1-4-28-2 【熾堂紅蓮】 火焔舞蹈 2
紅蓮「フレイバーン、行くぞっ!」
フレイバーン「おう!!」
黒甲冑が、飛び出してくる。
それに合わせる様に俺も前に突っ込んで……!
紅蓮「ぐっ……!?」
互いの攻撃を――奴の蹴りを俺の足が、俺の拳を奴の腕が――それぞれに受け止めて、一瞬動きが止まる。
??「チィィっ!?」
しかし直後、弾ける様に、揃って攻撃を繰り出しあう……!
最初の十合ぐらいはほぼ同時に――相手の攻撃を相殺しあうかのように、どちらも攻防一体の攻撃を繰り出す。
でも、その動きは俺には全て見えていた。
そしてスーツは、俺が下した『どこを攻撃すべきか』と言う判断に合わせて、俺自身を動かすように拳や蹴りを打ち込む。
始めはそれに対応できていた黒甲冑。
しかし、その攻撃の速度は、次第に俺の方が上回っていく。
主観時間が広がっているお陰で、黒甲冑の大きな隙を目で追ってもお釣りが来るぐらいの時間の中で……!
紅蓮「……だぁぁっ!!」
蹴りが黒甲冑の腹部に正面から突き刺さる……!
??「ぐぅあっ!?」
再び吹き飛ぶ黒甲冑。
しかし、後ろに飛びつつ銃を構え、発砲……!
フレイバーン「ブッ細工なモン、振り回させんなっ!!」
紅蓮「分かってるっ!」
背中を気にしつつ、側転、側宙で、その都度、直前にいた場所で着弾。
そして、三つ目の銃弾をかわしたところで……!
紅蓮「はぁっ!!」
再び、ぐんっ……! と視界が加速したような錯覚を覚えた。
紅蓮「……これならっ!!」
二度、空中に見えない足場が生まれたような感覚。
それはイメージの産物だけど――どうしてそんな事が可能なのかなんて全く分からないけど、俺はその足場を踏んで、全部で3回の跳躍……!
??「……何っ!?」
そう声を発した黒甲冑はまだ、俺が最初に空中の足場を蹴り付けた場所――自分のほぼ眼前を、愕然と見つめていた。
俺は既に黒甲冑の真上にいて、その姿をそこから目にしている。
恐らく、奴の目には俺が消えたように見えただろう。
――遅い。
後ろに吹き飛ばされた恰好で銃を構えたその黒甲冑の真上で……!
紅蓮(七波……見てろっ!)
体を縮める……!
七波が受けた、
フレイバーンが感じた、
そして俺が背負った怒りや悲しみ――
こいつに叩き付けるべき全ての感情を圧縮し……!
開放するっ!!!
紅蓮「……っだぁぁぁぁぁっ!!!」
その黒甲冑の頭を、踏みつけるように蹴りつけて……!
??「ぐぁぁぁぁあああああああっ!!?」
俺の脚が突き刺さり、頭から地面にたたきつけられる黒甲冑!
その衝撃で、アスファルトが陥没――黒い破片が、ぶわっ! と浮き上がるのを目の端に見た。
紅蓮「ぐ……くぉぉぉぉぁぁあああっ!!」
足の裏に感じる確かな衝撃に、全ての無念が大地に根を下ろすような感情の浄化……!
紅蓮「……たっ!」
俺はその踏み付けを利用して更に跳躍。
傍のコンテナの上に降り立つ。
紅蓮「……うわっ!?」
上から見下ろし、自分のやった事にビビる俺。
黒甲冑を叩きつけたアスファルトは、まるで隕石でも落ちたかのように、直径5mぐらいのクレーター状に抉れていた。
??「ごっ……gu、go……こ、のっ……!」
フラフラの状態で立ち上がる黒甲冑のバイザーにはヒビが入っていた。
よく見れば、赤目の片方が消えかけている。
紅蓮「こ、このスーツ……あれでもダメージあんなモンなの?」
コロナ『ベイキング・グラファイトにシールドゲートを刻入した特殊論理装甲です。設計からの概算データでは軽巡クラスの艦砲からでも装着者を生存させます』
紅蓮「作った人が普段何考えてるか分からない……そもそも巡洋艦に撃たれるシチュエーションが分からない」
コロナ『開発上層部は『よろしい。ならば重巡チャレンジだ』と一つ上を見て息巻いているようですが、今のところ警察本部からの許可が下りていません』
紅蓮「……良かったよ、そんなバラエティ企画、止める常識人がいて」
コロナ『逆に言えば、あの装甲に亀裂の入るほどのダメージは、相当に深刻な状態だと言えます。次の一打は決定的なものとなるでしょう』
紅蓮「どんなパワーで殴ったらいいか分からないよ……」
自分のパンチで人の頭を柘榴にしたくないです……。
コロナ『フレイバーン。データベースから該当者と思われる人物を特定』
フレイバーン「どこのバカだ!」
コロナ『ロォンデル星系、惑星ドレーラの賞金稼ぎ。登録名『ヴァーグ』。最後に確認された惑星からの出立進路、出立時間と、ワハトブール刑事の航行経路が一致』
??「くっ……!」
それが聞こえたか、黒甲冑のうろたえ方は、どうやらコロナの解析が正しかったらしい事を物語っているけど……。
フレイバーン「ドレーラ星人かよ……!」
紅蓮「知ってるの?」
フレイバーン「俺と同じ精神だけの意識体の星人。惑星外での活動をする時には別に肉体を用意する必要があるんだが……俺と違うのは肉体を持つ他人に寄生する時に――」
フレイバーン「……相手の精神を必ず殺しちまうところだ」
紅蓮「……!」
確かに……七波は俺が死んだと思った原因として、そんな事を言ってた。
フレイバーン「ドレーラは貧しい惑星だ。だから忌まわしいその性質を受け入れてでも肉体を手に入れて戦いに生きなきゃ星を守れねェ。……あいつもそういう奴の一人なんだとは思う」
紅蓮「……。……でも……!」
フレイバーン「ああ……同情もしてられねェ……! 自分の星を守る事と、道を踏み外す事が同じでいいはずがねェんだ!! 紅蓮、コントロールよこせ。警察の仕事だ!」
紅蓮「ああっ!」
視界が揺らいで、コントロールが切り替わる。
フレイバーンの言う警察の仕事ってのは、『前回』もやっていたが、身分の証明と罪状の口頭での通知の事。確かにそれは俺では出来ない事だ。
フレイバーンが左手の拳を突きつける。
コンテナの上から、真っ直ぐに黒甲冑――ヴァーグに向けて。
フレイバーン「……宇宙警察!」
そして……突きつけた拳の甲からホログラムが浮き出る。
――それは、銀河宇宙警察のエンブレム。
フレイバーン「特務捜査官……フレイバーン!」
風を切って上げた名乗りで、火の粉が一陣、舞う。
真紅の甲冑は闇夜に煌き、悪を断罪する炎となる……!
ヴァーグ「……くっ……! 宇宙警察の狗がぁっ……!!」
フレイバーン「賞金稼ぎヴァーグ!」
フレイバーンが指を突きつけて!
フレイバーン「特別保護指定宙域における活動法違反、及び……! ……えー……殺人とか! ……殺人未遂とかね! その辺諸々まとめてつけて、現行犯で逮捕する!!」
紅蓮「なんでフレイバーンはいちいちどっか残念なの!? カッコいいトコじゃないの!?」
フレイバーン「うるせェっ! 言い訳は署で聞くっ!」
紅蓮「それ、あっちに言ってよ! 仕事して!?」
『前回』もそうだったんだけど、フレイバーンは細かい事ができない。
コロナ『相手が罪状に納得しない折は、私が代行します』
紅蓮「ああ、そう……いいコンビだね……」
ヴァーグ「……抜かしやがれぇぁぁああああっ!!!」
ヴァーグが一発、銃をフレイバーンに放つ。
フレイバーン「っとっ……!」
被弾前にフレイバーンはコンテナから側宙で飛び降り、着地。
フレイバーン「罪状どーのより、逮捕が先だっつんだ! 紅蓮、代われっ!」
紅蓮「うんっ!」
しかし、その直後、ヴァーグは上空に向かって銃を発砲。
その弾丸がヴァーグの真上で6つに割れて……!
紅蓮「っ……!?」




