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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
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1-4-30-5 【桜瀬七波】 悪鬼の歌垣 5

七波「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」


紅蓮「……くっそ、ダメだ!」


 どうしてもタイミングが合わない。


 力がないからとかじゃない。

 息が合わないってのもあるとは思うけど、それ以上に、ここはもう完全に経験値の差だ。


 上手く戦えないという焦燥が、あたし達を襲う。


紅蓮「くぅっ……ふぅっ……はぁっ……はぁっ……」


 ……揃って、息が上がる。

 体力は、お互い限界が近いだろう。……しかも。


七波「作家! 無事っ!?」


紅蓮「づつっ……!? ……何とか……ね……!」


 作家は案の定、まずいことに奴の斬撃を関節に食らって、それがかなりのダメージとなっているようだった。膝をついて、だらりと左腕が下がっている。


フレイバーン「……紅蓮の体まで届かなかったのは不幸中の幸いだ」


コロナ『回路、ショート。左腕のシールドゲートが消失しました』


七波「そんなっ……」


 あたしは息を呑まざるを得なかった。

 でも、作家は……。


紅蓮「打撲で済んでるなら、まだ行けるよ」


七波「でも、そんな体じゃ戦うなんて無茶……!」


紅蓮「大丈夫っ!」


七波「っ……!」


 作家の制止の声が、あたしの言葉を押し留める。


紅蓮「……七波とおんなじだよ」


七波「え……?」


 ぎゅっと……痛みはあると思うのに、それでも下がっている左腕の拳を握りなおす作家。


紅蓮「七波がやらなきゃって思ったのと一緒。俺もやらなきゃ。……あいつは野放しに出来ないもの」


 そう言ってくれることは、あたしにとって心底嬉しい事。

 でも、不安はどうしても拭い去れなくて。


七波「……戦って、死ぬかもしれないんだよ? 腕とか……手、とか……なくなっちゃうかも……」


紅蓮「この前――初めてこのスーツ着て戦った時にさ」


七波「え……?」


紅蓮「俺の後ろには誰もいなかった。だからずっと『どうしてこんな理不尽な目に』って、自分のことしか考えられなくなって同じ所をぐるぐると回ってた。でもある人の言葉で『どうして』じゃなくて『どうしたら』に変わって。そして……今は一人じゃなくなって」


七波「……あたし?」


紅蓮「そう。全然違うんだ。同じ立ち位置で、気持ちを共有できる人が俺の後ろにいてくれるんだもの。……だから今回は大丈夫」


 肩を抑えていた手を下ろしながら、作家は立ち上がる。


紅蓮「背中で七波が頑張ってるのを感じられるから、こんな状況、理不尽だなんて全然思わない……!」


七波「……作家……」


 理不尽――そりゃそうだろう。

 フツーの大学生だった作家がいきなり宇宙を又にかけた戦いでボコボコにされたんじゃ、そう感じない方が道かって話だ。


 でも、今はそうじゃないと言ってくれる。

 あたしと頑張るって言ってくれてる。


 なら、あたしはそれをただ、受け入れるだけだ……!


『kooooooooAaaaaaaaaaaaaa!!!』


 再生を終えたバケモノが吼える。


 その様をあたしも作家もじっと見つめる。



 自然に。


 お互い意識することなく。


 時空を越えて、背中合わせで立って。



 目の前のバケモノ――奴は狡猾だと思う。

 でも、それはただただ卑怯とかいうんじゃなくて……戦いで勝とうという――生きようという全力を振り絞っているように感じられた。


 自分が一個の生命体であることを誇り、ゲフリーさんに体をいじくられてこんな異星に放り出されてもなお、『生きているぞ、ここにいるぞ』と叫んでいるような、強い意志が感じられる。


 あたしは、それを見て。



七波「……作家」


紅蓮「え?」


七波「あいつをみて……何を感じる?」


紅蓮「……」


 作家はこんな状況でも冷静に、あたしが何かを感じたらしいと察してくれて、少し心の奥を探っていた。

 ……そして。


紅蓮「……どうしてそんなことを考えたのか分からないけど……戦ってる内に、こんなこと一瞬考えた」


七波「どんな?」


紅蓮「よくわかんないんだけど……変なんだけどさ……これは『感謝』かもしれない」


七波「……感謝?」


紅蓮「……そ。感謝」


七波「……」


 ……なるほど、ね。


七波「変なの。……でもそれも分かるかも」


紅蓮「そう?」


七波「言われてみれば、って事。作家はやっぱり想像力あんのかなー?」


紅蓮「そこ疑問系ってどうなの」


七波「えへへ。……でも奴にお礼なんて言ってられないね……どうする?」


紅蓮「……これも戦ってる最中に考えたんだけど」


七波「うん、聞かせて!」


紅蓮「七波……耳でタイミングを合わせよう」


七波「耳で?」


 あたしは少し首をかしげる。


七波「……今も状況は伝え合ってるけど」


紅蓮「そうじゃなくて、俺と七波のどちらも、互いを意識しない状態で、でも同じ目的に向かって専念するってこと。そうすれば、俺たちなら大丈夫!」


七波「……良く分かんない。具体的にはどうするの?」


紅蓮「コロナ、もう一回! さっきのカウントダウンを!」


コロナ『カウントは?』


紅蓮「一分……いや、30秒でいい!」


七波「カウントダウン?」


紅蓮「七波、これで決めよう! 0があいつを倒すタイミングだよっ!」


七波「……っ! なるほどっ!」


 それなら確かに、視線を送るという意識的な動作をしなくても情報は入ってくる。

 状況を説明するなんて事に考えを割く必要もない、躊躇もいらない。


 その後必要なのは僅かばかりの聴覚への意識と……相手への信頼だけでいい……!


紅蓮「七波、いくよっ! コロナ、カウント……」


七波「待って、作家っ!」


紅蓮「えっ……?」


七波「クレシダ、ちょっと聞かせてほしいんだけど」


クレシダ『何?』



 あたしは『ある事』をクレシダに聞いた後、それを元に『別のある事』を作家に告げた。



紅蓮「……そうか、それなら確かに……!」


七波「うん。あたしの方も対応のしようがあると思うんだ」


紅蓮「分かった。七波のそれ、信じるよ」


七波「お願い! これであたしも絶対に決めるからっ!」


紅蓮「ああ、お互いにっ! ……コロナっ!」


コロナ『了解、カウントダウン開始』


 これで失敗したら、後はない。

 もう、ここからは……その意識で行くだけっ!!


コロナ『……30』


七波「……たぁぁぁっ!!」


紅蓮「……ぉぉぉぉああああっ!!!」


 あたし達は同時に、爆発的に飛び出す。


 目の前の『宿敵』に向かって……!




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