的かな。無口だけど。」


「社交的で無口な人・・・・・・ですか?」


「まあ、会えばわかるさ」自分の説明に矛盾を感じながらも、笑いながら話を続ける。「この階段を上ると居住スペースになる。千晴ちゃんの部屋も二階に用意してるから」


そう言って千晴が持っているキャリーケースを持ち上げ、階段を上っていく。




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