1-4-29-6 【熾堂紅蓮】 痛覚の理由 6
『kiShiaaaaaaaa!!!』
カーシェル星人が、残された左腕を振り下ろしてくる。
でも俺は、その鎌に真っ直ぐに突っ込んで跳躍……!
紅蓮「たっ……!」
跳躍と同時に、鎌に合わせて繰り出す蹴り。
右足の甲が刃の部分に当たるけど――切れない事は先刻承知っ! 全く意に介さずそのまま鎌を蹴り飛ばす!
『kheeeeeeeaaaaaaa!!?』
万歳をするような格好で大きく弾かれるカーシェル星人。四本の足の、前足まで持ち上がる。
後ろに転がるのを何とか耐えて前足を地面に下ろし、その勢いで鎌をもう一度振り下ろそうとするも……!
紅蓮「はぁぁぁっ……!」
俺は蹴った勢いで、左へ半回転。
奴の懐へ飛び込んだ俺は、鎌の旋回半径の内側にいる……!
下から掬い上げるように、刃となった光刃警棒を、切り上げて……!
紅蓮「……たぁぁぁぁぁっ!!」
再び切断音――。
『kiiiiiiHiiiaaaaaaa!!!?』
切り飛ばされた鎌腕が回転しながら宙を舞う中、更にそのまま右の回し蹴りを――カーシェル星人の側頭部に叩き込む!
紅蓮「ぜ……ぇぇいいっ!!」
叩き込んだ蹴りを……そのまま力任せに振りぬいて……!
『kiShiaaaaaaa!!!?』
今度は耐え切れず――それどころかあのとんでもない重量がありそうな体が少し宙に浮いて、盛大に横に吹き飛んでぶっ倒れるカーシェル星人。
……着地。
遅れて、回転を伴いながら、切り飛ばした鎌腕が硬い地面に深々と突き刺さった。
『Kaaaaaaaaaaaaaa……!!』
それでもカーシェル星人は、支える腕がなくなったというのに、ゆっくりと立ち上がろうとする。
こちらに向ける顔から、闘志が消えたように見えない。
紅蓮「人知の及ばないバケモノってのは、ああいう奴の事なのか……」
フレイバーン「女王のコントロールが外れると、完全にただのキリングマシーンだ。目に付く動く物を全部叩き壊すまで暴走は止まらねェよ……!」
と、その時。
コロナ『フレイバーン、条件付で『ミュオニックキャノン』の使用が一発だけ承認されました』
フレイバーン「来たかっ!」
コロナ『付与条件はこちらで補正。いつでも転送が可能です』
フレイバーン「構わねェ! 回せ、コロナっ!!」
コロナ『了解。『ミュオニックキャノン』、スタンバイ』
その一言で、俺の周囲に走るいくつもの光の線。
左腕の肩から肘の下を通って――小指の下を這う光が、俺に何かを握らせる。
そしてその手の先に、銀色に光る――長さで言えば、俺の身長ぐらいもある砲身が現れて……!
紅蓮「ちょっ……何ですかこれはぁぁぁっ!?」
トンファーのように俺の手に握られる巨大な大砲。
もう、見た目から凶悪すぎて一周回って正直草だけど……!
コロナ『宇宙警察の特殊装備『ミュオニックキャノン』です。陽電子の一つ・ミューオニウムを物質中の電子に衝突させた際の対消滅を利用した……』
紅蓮「そういう事じゃなくて重すぎてこのステルラスーツでも動けないんですが!」
本当にずっしりと感じられる重さで、立ってるのがやっとだ。
コロナ『エネルギーの充填を開始』
肩のパーツで、何か高まっていくような音が鳴り始め、腕の下部に回りこんだパーツが光を宿していく……!
紅蓮「ちょ……マジ? これ撃つの? これ当てんの!?」
フレイバーン「当たり前だろうがっ! 外す方が難しい的だろ!?」
と……俺たちの真正面では、ヨロヨロではあるけど立ち上がったカーシェル星人。
ばさりっ! とその背中で大きく羽根が開く。
それもまたカマキリそっくりだったが、気にするべきはそんな事じゃなかった。
フレイバーン「……野郎、特大のをぶっ放すつもりだ!」
紅蓮「……ぅえええ!?」
フレイバーンの言うとおり、開いた羽根と、その最後に残された武器である額がこれまで以上の輝きを放ち始めて……!
フレイバーン「野郎の全力はそれこそ艦砲レベルだって聞くが……!」
紅蓮「こんなトコで重巡チャレンジはしたくないんですが!」
フレイバーン「心配するなっ! こっちも負けてねェ!」
紅蓮「……あぁぁぁっ! もうやるしかないっ!!」
コロナ『充填、完了』
コロナの無機質な声……それが合図だった……!
フレイバーン「やれ、紅蓮っ! 万感込めて……!!」
左手のハンドルのトリガーを握りなおし……!
『KiHiiiiiiAaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
奴の頭が強い光を伴って――射出!
フレイバーン「ぶっ放せっ!!!」
紅蓮「行けェェェェェェェっ!!!!」
――照射!
解き放たれた互いの必殺の光が、空中でぶつかり合う……!
そのまま膠着して……!
紅蓮「ぐっ……くくくっ……!!」
全身を押される感覚がある。
この特大の奴ってのは、さっきまでのとは違う――まともに食らったらヤバいのが分かる……!
コロナ『照射カウント、5』
紅蓮「くっ!?」
5秒後にあいつのレーザーを押し切っていなかったら、こっちが直撃を喰らう事に……!
コロナ『4』
紅蓮「くそっ……!」
明らかな質量差のためか、上からずっしりとしたものが覆いかぶさってくる感覚が……!
コロナ『3』
ダメとは……思いたくないけどっ……!!
フレイバーン「ンの野郎ッ!!」
紅蓮「っ!?」
不意に、体が入れ替わる感覚……そしてっ!!
フレイバーン「オラぁっ!!」
キャノンはそのままの姿勢で、サイドスローで何かを投げつけるフレイバーン……!
紅蓮(……光刃警棒……!)
――ザグッ!! と言う音が前方で……!
『kiHiiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!?』
コロナ『2』
奴の体に突き刺さった光刃警棒は、奴の体から最後の力を奪う……!
フレイバーン「いけっ、紅蓮っ!!!」
体のコントロールが戻る。足を……踏み込み直して……!!
コロナ『1』
紅蓮「……消えろぉぉぉあああああああっ!!!」
真っ白の光が……カーシェル星人を飲み込む……!
『――――――!!!』
ザサッっ……!! という何かが擦れる音とも、一瞬で燃え上がる音とも取れない音と共に……
カーシェル星人の上半身から、下半身の半分が消え去った……!
コロナ『……照射完了』
上向きの角度で打ち出されたミュオニックキャノンは、闇色の空を一瞬だけ切り裂き、ゆっくりとその役目を終えるようにして消えていった。
……誰か見てたらネットで何書かれるかなーと……。
意識の中枢と、戦う力の全てを失ったカーシェル星人の、円形に切り残された下半身が、どさりと崩れ落ちる。
紅蓮「……はあああああああ……終わった……」
キャノンが線となって消えて行き、その直後、へなへなと崩れ落ちそうになる俺。
フレイバーン「ったく、意気地の足りねェ事だぜ」
紅蓮「2回目にしては良くやったつもりなんだけどなぁ……」
フレイバーン「まぁ、その辺加味して及第点か」
やれやれというニュアンスはあったけど、フレイバーンの中では最大の賛辞なんだろう。
……って、いけない。
紅蓮「七波と卍山寺さん、あと警察の人たちを何とかしないと」
フレイバーン「……待て待て! 俺らの目的はゲフリーレンだぞ!?」
紅蓮「そんなこと言ったって人命救助の方が先でしょ、『刑事さん』!?」
フレイバーン「……チっ……その通りだぜ」
と、その時だった。
コロナ『……待ってください』
紅蓮「……え?」
コロナ『空間に異常な数値を検出』




