1-4-26-3 【桜瀬七波】 世界は、斯く在れと 3
――詩遥ちゃんの話。
廃ビルで殺されてた警官は、あたしがその姿を見た、『前の晩』に行方不明になったって。
それを聞いた時の違和感。
『あの夜』に穂積から早々に帰った『あいつ』の姿が頭によぎったのに、どうしてもこの二つの出来事が符合しなかった。
なぜなら。
多分、行方不明って事は、その警官はその晩の内に殺されたって事のはず。
それなのに、あたしが訪れた真っ昼間――なんであいつはあの場所に留まってた?
それまでずっとそこにいたの?
あの廃ビルが隠れ家だから帰ってきたの?
でも作家の姿にもなれるなら、あんなところで過ごす必要はないはずだよね?
そして、その理由がようやく分かった。
こいつは、体の宿主を殺してから、その体に寄生したと言っていた。
そしてその殺した宿主の精神は、もう残ってないんだって。
でも、あの退院の日。
穂積でみんなと一緒になって騒いでた作家が、全てこいつの演技だったっての?
……ちがう、違うはず!
咲子『作家さん、今度また書いた本、読ませたって下さいね』
作家『今のアイディアまとめ切れたらね』
七波『まとめ切っても展開がイタくて……』
作家『そんな事ないと思うけどなぁ……』
あたしがどんなに茶化しても、作家は自分の作品にちゃんと誇りを持ってた。
あの時の作家が作家じゃないなら、照れ笑いを浮かべながらあたしの言葉を否定なんかしない!
他のどの言葉だって、全部作家の、作家自身の言葉だ……!
あたしはそう断言できる。
……楽しかったから。心の底から。
あの場所を、あたしは絶対に失いたくないって思ったんだから……!
だから、分かった。
これら全てが導き出す、その答えが――。




