1-4-29-3 【熾堂紅蓮】 痛覚の理由 3
でも、そんな俺の自問に納得のできる解が出る間もなく……!
『HiiiiiGaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
更に奴が追い縋ってきて……袈裟切りに振り下ろされる、鎌……!
ガードしつつも……!
紅蓮「……あぐぅっ!?」
振り抜かれた鎌によって、柱が砕け散り、俺の体ごと吹き飛ぶ。
紅蓮「くはっ!? ……ぐくっ……くそっ……!」
押し込まれるようにして倉庫の中へ――その床に転がった。
腕の痺れ、再び襲い来る背中の痛みが痛烈に俺の心を蝕むかのようで……。
『kiiiiiiHaaaaaaaaa!!!!』
シャッターを易々と押し破り、積み上げられたダンボールを蹴散らしながら、更に追い縋ってくるカーシェル星人。
俺の態勢を整えるのなんか待っちゃくれない……!
風を切って振り下ろされる鎌を、握った警棒で逸らそうとする。
でも覚束ない、腰の引けた有様じゃ、まともにその鎌を捌ききれなくて……!
紅蓮「ぐっ……!? ぅあっ!?」
主観時間が広がってなお、このスピード。しかも、俺の獲物は警棒一つなのに、あいつの武器は両腕――二本の鎌だ。
次第に俺はその手数に押され始め……その結果、体に突き刺さり始める鎌の斬撃。
紅蓮「くっ……くっそぉぁっ!!!」
何とか鎌の動きを目で追って、警棒で片方の腕を大きく弾く。……しかし。
『kaaaaaaShiaaaaaaa!!!!』
その弾かれた動きですら奴は利用し、直後、弾いた方向とは全く反対側から、掬い上げるような鎌の一撃で……!
紅蓮「……ぐぁはっ!!?」
鋭い音共に、俺の体が浮き上がり……更に……!
キィィィィィィ……!
熱線が、再び空中に弾き上げられた俺の体に撃ち込まれる……!
紅蓮「うあああああっ!!?」
奴のレーザーは空中で俺の体を捉え、俺を倉庫の壁に……!
――ガシャッ!!
紅蓮「あぁぐっ!?」
その鈍い音は、俺が立てたものだと気づく間もなく……。
『kiiiiiiiiiiShiiiiiiiAaaaaaaaaaaa!!!!』
迫る、巨影。
覆いかぶさるように真上から、ガンっ……ガンッ!! と容赦なく、何度も俺に振り下ろされる鎌。
紅蓮「ぐぅっ……!? くぁぁっ!!?」
再び腕でその鎌から身を守ろうとするが、守りきれないほどの手数の鎌の斬撃や刺突。
俺の体は叩き付けられた壁に更に押し付けられ、そのまま磔にされるように身動きを封じられる。
全身に突き刺さるような衝撃がいくつも走る。
一つ一つの痛みが、俺の心にまで、届くかのようで……
紅蓮(……どう……して……!)
再びぐるぐると巡る言葉が、
頭の奥に根深く突き刺さったものを……
浮き彫りにしていく……。
――それはこの2週間余り、ずっと考えてきたこと。
どうして今、こうなっているか。
どうして今、こうされているのか。
こうして痛みを受け続ける事の理由――その意味を、もう一度。
紅蓮「ぐっ……うぁぁっ!!?」
――何も知らない一介の大学生だったはずの俺。
それがある日、唐突に宇宙人と体を共有してしまう。
そして同じく宇宙から飛来してきた地球外生命体と、いきなり戦う事を迫られた。
それで、全てが変わった。
俺の日常は望みもしない形に変わり、その非日常が、日常になった。
だからこんな風に殴りつけられ、斬り付けられ続ける。
痛みを受け続ける――これが今の俺に与えられた日常と言う物。
紅蓮(理不尽に……決まってるじゃないかっ……)
俺はただ、この状況に歯噛みする。
望むべくもない状況に。
苦痛だけを伴う状況に。
そんな日常、この星で俺以外、一体誰が……っ!
……。
紅蓮(……あれ……?)
何かが、おかしい。
紅蓮(……)
斬り付けられて、体に幾度も痛みが走る中、
紅蓮(……。……ああ)
なぜか俺は悟ったように思い出す。
紅蓮(……そうか)
……そうだ。そうだった。
紅蓮(俺はもう……)
気付いてみれば、簡単な事。
紅蓮(変わってしまった日常に『どうして』は求めてなかったんだっけ)
うん。
今は答えはまだ出ないけど、『どうしたら』に変わった俺の日常への向かい方。
でも、理不尽は感じてる。
それは一体何に?
『KaaaaaaaaaaaaaaaaaaaShiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
紅蓮(……『耳障りだな』)
……そっか、分かった。
ガンっ! ガンっ! と体に突き立てられるそれは、今もなお続いてる。
紅蓮(こんな……!)
俺はただ、体を守る腕の拳を固める……。
紅蓮(このままずっと……!)
すっと腕の隙間から、目の前の理不尽を、睨みつけて……!
紅蓮「この程度の痛みに、悩まされ続けるなんてっ!!」
『kiiiiiHaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
止めとばかりに、振り上げられる鎌……!
紅蓮「調子にぃぃっ……」
ぐんっ、と上半身を前にのめらせて、拳を振りかぶり……!
紅蓮「乗るなぁぁぁぁぁっ!!!!!」
奴の振り下ろされてきた右腕の鎌を――『理不尽を生むもの』の先端を、俺は右の拳の一閃で、鈍い音と共に弾き飛ばす!!
『Kaaaaaa!? Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!???』
一方的だったはずのカーシェル星人は何が起きたのかと言うような声を上げて仰け反る。




