1-4-30-6 【桜瀬七波】 悪鬼の歌垣 6
『kuuuuuuuuuuRuuuuuuuuAaaaaaaaaaaa!!!』
バカの一つ覚えでも、奴の初手――横凪の斬撃はまともに食らえば必殺。
リーチが長いから、その斬撃を……!
七波「……せっ!!」
……側転でかわし――かわした後の対応が、あたし達の勝利への道筋となる……!
コロナ『28』
七波「……来いっ!!」
着地した直後、あたしは挑発するように叫んで真横へと駆け出す。
『kooooooooooAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
バケモノもそれを追いかけるように顔を真横に向ける。
七波「……っ……!」
……正確には真横じゃない、奴を中心に、円を描くように走る。
飛ぶように、重力から身を解き放たれたように。
――それは見る者の目を惹きつけるように。
バケモノの向こう側へ回り、川の水の上すらも水面を切って疾駆した。
『kaaaaaaaaaaaaaaaaa!!?』
円の中心にいるバケモノ。
そのその外側を走るあたし。
……本来なら円の中心にいる方が、点の上で回転すれば円を描く相手への対応は簡単だ。
でも円を描くピードが、点の上で回転するスピードを上回るのならば話は別。
その巨体では体を横に向ける動きすら、緩慢になる。
要は小回りが利かない。全く利かない。
そこがあたしの狙い目。
もちろん走り回るだけじゃない……その最中っ……!
七波「『妖幻肢身』……!」
分身を、ばらまく……!
あたしの走る軌道上に現れる分身――その数、実に30余り……!
『keeeeeeeeeeeeeAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?』
バケモノの意識が散漫になったのを見た直後……!
七波「たああああああっ!!!」
30以上のあたしが、一気にバケモノに飛び掛かる……!
もちろん分身には攻撃力はない。バケモノにぶつかっても煙となって消えるだけ。
でも、本物の攻撃力は必殺。
そのあたしの本物を見極める術がない以上、分身であっても奴は斬り捨てないわけには……!
『kishiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
七波「くっ……!?」
……速いっ……!?
その腕の鎌による斬撃は、一つ一つが鋭く、正確にあたしの分身を斬り捨てていく。
分身を敷いた――あたしが駆け抜けた円から半分の距離に達する時には、同じく半分は分身が攻撃を食らってかき消されていた。
そして、奴が16体目を斬った直後……!
七波「……ぁっ!?」
――あたしに運がなかった。
ほぼ斜め後ろ――そんな、奴からすれば死角も同然の場所から飛び掛かったってのに、振り上げられた鎌の、次の狙いは本物のあたし……!
『kiHiiiiAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
振り下ろされるっ……!
七波「……くううううっ!!?」
鈍い音と共に、あたしの体が弾けるように吹き飛ばされる。
癬丸でガードはできるものの、まともに斬撃を正面から受け止めた時の質量差は少しもカバーできなくて……!
七波「……ぐうっ!!? ……くくっ……!」
着地で、斬撃の威力を相殺し切れず、あたしは一度、地面を背中から転がる。
そのまま一回後ろに回転、低い姿勢のまま地面を滑って、何とか吹き飛んだ勢いを殺した。
その直後……!
『kisShiiiAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
七波「このっ……!?」
迫るバケモノが再びあたしに鎌を振り下ろしてくる……!
幾度も繰り返される斬撃を、かわし、往なし、そして弾いてやり過ごす。
コロナ『23』
十合、二十合と刃を交わし、そのバケモノの姿を見て、あたしは思う。
その襲い来る様は正に純粋戦士。
バーサーカーと呼ばれる類のものかもしれないが、その向こう側に僅かに見える狡猾さは、ただただ血に飢えただけの狂った戦士一辺倒の物に非ず。
意図してはいなくとも、死ではなく『消滅』を敗北とするが故にどこか戦略的で、敗北をしないために身を守る事も、逃げる事もする。
そして幾度斬られても、撃ち抜かれても、勝利を求めて目の前の『敵』――あたし達に向かってくる。
作家の言う『感謝』も分かる。
奴は決して消滅に怯えて、媚びる事も、生を哀願することもない。
その両の腕の鎌を、戦士としてストイックに振るい続けるだけ。
だからあたし達は、憐憫という感情で手を緩めるようなことなく、戦う事ができる。
純粋に『この敵を倒す』事を――素人たるあたし達がただそれだけを――考えていればいいというのは、きっと喜ぶべき、感謝すべきことなのかもしれないと思う。
でも……!
七波「いつまでも……っ!!」
奴の鎌を大きく弾いたところで……!
七波「あんたを愛でてる時間はないんだよねっ!!」
コロナ『17』
バケモノの懐に飛び込むっ……!
『kiiiiiiiiiiiiiiiiAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
鎌の斬撃。
一撃目であたしの体は煙に変わる。
そして次の攻撃は……煙の中!
今斬られた分身の煙から、再びあたしの体が現れて……
『kaHiiiiiiAaaaaaaaaaaaaaa!!』
再度の奴の斬撃……!
あたしは更に消えるっ……!
『keeeeeeeeeeeeeeeeeeee!?』
その直後、あたしの体は、バケモノの背後に回っていた……!
ここからならいい……! 足を切り落としてカウント0で確実に仕留められ
――スッ……!
七波「えっ……?」
右手が、飛んだ。
刀と、一緒に。




