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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
57/88

1-4-25-5 【桜瀬七波】 炎禍の先に披く孔 5



◆ 視点変更『桜瀬七波』 ◆



フレイバーン「なん、だってんだ、こいつは……!?」


 ……あたしがサインアウトした直後に聞いたのは、目の前にいるそいつが這いつくばってあたしに背中を向け、震える声で漏らしたその一言だった。


七波「……」


 呼吸を止めてる。

 してたら気付かれない保証なんかどこにも無くなるほど、息が乱れてたから。



 ――ピィンっ! という甲高い音が、フレイバーンの眼前のモニターから鳴り響く。



フレイバーン「……っ……!?」


 やっぱり、あのままこっちに出るわけには行かなかった……その音があれば、フレイバーンは機敏にその位置から飛び退る事もあっただろう。


 でも、フレイバーンは動けない。


 それが『あたしの狙った結果』だった。


七波「くっ……!」


 よろよろのまま、スイッチを入れた装置を振り上げる……!


 フレイバーンが緩慢な動きで顔だけこちらに振り返り、あたしの姿を捕らえた。


フレイバーン「なっ……にっ……!?」


 でも、それでもフレイバーンは動けないんだ――向けている背中もあたしの眼前から動かないまま……!


 だからっ……!


七波「ぐぅぅっ……!」


 ……消えろっ……!


七波「ううううぅぅぅぅっ……!!」


 消えろっ……!


七波「ぅ……ぁぁぁああああっ!!」


フレイバーン「テェェメェェぁぁぁぁぁっ!!」


 消えて……帰って来いっ!!!


七波「……作家ぁぁぁあああああああああああああああっ!!!」


 脊柱に……叩き……つけるっ!!!




 ――ガシャッ!!




フレイバーン「あぎああああああああああああああああっ!!!!?」



七波「うああっ!!?」


 バリバリという電気ショックのような衝撃の奔流が、龍のごとく荒れ狂ってあたしを弾き飛ばし、あたしは地面を転がった。


詩遥「……七波ちゃんっ!!!」


 詩遥ちゃんが駆け寄って来て、あたしを抱き起こしてくれる。


七波「詩遥……ちゃん……。……んっくっ……」


 視線の先では、四つん這いのままその電流に巻かれて、痙攣するように体を震わせるフレイバーンの姿。


フレイバーン「GAAAAAaaaaaaaaaaaa! Kishiiiishishiisiiiihihihihiiiiigigiiiiiii!」


 多分、機械で翻訳不可能な、あいつ本来の声。

 それはこの世のものとは思えない、異世界の悪魔があげる断末魔に聞こえた。



 そして、それはやがて掠れるように消えて行き。



 フレイバーンは、そのまま突っ伏すように。



フレイバーン「……」



 がしゃりっ! ……と重厚な音を立てて倒れ、動かなくなった……。




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