1-4-26-4 【桜瀬七波】 世界は、斯く在れと 4
フレイバーン「……ぐぁはっ!!?」
あたしや警察の人たちが束になってもピクリとも動かない、不動の要塞のようだったフレイバーンが、あっさりと吹き飛んで、派手な音を立てて地面を転がる。
そして……フレイバーンを吹き飛ばしたもの――
それは鋭利に研ぎ澄まされた槍のような、空中からの蹴りだった。
その蹴りを放ったその人物が、あたしの眼前に――それまでの喧騒からは想像もできないほどの静かな音を伴って、両足で地に立つ。
黒い、甲冑姿。
あたしはそれを知ってる。
なぜなら、それは今、目の前で地べたに転がっているそれと同じものだから。
でも、違った。
背中を向けてあたしの前に立つそれに感じるのは、ただひたすらの頼もしさ、勇猛さ。
――それが、全ての答えだ。
七波「……『黒甲冑は、二人いた』……」
そして――
??「……コロナ、ステルラスーツを」
七波「っ……!」
その声に、あたしは……。
??『了解。ステルラスーツ、キャストオフ』
バンッ! と音を立てて甲冑が全て、外側に外れたように見えた。空中に浮く、いくつもの黒い装甲。
しかし、すぐにその空中に浮いたまま、光り輝き、その場で回転しながら畳まれるようにして全てが消える。
そして……その中心にいたのは。
七波「さっ……か……!」
あたしの声を聞いて、そいつは。
――作家は。
すっと顔をあたしに向けると、小さく、はにかんだような微笑を浮かべた。
ああ、なぜあたしは忘れていたんだろう。
それがそうであることを、あたしはすっかり忘れていた。
……当事者にすれば迷惑極まりないのだけれど。
そうだ、それでもそれはそうであるべきなんだ。
あたしが望むべき『ヒーロー』は、
こうして、いつも通り、
世界がそうあれと望む通り、
正しく、遅れてやってきた。




