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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
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1-4-24-1 【桜瀬七波】 悪との邂逅 1


 『悪』って一体、どういう基準でそう定義付けられるのかな?


 あたしはゲフリーさんを、どうやら『悪』と考えているらしい。


 ……『どうやら』ってのは、あたしはそこまでこの人の事を憎んでいるってワケじゃないから、自意識ではこの人をそんなに悪い人だとは考えていない。


 でも、この『悪孔空間』という場所は、あたしがこの人を『悪』だと考えていると認識したんだよね?

 だからあたしとゲフリーさんを線で繋いだ――あたしをそのゲフリーさんの悪の孔とかいうものに落下させた。



 ――『力』。


 かつて、それをこの国は『悪』と呼んでいたことがあるらしい事について。


 比類なき力を持つ人に『悪』の名が冠される、ってのは昔はフツーの事だって話。


 特に平安、鎌倉時代とか。


 平治物語の主人公の一人、鎌倉悪源太・源義平。

 ゲームで有名、しころ引きの平家の猛将・平悪七兵衛あくしちびょうえ景清。

 剛鋭な醍醐の僧兵、悪禅師・阿野あの全成ぜんじょう


 この人たちについた『悪』は、勇猛、豪傑、荒武者の証。

 敵に回せば鬼気迫るヤバげな人たちでも、味方にすればこれ以上ないほどに頼もしい人たちだったことだろう。


 そんな『悪』に憧れるのは、何も現代の厨二病患者たちだけじゃない。

 さっきの『平悪七兵衛景清』は歌舞伎の演目にもなっている。景清が牢を破る荒事芸――昔から人は『悪』に、力に魅せられていたんだ。



 ……まぁ、なんでこんな話に詳しくなったかと言えば、例のスマホアプリ『ブルーラインオデッセイ』、略してブルオデのあたしのお気に入りキャラと言うのが、ここに登場しているこの『平悪七兵衛景清』だからなんだよね。


 ビジュアルもさることながら、豪快な設定もお気に入り。そしてその設定を緻密に生かされた刀を振り回すモーションもとても激しく、見ていて実に爽快だ。

 ……ちなみに当然のごとく女体化してますが何か?


 かわいいキャラも好きだけど、カッコいいキャラ極推しのあたしとしては、ぜひ咲子にこのキャラを描いて欲し――



 ……。



 ……。



 ……今は、措く。



 そう、あたしは力を求めていた。


 今のあたしにはないもの。

 でも、あたしにはやらなきゃいけない事がある。


 だから、それを叶えてくれる力を持っている人と、あたしは関わりを持った。


 その関わりから生まれた――今、こうしてゲフリーさんを頼ろうとする事そのものが、悪の架線で結ばれるってことなのかな……?



  ◆



七波「……あたしが近づいてくるの、分かったんだ」


 科学者とかいう割に逞しい顔つきのゲフリーさんの顔をまっすぐに見つめ、あたしは聞く。

 ……少しだけ高揚した自分の声の響きが、気付いちゃうと耳にうるさく感じられる。


ゲフリーレン「ああ。……『これ』が理由というのもあるが」


 と、無表情に言い放つゲフリーさんの後からすいーっと泳ぐようにして現れ、ゲフリーさんの肩の辺りでふよふよと浮くそれは、キラキラと光を振りまくイルカ……って?


七波「あ、あれ? クレシダ……は、こっち?」


 首を横に向ければ、そこにもほとんど同じ姿をしたイルカ。

 違うのは、向こうは銀色の光であるのに対して、クレシダは金色の光を放っている。


クレシダ『うん、クレシダはボク。あれはボクの同型機だよ』


七波「あー……だろうね、あんな似た別固体なんてものは」


??『認証。Nadia補助システム、コードネーム『クレシダ』。ユーザーネーム『ナナミ』を同期距離で確認』


 クレシダの声は弾むような響きがあるが、こっちは少し落ち着いた男性ボイスだ。割とイケボ。ゲフリーさんより、もう少し若い印象がある。


クレシダ「こっちも認証したよ、『トロイラス』。データの同期を開始ー。マスターも元気そうで何よりだね!」


七波「……トロイ、ラス? あの子?」


クレシダ『そそ。ボクと違ってちょっと硬い性格デザインされてるけどねー。まぁ、無駄のいらないマスターにはぴったりの性格設定だと思うけど』


七波「なるほど……あいつを消す方法も検索する必要があるか」


クレシダ『初対面で消すとか、カンジ悪いにも程があるよね……。イルカ見たら消そうとするの、良くないよ?』


 まぁ、クレシダの呆れ返る声の理由もよくわかるが、性分というものはなかなか変えられないもので……。


 と、トロイラスと言う解説イルカが、僅かにこちらに顔を向けて。


トロイラス『初めてお目にかかる。ナナミ、私はマスターのNadia補助システム・トロイラス。以後宜しく頼む』


七波「お、おう」


 いきなりイルカがしてくる結構まともな挨拶に面食らうも、すぐにトロイラスはクレシダに向かい合って。


トロイラス『……クレシダ、マスターの要請した情報の収集プロセスの進捗が28%とはどういう事だ。遅滞が過ぎるのではないか?』


 ……すぐに事務的な話に戻る。なるほど、無駄のいらない性格設定、ね。


クレシダ『いやいや、そこは汲んで欲しいトコだよー。この星の情報はマスターの予想以上に膨大で、しかも、そこから適合する情報を選ぶだけでも一手間なんだってば』


トロイラス『サポートを要するなら、メモリの一部を代行するが』


クレシダ『うーん、選別の工程に負荷が掛かってるから、分業じゃ対応できないと思うよ? 大体、選定の基準はボクだしさ。トロイラスが関わったらデータのクオリティが変わっちゃう』


トロイラス『……把握した。データの照合ではシステムの構築には問題は確認できない。このまま作業進行を継続要請する』


クレシダ『はーい』


 何やらよく分からない会話を交わす二匹というか、二頭というか……ってか、こいつらの単位は何だ。


七波「……ふむ、そのトロイラスって子は、あたしの位置とかが分かるってことでいいのかな?」


 クレシダたちのやり取りを横目に、ゲフリーさんに一歩、歩み寄る。


ゲフリーレン「その通りだ。検索の実行という過程を踏む必要があるがな」


七波「ふーむ……?」


 クレシダへ顔を向け直して。


七波「逆にクレシダはゲフリーさんの位置とか分かるの?」


クレシダ『あー、トロイラスとデータのやり取りはできるけど、サーバーにアップデートされた情報を読みに行って、って事だし、リアルタイムでの接続はこの距離にならないとできないから』


七波「……」


クレシダ『えーと……分かんないよ、マスターの位置は』


七波「それを最初に言いなさいってば」


 造り手に似て、話がまどろっこしい。


七波「まぁ、トロイラスのおかげであたしの接近を知ることが出来たって言ってもさ。出迎えなんて、なんともしゅーしょーな心がけでいらっしゃる事で」


ゲフリーレン「研究の進展が望めるなら、すぐにでも駆けつけるべきだろう」


七波「あはは、『悪』たるゲフリーさんが『善は急げ』とか皮肉だね」


ゲフリーレン「……ああ、ゴバンチョなピピンモという奴か」


七波「だから訳せてないってば!」


 なんでわざわざ宇宙語に言い直したんだ。


ゲフリーレン「……想定よりも時間が掛かったな。携帯端末を常に弄り回しているこの星の人間であるお前なら、もう少し早くシステムに気付くと思ったが」


 ふん、と鼻を鳴らすゲフリーさん。


七波「その地球人への皮肉は合ってるけどね。外で携帯バッテリーくっつけて、充電が100%になるのが引き金、で合ってる?」


ゲフリーレン「ふむ、理解できたか」


七波「うっさいわ。人のアイテムに何してくれてんだっての。……まぁ、それはいいとしてもさ、たまたま充電減ってたからバッテリー繋げたけど、下手すりゃもう二、三日かかったかも知んないよ」


ゲフリーレン「俺としては、遅くなろうが別に構わん所だが」


 本当にどうでもよさそうに言うな、この人……。


ゲフリーレン「それで」


 と、ゲフリーさんは言葉を切り返し。


ゲフリーレン「何をしに俺の元へ訪れた」


 ……その問いかけに。

 あたしはぐっと身を沈み込ませるように、下からゲフリーさんをめ上げて言う。


七波「ゲフリーさんを宇宙警察に突き出しに来た」




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