表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
65/88

1-4-27-4 【熾堂紅蓮】 起稿 4



◆ 視点変更『熾堂紅蓮』 ◆



フレイバーン「紅蓮! ったく、なんでスーツ解いちまうんだよ……! コロナ、スーツ再装着!」


コロナ『了解。スーツOS管理下の論理ゲート基点回路へのアクセスを開始します』


紅蓮「……」


 ……コロナの装着プロセスが開始される中、俺は静かに思い出す――



   ◆



 ……それは俺の、子供の頃の話。


 まだ小学校の低学年ぐらいの事だったと思う。


 あまり裕福な家庭に生まれなかった俺は、ウチの近所で仲の良かった友達連中とで、しょっちゅう近くの空き地のような場所で遊んでた。


 まぁ、何をして遊んだかはよく覚えていないんだけど、多分子供のやる事だ。

 かくれんぼだったり、缶蹴りだったり、サッカーだったりとかじゃなかったかなと思う。



 ……そんな中で、俺には一つ、忘れられない思い出があった。



 ウチの近所に、童話を書いてるっていう、おっちゃんが一人いた。


 その人は、何かアイディアを思いつくと空き地へとやってきて、俺たちを集めてその話を聞かせてくれたんだ。


 その話は――まぁ多分、七波辺りに言わせれば破天荒極まりない物語だったと思う。



 雨を降らせるダンスを町中で踊ったら、宇宙人が攻めてきたとか。


 国を救う魔法を唱えたら、なぜかみんな全力で走り出して止まれなくなったとか。


 山火事をみんなで消火活動したら、寝てたドラゴンに水かけちゃって怒らせちゃったとか。



 それでも何が起こるかわからないおっちゃんの話は、おっちゃんのしぐさや表情、そして効果音とかがユニークに混じって、俺たち子供にはとても面白く、みんな大爆笑しながら聞いていた。


 そんなその人の事を、俺たちはいつしかこう呼んでいた。



 ――『作家』って。



   ◆



コロナ『基点回路に情報を設置。設置者・CRN型宇宙警察捜査支援システム1728547号。コードネーム『コロナ』。言語基幹はソル星系主要言語に統一を要求』


??『...I accepted. I will record all subsequent logs with the words of the Sol star system. I start acquiring information.(……受理。以降のログは全てソル星系主要言語を基幹とする。情報の取得を開始)』



   ◆



 『売れない』が付くけど、作家の話を作るスピードは、実は凄かったんじゃないかと今にして思う。何せ、一週間に2回は新作を、しかも全然違うアプローチの話が次々に出てくるんだから。


 話してる姿も楽しそうだった。

 そのせいか、作家が空き地を訪れる曜日もだんだん決まっていって――そんな作家の話を、いつしか俺たちは楽しみにしてて。


『今日は作家遅いね』

『作家の家に様子見にいこっか!』


 とか、だんだん馴れ親しんでいく……っていうか馴れ馴れしくなるというか。

 割と迷惑なガキだったかもしれないけど――でも、作家は嫌な顔一つしなかった。


 そして少なくとも、俺たち聞いてる側の子供達に、作家の事を嫌ってる奴はいなかったんじゃないかと思ってる。



 でも――この光景を、俺たちの親がどう見ていたかは具体的には分からない。

 まじめに働いてる大人には見えなかったし、作る話の内容も相俟って、あんまりいい印象じゃなかったんじゃないかなとは思う。


 現に友達の一人は、親から作家の話なんか聞いちゃいけないなんて言われたりもして、作家が来る日は一緒に遊べなくなったりもしたから……。



   ◆



コロナ『並行処理を開始。01号、スーツOSへのコンタクトの承認要求。02号、管理下のデータの一律権限の譲渡を再要求』


??『About No.01, I approve a part of the request conditionally. About No.02, It is not allowed by the current authority of Corona.(01号、要求一部条件付承認。02号、現在の『コロナ』の所持する権限では認められない)』



   ◆



 そんなある日の事。


 いつものように作家が話を聞かせてくれる日になっても、空き地に現れないから、俺たちはまた、作家の家に突撃をしてみた。


『まーた寝てんのかな?』

『昼夜関係ないオトナだからねー』


 そんな軽口を利きながら走っていったけど……作家は家にいなかった。

 話を聞かせてくれる日には、空き地に来てなくても必ず家にいたはずなのに。


 それが三回も続いた時、俺たちは事の異常さに気付き――そしてそれから数日後、家の近所に現れた刑事さんたちの話を小耳に挟み、俺たちは事情を理解する。




 作家が、乗っていた満員電車で痴漢をして捕まったという。




 ……聞く人が聞けば『しょーもな』とか思われる話だろう。

 そのまま受け取ったら笑い話にすらなっちゃうかもしれない。

 子供だった俺たちも、作家はバカなことしたなぁとか言っていたけど――



 でもこの頃、ちょうど痴漢冤罪というものが社会問題になり始めていた頃だった。

 主題にされた映画とかも公開されてたと思う。



 実際にやってようが、冤罪だろうが、関係ない。捕まれば、ほぼ実刑は免れない。

 社会性を著しく落とし、無罪判決を勝ち取るにしても、何ヶ月も公判を重ねる必要がある――。



 刑事さんと親達との話を物影から聞いていた俺たちの一人が、親から聞きかじった言葉をぼそりと口にする。



『痴漢って、普段そんな事しそうにない人が、急に心の病気になってやっちゃう事もあるって……』



 作家は面白い人だったけど、残念ながら私生活は不規則で、俺たちの親とは明らかに違う人種の大人たちだと心のどこかでは思っていたから――それを思い返した時、本当に信用に値するべき人間かどうかは、俺たちには計りかねた。



   ◆



フレイバーン「ふざけんな! こんな面倒な処理、何度もやってられっか! コロナ、こじ開けろ!」


コロナ『無茶を言わないで下さい、フレイバーン。スーツのデータ破損で一番困るのはあなたですが』


フレイバーン「ンだとぉっ……!!」


コロナ『――01号、要求にかかる条件を確認』


??『You need to authenticate with this system's management ID and password.(当システムの管理IDとパスワードによる認証が必要)』



   ◆



 刑事さんたちの聞き込みの内容は、主に『作家の人間性について』だったと思う。


 訪れた刑事さんたちに、親達は口々に言った。

 ……どれもこれも、作家の信用を著しく奪う言葉だった。


 ふと、刑事さんの一人が俺たちに気付いて、俺たちに話を聞きに来た。


 その時、俺自身は大人達の言葉を歯噛みしながら聞いていたと思う。

 でも、自分の言葉に自信が持てないただのガキだった俺たちはこの時、人見知りも手伝って、ただただ顔を見合わせることしか出来なかった。



 もしもこの時。



 俺たちが俺たちだけで、先んじて話し合いでもしていたら、作家を悪く言う大人たちに抗議が出来ていたかもしれない。


 実際、もしも次に警察が来たら、作家は悪い人じゃないって言ってやろう! と、その後みんなで話し合って意思統一したんだ。



 でも……結局その時が、最後のチャンスだった。




 作家は。




 ちょうどこの日の翌日――獄中で自殺したという。



   ◆



コロナ『了解。パスワードは入力済み。銀河標準言語の換字式暗号サイファのために音声入力を省略。管理IDはOSネームである情報を宇宙警察機構非公開サーバーより取得済』


??『Request voice input.(音声入力を要求)』


コロナ『OSネーム『ペンタメローネ』。認証を要求』


ペンタメローネ『Authentication is complete. No.01 request, cancel the condition.(認証完了。01号要求、条件を解除する)』



   ◆



 それを聞かされたのは、それから三ヶ月もたった後だった。

 自殺の理由は、子供だから気を遣われたのか、教えてもらえなかった。



 でも……だからこそ。


 それを聞いた俺は、子供ながらに苛んだ。



 作家は周囲が自分を信じてくれていない事に絶望して、自殺したんじゃないか。

 ……だとすれば、俺なら助けられたんじゃないのかって。


 俺が作家の事を信じて、作家は悪い人じゃないって叫ぶ事ができれば、作家は自殺なんかしなかったんじゃないかって……!



   ◆



コロナ『02号、認証条件の開示を要求』


ペンタメローネ『This condition does not manage assignment on the hardware side. The mental potential of software is the key to unlocking.(当該条件は、ハードウェア側で譲渡管理を行うものではない。ソフトウェアのメンタルポテンシャルの値が開錠の鍵となる)』



   ◆



 ……俺は。


 人を助ける事ができなかった俺は。


 そこから人助けをする事の意味を、繰り返し自問し続けて、答えの出ない日々が、俺から『ヒーロー』と言う存在を、奪っていった。


 七波が俺に訴えてくれた『誰かを救う物語』からも、目を背けていった……。






 でも。


 今は、違う。






フレイバーン「……そういう……ことかよっ……!」


コロナ『了解。それであれば、本件に措ける問題は皆無』


ペンタメローネ『Request disclosure of reasons.(理由の開示を要求)』




 大切な、幸せな時間。

 それはその時には気付かないのに、後になって気付くもの。


 失って……心の中に悲しみが宿るもの……!


 穂積での騒がしい日々が、もう帰ってこないなんて……!


 咲子ちゃんの事故、そして、七波の願いが、理解できないはずがない……!




コロナ『ソフトウェア側のメンタルポテンシャル――』




七波「作家……お願い……」




 ……うん、七波――




七波「あいつを……倒して……!」








……受け取ったよ……!








コロナ『――イグニッション……!』


七波「っ……!!」








 足元から吹き上がる一陣の熱い風が全身を包み込み、俺の姿を変えていく。


 七波の悲しみを受けて――同じ怒りをこの体に湛えるように……!




七波「作家……その姿……」




 もう、俺は絶対に目を背けない……!


 助ける力を持っているのに、この手を伸ばさないなんて、絶対に……絶対にっ!!



ペンタメローネ『Acquire data. No.02 request, acceptance. STELULA Suit "Pentamerone", Draft...!(情報を取得。02号要求、受理。ステルラスーツ『ペンタメローネ』起稿……!)』



 それが、かつてきっと敬愛した人への俺の罪滅ぼし。



 そして……同じ形には戻らなくたって。



 また新たに幸せな時間を――穂積で生まれるいくつもの物語を……!



ペンタメローネ『Set Up!』



 『七波を救う物語』で、俺は――始めてみせる……!!



ペンタメローネ『Start Your Story!!』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ