1-4-29-7 【熾堂紅蓮】 痛覚の理由 7
ごぞりっ、と言う音がすぐ目の前でしたと思ったら。
フレイバーン「何っ!?」
ある意味、ホラーだったと思う。
上半身を失ったその抜け殻のようなカーシェル星人の体が起き上がって……!
紅蓮「ちょっ……なっ……なっ!?」
フレイバーン「ンンだとぉっ!!?」
なくなった部分に、体が白いフレームのような線が這い回ったと思ったら、元の体と同じ形状にラインが出来上がり、僅かな後に……!
『kiShiiiiiaaaaaaaaaaa!!!!』
体が同じ形に作り上げられ、奴は再び、耳障りな声を、虚空に向かって放っていた。
紅蓮「ちょっ!? ふ、吹っ飛ばしたよね!? こう、丸い形に、こう、切り取る感じで……」
フレイバーン「……再生しやがった」
紅蓮「え、またぁっ!? さっき6体ぐらい、こう、ばしゃっ! ってやったら、むっ! って再生したの倒したばっかじゃん! 何、宇宙人の脅威、ネタ不足!? 宇宙ってもっと広いんじゃないのかな!?」
コロナ『違います。同空間に異常な揺らぎを検出。分析結果、あのカーシェル星人は別空間から、存在情報を書き換えられていた模様』
紅蓮「……再生と違わないよね、それ!?」
フレイバーン「ちょ、待てコロナっ! 別空間ってなんだ、それは俺らにどうにかできんのか!?」
コロナ『対応情報を検索ちゅ……待ってください』
紅蓮「えっ……?」
コロナの声色が明らかに変わった。
フレイバーン「どうしたコロナっ!」
コロナ『私への不正なアクセスを検出。防壁とフェイクデータを次々と突破しています』
フレイバーン「何ィっ!?」
コロナの無機質な声の表情は変わらないけど、テンポが明らかに早くなる。
フレイバーン「最近は警察を襲うのが流行ってんのかよっ!? 今度はどこのバカだっ!」
コロナ『分かりません。攻性防壁『アチャルバルス』、突破。対応防壁『アイアス』01から03、『ウィーザル』02から09、『カフヴァール』01から04、06、突破、もしくは破壊……! 最終防壁『アルニラム』……突破されました!』
フレイバーン「バカ言えっ! 国家機密を守るレベルの防壁だぞっ!!?」
コロナ『……攻撃が……XAAAA……ません……ZASAZAZA……避を……ZASHAAAAAAA……』
ザザザッ、というこれまでに聞いた事のない耳障りな音と共に、コロナとの会話が途切れてしまう。
フレイバーン「なっ……!? 無事か、コロナっ! ……コロナぁっ!!」
紅蓮「一体何がっ……!?」
フレイバーン「くっそ、ありえねェ! まさかウィルスか何かに……コロナが……!」
フレイバーンも明らかに動揺していた。
目の前の再生したカーシェル星人。そしてコロナの消失……。
この事態……一体どうやったら全て解決って言え――
??「熾堂君! 熾堂君よねっ!!」
紅蓮「えっ……?」
不意に声をかけられて振り返る。――この倉庫の入り口へ続く道に……!
紅蓮「卍山寺さんっ!?」
卍山寺さんは、巨大な倉庫の壁にもたれるようにして俺へと顔を向けていた。
紅蓮「あ……俺ですっ、熾堂です!」
詩遥「うん……声聞いてて分かった……!」
紅蓮「……大丈夫なんですか!?」
詩遥「私は……大丈夫……! でも……七波ちゃんが……七波ちゃんがっ……!」
紅蓮「……七波がっ……!?」
その卍山寺さんの切羽詰まった声に、ぞわりと胸騒ぎがする。
しかし……!
紅蓮「……ぁっ……!?」
突如、カーシェル星人が卍山寺さんの声に反応してか、恐ろしい速度で一気に詰め寄る……!
詩遥「……えっ……?」
その鎌を振り上げて……!
『kiShaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
ガチィッ!! と言う音がした時――俺は卍山寺さんを抱き上げて空中へと舞っていた。
……音は奴が地面に鎌を突き立てた音だ。
詩遥「えっ? ……熾堂……君? えっ……えっ!?」
お姫様抱っこをされてる卍山寺さんはきょろきょろとして、自分がどうしてそんな体勢で俺と一緒に宙を飛んでるか分からないようだった。
……ステルラスーツを装着した俺の一足飛びは、常人では捉え切れないらしく。
紅蓮「卍山寺さん、悪いけど、ここへ来ちゃダメです!」
詩遥「あの……バケモノって……もしかして宇宙の……」
紅蓮「そうみたいです……!」
……よくよく考えてみれば、確かに未だに信じられる存在ではないのだけど。
でも、卍山寺さんは『宇宙人の存在を知っている』。
俺がここへ訪れる前に、一度その話の打ち合わせをしたんだし。
――それはともかく、着地して卍山寺さんを下ろす。
そして、俺は一気にカーシェル星人に肉薄して、再び奴と立ち回りを演じる。
紅蓮「……はぁぁぁっ!!!」
『kiSiiiiiiAaaaaaaaaaaaaa!!!』
卍山寺さんへとその攻撃が及ばないように……!
紅蓮「くっ……! 卍山寺さんっ……七波が……七波がどうしたんですかっ!?」
詩遥「ぁっ……!? そう! 七波ちゃんがっ……」
……さっきの別れ際、七波は相当辛そうな顔をしていた。
まさか七波……あのまま……!
カーシェル星人の鎌を裏拳で弾いて……!
詩遥「『消えちゃった』のっ!」
紅蓮「……えっ……?」
少し、距離を取り、着地。
七波が……消えた? どこへ?
さっき卍山寺さんが倒れていたところから、七波がいた場所までは20mは離れていなかった。
開けた場所で、顔を上げて見回せば、お互いを確認する事はできたはず。
でも、いないって――
あんな体で、七波はどこへっ……!
フレイバーン「コロナっ……返事をしろ、コロナっ!!」
紅蓮「くっ……!」
こっちもかよ……! コロナがまだ戻らない……!
そうこうしている内に、カーシェル星人が迫ってきて、再び俺へと鎌を振り下ろしてくる……!
紅蓮「……コロナっ!!」
ロンダートでかわしながら、俺も一縷の望みを託して、声を上げる……!
??『……XIXIZAAA……それ――ZASHAA――件ですか。……いいでしょう』
フレイバーン「っ……!? 無事かっ、無事なんだな、コロナっ!」
コロナ『問題ありません。しかし……この状況はこれで問題のようですが』
紅蓮「……どうしたの!?」
コロナ『……繋ぎます』
コロナの声からは、微妙に苛立ちとも呆れとも取れない色が感じられた。
と、その直後の事だった。
??『やっほー、宇宙刑事フレイバーンと、えーとグレン、でいいんだよね?』
紅蓮「えっ……?」
やけに軽い声の通信が、俺の名前を口にしたことに面食らう。
フレイバーン「誰だテメェはっ!? ウチの女子社員に随分大胆なアタックかましてくれたみてェじゃねェか! コロナのケツはそうそう軽くねェからな!?」
コロナ『あなたに言われたくありません。宇宙刑事フレイバーンは女性型AIの臀部を妄想し、更に執着する傾向があると銀河中のネットワークに流布してもよいのですが』
フレイバーン「コロナさん、すんませんっしたァァっ!!!」
紅蓮「そういうの今はいいから! ……お前、誰だよ!?」
??『まーまー。ボクはクレシダ。今日はみんなに――特にグレン』
紅蓮「お、俺?」
クレシダ『うん。君にホットラインを繋がなきゃって思ってね』
紅蓮「……ホッ……え? え?」
クレシダとか言う――ウィルスなんだろうか?
俺にウィルスの知り合いはいないと思ったんだけど……。
??「作家っ……? 作家、聞こえてんだよねっ!?」
俺は、ハッと我に返った……!
紅蓮「……七波っ!?」
その声を聴いて。
事態は更にややこしくなると感じた俺の考えは、果たして『大体合ってる』のタグをつけられてしかるべき状態だった……。




