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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
48/88

1-4-23-1 【桜瀬七波】 サーキットブレイカー 1



◆ 視点変更 『桜瀬七波』 ◆



 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 絶えることのない、耳障りな音。



 それは耳障りであっても仕方がない。

 それはそれを意図して作られた音なのだから。




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 夕暮れのオレンジ色の光が、


 あたしの座るその部屋の中に差し込まれている。



 ……部屋?



 いや、違う。



 四角い箱状のそれの中に、長い椅子が両サイドに4つぐらいずつ。


 上を見上げれば、低い天井からぶら下がる鉄棒に、つり革。

 ……ああ、これが一番分かりやすい、この場所の特徴かな。



七波(……電車……だよね?)




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 あたしはきょろきょろと周囲を見回す。


 ……あたしの周りには誰もいない。

 この電車には誰もいない。


 電気らしいものはついていない。

 だから、外から差し込む光だけが、この車両の中を染め上げる。


 光が消えれば、きっと真っ暗。


 うらぶれたような影が、車両のいたるところを覆い隠して、

 それを見るあたしに、なんだか不安な色を落とし込む。




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 耳障りではあるけれど、ふと、その音に誘われるように外を見る。



 ずっと聞こえるその音。


 ……なるほど、それもそのはずだ。




 電車は、止まっていた。




 へんなの。

 電車なのに、その音の前から動こうとしない。


 事故か何かかな。

 それじゃ、あたしはここに留まるしかないよね。



七波(……あれ?)



 その音の傍らに。


 誰かがぽつりと立っている。




 あたしはそれを、電車の少し高いところから、斜めに見下ろしている。




 ぼんやりと物憂げな目で、真正面をじっと見つめ、


 その子はそこからピクリとも動かない。




七波(……ああ、そりゃそうだわ)




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 その音に。


 そして動かないこの車両に、その子は行く手を遮られたままなんだから。




七波(うん……それでいい)




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 大丈夫、あたしは、大丈夫だから。




 だから心配しないで。




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん




 かんかんかんかん……




 かんかんかんかんかんかんかんかん……




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