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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
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1-4-29-2 【熾堂紅蓮】 痛覚の理由 2

『Kiiii、HiiiiiiiiiAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』


紅蓮「なっ……!!?」


 5mはあろう巨大な生物が、川の水を滝のように落としながら現れる……!


 その姿は、カマキリに似ていた。

 弧を描くような体の下半身と思しき部分は上半身と比較して膨れていて、四本の足がそれを支えている。そして上半身に付いた腕は本当に鎌そのものの形をしていた。


 頭部は兜のようないかつい形状で、それが後方へぐぐぐっ、と伸びている。……映画のエイリアン2とかに出てた、エイリアンクイーンの頭とかを思い出させる形状。


 その前面にある、両目にあたる部分は黒い球体が二つ。

 その真ん中――額に当たる部分にも一つ、大きな灰色の球体が埋め込まれている。

 全身は青緑で、てらてらとした表面に覆われていた。


フレイバーン「嘘だろ……カーシェル星人じゃねェか……!」


紅蓮「……誰っ? 友達っ!?」


フレイバーン「ンなワケあるかっ!」


コロナ『カーシェルと言う惑星全土で、この地球で言うところの蟻のようなコロニーを作る、宇宙警察の管轄下の惑星の中でも特に凶悪な危険種に指定された生物です』


紅蓮「……確かにアレは穏便に済ませてくれそうな顔はしてないけど……!」


フレイバーン「やべェのは、一匹だけでもとんでもねェ戦闘力を持ってる上に、見境がねェってトコだぜ……! あいつ一体捕獲すりゃ……!」


 とかフレイバーンが言ってる中で……!



 キィィィィィィ……!!



 額の球体に光が集まって……!


フレイバーン「やべェ、かわせっ!!」


紅蓮「えっ……!? ……くっ……!!」


 言われるがままに横に飛んだ瞬間、今の今まで俺がいた場所に眩いばかりの光が溢れ返り、闇夜を切り裂いた。


 振り返りつつ着地。直後……地面が爆発した……!


紅蓮「なっ……何あれっ!?」


 光が着弾してコンクリートがめくれ上がった場所が、熱を持って赤い色に変色している……。


フレイバーン「アレがやべェ理由だ! 体内で重酸素ヨウ素レーザーを発生させてぶっ放しやがる! 戦車一台前線に放り込むより、遥かに安くて効率のいい破壊兵器になるんだよっ!!」


紅蓮「ちょっ、日本にそんなもの持ち込んで……って、さっきのヴァーグがっ!?」


フレイバーン「……いや、たかが賞金稼ぎがカーシェル星人に用事があるとは思えねェんだが……けど確かに今この星であんな奴が現れる理由が他に考えられねェ……!」


コロナ『ヴァーグの宇宙船がドレーラ星の基準仕様である水中探査型であるとすれば、川中から現れたのも頷けます。この仕様であれば大洋などに着水した後、私のレーダーに感知されずにここへ到達する事も可能』


フレイバーン「……そうか! さっきの違和感はこいつか!」


紅蓮「えっ!?」


フレイバーン「水門の向こうとこっちの水位がぴったり同じだぞアレは! 門が閉まってりゃ、普通は高さが変わる! 野郎、宇宙船で水門の底に穴でもブチ開けたんじゃねェのか!?」


紅蓮「あ……確かに……!」


 気は短くても、勘が働くトコはさすがに刑事だった。……ちょっと遅かったけど……。


コロナ『惑星ドレーラ外の人間の肉体を使用する以上、空気は必要だと思いますが、あの類の探査船なら深海の海底などである程度の水圧に耐えうる膜を展開させて、空気のある空間を作る事も出来ます』


フレイバーン「なるほどな。とすればヴァーグの野郎は水の底か……!?」


紅蓮「……それなら早くあいつ何とかして、川の底に行く方法を……!」


コロナ『フレイバーン、紅蓮』


紅蓮「何っ?」


コロナ『あのカーシェル星人の体を構成する物質に不審な点があります。少なくとも、データベースにあるカーシェル星人の体組織情報と一致しません』


紅蓮「何それ……?」


フレイバーン「調べろっ、制限時間は俺らがあいつをブッ潰すまでだ!」


コロナ『了解、スキャニングを開始』


 俺は改めて正面の、そのカーシェル星人とやらを見上げる。


 ……デカい。


 3、4階建てのアパートほどもある大きさの生き物なんて……動物園で見かけるようなゾウやキリンなんか目じゃない。

 しかもその凶悪な姿。迫って来ようとする圧には腰が引けそうになる。


フレイバーン「……いけるか、紅蓮!?」


紅蓮「……正直……逃げたいけどね……!」


 でもあいつを放置しとくって事がどういうことか……!


紅蓮「……このスーツで……どうにかなるの……!?」


フレイバーン「当然だ! 質量差ってのはそれだけで強さの分かれ目になるモンだ。だけどな……!」


紅蓮「……だけど?」


フレイバーン「戦車の一台、二台ごときに遅れをとるようじゃぁ、刑事は勤まらねェんだよ!」


紅蓮「俺の知ってる警察と違う!」


フレイバーン「紅蓮、炎熱警棒アブレーションロッド!」


紅蓮「……くぅぅっ……分かったっ!」


 ここまで来たら……腹を括るしかないって事だ……!


コロナ『炎熱警棒アブレーションロッド、転送します』


 手を広げる。


 その手のひらにすっぽりと収まる形で、長さ50cmほどの警棒が現れて……!



『Kiiii、HaGaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』



 その間にカーシェル星人の右手が、頭上から振り下ろされてくる……!


紅蓮「……くっ!!」


 ガギィィッ!! という硬質な音。

 太さ直径たった3cm弱の警棒を横に寝かせて、両手でその鎌になった腕を辛うじて受け止めた。


紅蓮「ぐぅぅっ……!」


『Kiiii、Aaaaaaaa!!!!!』


 警棒は恐ろしく頑丈だ。

 咄嗟に受け止めることは出来たけど……凄い力で上から押される……!


 震えながら耐える……!

 このスーツですらこの重み……普通の人間じゃ食らった瞬間に体が飛び散るんじゃっ……!


紅蓮「っ……!?」


 視界の端――カーシェル星人の左手が横に振りかぶられて……!


フレイバーン「紅蓮! 質量の違う相手と力で競うなっ! 受け流せっ!!」


紅蓮「……っだぁっ!!」


 横に放り投げるように、ブレードを左へ往なす。


 そのまま、右から飛んでくる鎌へと向かうように……側宙っ……!


『KisShiaaaaaaaa!!!!!』


 俺の体の下を、すれすれで通り抜けて行く横薙ぎの鎌。

 俺のすぐ後ろに止まっていたフォークリフトが、ばっさりと真っ二つになる。背筋が凍る思いだけど……!



 キィィィィィィ……!!



 着地した直後、頭上で集光音……!


紅蓮「やばっ!!」


 再び元の場所に戻るように、左へ横っ飛び……!


 一発……二発、三発、と俺を追いかけるように短く照射されるレーザー。


『KiHiiiiii!!!!!』


紅蓮「っ……!?」


 誘い込むなんて知能があるのかも怪しい奴だけど、爆発をかわす先で鎌が振り被られていて……!


紅蓮「こ……のっ……!!」


 もう一度、迫り来る鎌を……側宙で……!



 キィィィィィィ……!!



紅蓮「えっ……!?」


 鎌をかわした直後、照射されたビームが……!


紅蓮「……うあああああっ!!!?」


 空中で、俺の体を真正面から捉えるっ!!


紅蓮「……がはっ!!?」


 ……倉庫のコンクリートの柱に背中から叩き付けられて、柱を陥没させた。


紅蓮「ぐっ、うっ……! なん……て……スピードだよ……!?」


 呻くように俺は声を上げる。


 あの巨体からはまるで想像できない俊敏さ。

 そしてリアクションの速さ。的確な次の攻撃への動きの流れ。


 振るわれる鎌のスピードは、更にその俊敏な動きに乗って信じられない速度で俺を襲う。


 人で言えば戦い慣れしてるとか言うんだろうが、あんな無作為な攻撃の積み重ねじゃ本能と言ってしかるべきところ。


 だからこそヤバい。


 そんな危険な生物……野放しになんかできる訳が……!


紅蓮「づ、ぅっ……!」


 でも、背中の全面に強い痛みが広がる感覚。


紅蓮(……また、こんな痛みを背負って……!)


 ……思い出される『先の戦い』での幾重もの痛み。

 ぐるぐると頭の中を巡る言葉がある。



 ――『どうして』。



 歯を食いしばって体を起こすが、こんな攻撃を食らいまくって、戦意を保っていられるかどうか……!




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