表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
73/88

1-4-29-3 【熾堂紅蓮】 痛覚の理由 3

 でも、そんな俺の自問に納得のできる解が出る間もなく……!



『HiiiiiGaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』



 更に奴が追い縋ってきて……袈裟切りに振り下ろされる、鎌……!

 ガードしつつも……!


紅蓮「……あぐぅっ!?」


 振り抜かれた鎌によって、柱が砕け散り、俺の体ごと吹き飛ぶ。


紅蓮「くはっ!? ……ぐくっ……くそっ……!」


 押し込まれるようにして倉庫の中へ――その床に転がった。

 腕の痺れ、再び襲い来る背中の痛みが痛烈に俺の心を蝕むかのようで……。


『kiiiiiiHaaaaaaaaa!!!!』


 シャッターを易々と押し破り、積み上げられたダンボールを蹴散らしながら、更に追い縋ってくるカーシェル星人。

 俺の態勢を整えるのなんか待っちゃくれない……!


 風を切って振り下ろされる鎌を、握った警棒で逸らそうとする。


 でも覚束ない、腰の引けた有様じゃ、まともにその鎌を捌ききれなくて……!


紅蓮「ぐっ……!? ぅあっ!?」


 主観時間が広がってなお、このスピード。しかも、俺の獲物は警棒一つなのに、あいつの武器は両腕――二本の鎌だ。

 次第に俺はその手数に押され始め……その結果、体に突き刺さり始める鎌の斬撃。


紅蓮「くっ……くっそぉぁっ!!!」


 何とか鎌の動きを目で追って、警棒で片方の腕を大きく弾く。……しかし。


『kaaaaaaShiaaaaaaa!!!!』


 その弾かれた動きですら奴は利用し、直後、弾いた方向とは全く反対側から、掬い上げるような鎌の一撃で……!


紅蓮「……ぐぁはっ!!?」


 鋭い音共に、俺の体が浮き上がり……更に……!



 キィィィィィィ……!



 熱線が、再び空中に弾き上げられた俺の体に撃ち込まれる……!


紅蓮「うあああああっ!!?」


 奴のレーザーは空中で俺の体を捉え、俺を倉庫の壁に……!



 ――ガシャッ!!



紅蓮「あぁぐっ!?」


 その鈍い音は、俺が立てたものだと気づく間もなく……。


『kiiiiiiiiiiShiiiiiiiAaaaaaaaaaaa!!!!』


 迫る、巨影。


 覆いかぶさるように真上から、ガンっ……ガンッ!! と容赦なく、何度も俺に振り下ろされる鎌。


紅蓮「ぐぅっ……!? くぁぁっ!!?」


 再び腕でその鎌から身を守ろうとするが、守りきれないほどの手数の鎌の斬撃や刺突。

 俺の体は叩き付けられた壁に更に押し付けられ、そのままはりつけにされるように身動きを封じられる。


 全身に突き刺さるような衝撃がいくつも走る。



 一つ一つの痛みが、俺の心にまで、届くかのようで……



紅蓮(……どう……して……!)



 再びぐるぐると巡る言葉が、



 頭の奥に根深く突き刺さったものを……



 浮き彫りにしていく……。





 ――それはこの2週間余り、ずっと考えてきたこと。





 どうして今、こうなっているか。


 どうして今、こうされているのか。



 こうして痛みを受け続ける事の理由――その意味を、もう一度。



紅蓮「ぐっ……うぁぁっ!!?」



 ――何も知らない一介の大学生だったはずの俺。


 それがある日、唐突に宇宙人と体を共有してしまう。

 そして同じく宇宙から飛来してきた地球外生命体と、いきなり戦う事を迫られた。



 それで、全てが変わった。



 俺の日常は望みもしない形に変わり、その非日常が、日常になった。



 だからこんな風に殴りつけられ、斬り付けられ続ける。


 痛みを受け続ける――これが今の俺に与えられた日常と言う物。



紅蓮(理不尽に……決まってるじゃないかっ……)



 俺はただ、この状況に歯噛みする。



 望むべくもない状況に。


 苦痛だけを伴う状況に。



 そんな日常、この星で俺以外、一体誰が……っ!




 ……。




紅蓮(……あれ……?)




 何かが、おかしい。




紅蓮(……)




 斬り付けられて、体に幾度も痛みが走る中、




紅蓮(……。……ああ)




 なぜか俺は悟ったように思い出す。




紅蓮(……そうか)




 ……そうだ。そうだった。




紅蓮(俺はもう……)




 気付いてみれば、簡単な事。




紅蓮(変わってしまった日常に『どうして』は求めてなかったんだっけ)




 うん。


 今は答えはまだ出ないけど、『どうしたら』に変わった俺の日常への向かい方。




 でも、理不尽は感じてる。




 それは一体何に?




『KaaaaaaaaaaaaaaaaaaaShiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』




紅蓮(……『耳障りだな』)




 ……そっか、分かった。




 ガンっ! ガンっ! と体に突き立てられるそれは、今もなお続いてる。




紅蓮(こんな……!)



 俺はただ、体を守る腕の拳を固める……。



紅蓮(このままずっと……!)



 すっと腕の隙間から、目の前の理不尽それを、睨みつけて……!






紅蓮「この程度の痛みに、悩まされ続けるなんてっ!!」






『kiiiiiHaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』



 止めとばかりに、振り上げられる鎌……!



紅蓮「調子にぃぃっ……」



 ぐんっ、と上半身を前にのめらせて、拳を振りかぶり……!



紅蓮「乗るなぁぁぁぁぁっ!!!!!」



 奴の振り下ろされてきた右腕の鎌を――『理不尽を生むもの』の先端を、俺は右の拳の一閃で、鈍い音と共に弾き飛ばす!!



『Kaaaaaa!? Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!???』



 一方的だったはずのカーシェル星人は何が起きたのかと言うような声を上げて仰け反る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ