1-4-27-3 【桜瀬七波】 起稿 3
七波「……さっ……か……」
作家「七波、俺は負けない。……絶対にこんな奴に負けたりしない!」
七波「あっ……あぁぁっ……」
作家「もう絶対に……守れる力を持ってるのに、誰かを見捨てたりしない……だからっ……だからっ!!」
七波「くっ……ぅぁっ……!」
作家の拳が……力強く握られて……!
作家「全てを……聞かせて!」
七波「っ……!」
『ナナちゃん……』
七波「ぅぅうわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!! ちくしょうっ……ちくしょおおおおおっっっっ!!!」
痛みと言う感覚を全て忘れて。
あたしは手が壊れんばかりに、地面に握り拳を叩きつけて叫んだ。
七波「あいつだっ……! あいつがあたしの大切なもの……奪ってった……! 取り返しのつかないもの……あたしの手からこぼれてった物をもう、あたしは絶対にこぼさないって誓ったのに……!」
七波「あいつはあたしの夢を……! 咲子の大事な夢を! 平気で奪って、笑いやがったんだっ!!」
七波「なのにっ……あたしは……あたしは何もできない……何もできないじゃないか、なんだよ、この無力な腕はさぁっ……!! 無力が憎い……無力であることがこんなにも罪深いことだなんて知らなかったっ!」
七波「咲子の夢を奪ったのはあたしだっ……あたしも同然だ! こんなことに関わらなきゃ、咲子は夢を失うことはなかったのにっ!! あたしは……あたしが絶対に許せないっ!! なのにっ……!」
七波「なのに……ちくしょう……あたしは結局……泣く以外に、何もできない、なんて……ちくしょう……ちく……しょうっ……!!」
噛み締めた歯の隙間から漏れ出る言葉は、あたしの無力さの証。
それを……あたしはもう、包み隠すことなく、持てる力の全てを持って吐露した。
七波「作……家……」
顔を上げれば、作家の背中。
その背中はあたしの心を、全てを受け止めてくれていた。
七波「……お願い……」
分かってる……無力なあたしが、人のことを頼りにするなんて、身勝手にも程がある。
願いは危険を伴うのに。
あたしはそれをしようとして死にかけたのに。
それでもあたしは……
その人の、力強い背中に……
願わずにはいられなかった――
七波「あいつを……倒して……!」
頬を伝う涙が一筋、地面に、落ちる。
……その瞬間だった。
七波「ぁっ……!?」
――一陣の、烈風。
作家の体が炎にでも包まれたのかと思った。
作家の足元から吹き出す風は熱気を帯びてあたしに吹き付ける。
でもそれは。
ただただ力強さ以上のものを感じることは無く。
そして、あたしの流した涙を、優しく拭い去ってくれるかのような風だった。
七波「作家……その……姿……」
◆
作家『お、俺の名前……?』
七波『うん。そう言えばあたし、お兄ちゃんがあんたの事、作家君って読んでるから作家って呼んでるけど、ちゃんと名前聞いたこと無かったなって』
作家『い、いいよ、そんな……作家で俺は気に入ってるけど』
七波『自分の名前は気に入ってないの?』
作家『……。……あー……』
七波『何』
作家『……厨二臭いんだよね』
七波『え』
作家『なんでこんな苗字で、しかもこんな名前に両親がしちゃったんだって……キラキラネームとかの方が、まだましかもなんですけど……』
七波『まじ!? 興味ある! 聞かせて聞かせて!?』
作家『はぁ……。……俺の名前は――』
◆
作家があんまりいい顔しなかったからその名前で呼ぶことは無くなっちゃって、ほとんど忘れてたけど。
……今、思い出した。
思い出さずにはいられなかった。
その姿が、まるでその名前を体現するかのようだったから。
七波「熾堂……紅蓮……」
炎の向こう側で、作家の体は、黒ではなく――炎と同じ色の真紅のステルラスーツにその身を包まれていた……。




