1-4-28-4 【桜瀬七波】 火焔舞蹈 4
◆ 視点変更『桜瀬七波』 ◆
七波「んぁっ……ふぁ……」
……作家が行ったのを見届けてから、張ってた気を緩める。
あたしはゆっくりと背中のパトカーに身を預けた。
七波「んくっ……!?」
背中の鈍痛は変わらず、あたしはそれに身を捩るけど、そのまま右腕をパトカーに押し付けてから、ゆっくりと、もう一度背中を預けなおす。
七波「はぁ……ったく……何が起こってんのか全然分からなかったけどさ……」
呆れた吐息交じりに、そんな事を呟く。
とりあえず分かったのは、ドラゴンボールばりの高速戦闘が目の前で演じられている『らしい』事だけ。
赤い甲冑の作家と、黒甲冑――ヴァーグとか言ってたっけ?
あたしが目に出来たのは、大体どっちかが吹き飛ばされて転がった姿だけだ。
作家がボテくり回されて、ガンガン蹴られて転がった時はどうしようかと一瞬焦る事はあったけど、そんな中でもあたしがすべき事はたった一つだけだった。
――作家にあたしの想いを預けて、信じる事。
そしてその通り、あたしは作家を信じるだけでよかった。
作家のド派手な蹴りがあいつの頭に刺さってアスファルトがめくれ上がった時、あたしは心の内に溜め込んでいた黒甲冑への全ての負の感情が吹き飛ぶのを感じた。
その後、あいつは逃げ出したけど、もうその時点で決着は着いていた。
作家の、あたし達の勝ち。
あたしはそれを目にする事が出来て、ようやく前へ進める事ができる気がしたんだ。
……まだ終わってない。あたしが気を抜いちゃいけないのは分かってる。
だけど……あたしは口にしたかった。
七波「作家……ありがとう……」
……。
……はは、ダメだこんなの。……直接、言わなきゃね。
分かってたはずなのに……なんであたしは独り言みたいに口にしたんだか。
ふと視線の先に、倒れたままの女の人の姿――詩遥ちゃんが横たわったままだ。
あんなままになんかしとけない、意識のあるあたしが何とかしなくちゃ。
とりあえず救急車かな。
……また、よくどっかに飛んで行かなかったモンだけど、スマホをポケットから取り出して――
七波「詩遥ちゃ……」
……どさりっ……。
……。
…………。
……え?
七波(……何、今の音。……なんでこんなに地面がすぐ傍にあるの?)
寝ちゃってるの、あたし?
いやだな、こんなトコで寝たら、さすがに風邪引く……。
七波(……あれ?)
ヘンだな。
体が言う事を聞いてくれないよ?
それに……寒い……。……どう……して……?
七波(……何……なんだよ……これ……)
声も……でない。
頭の中でぐるぐると色んな疑問が沸き立つのに、その解を出せない。
その解を……認めない。
七波(……作家……咲子……おにいちゃん……みんな……)
どうして……さみしいの?
どうして、その人たちの姿を思い浮かべて……会いたいって思うの?
七波「……ぅぷっ……!」
喉の奥から溢れた生暖かいものが、口から零れ落ちる。
七波「……」
舌にまとわりつくどろりとした感触と鉄臭い匂いは、不快以外の何者でもなくて。
七波(……イヤ……だな……こんなの……)
こんなの……イヤだ……ううん……こんなの、ダメだ……
まだ、咲子に……あたしは……あたしは……。
七波(さむい……よ……)
……すぐ傍で……何かの……音が聞こえた……。




