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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
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1-4-21-2 【桜瀬七波】 混迷の渦中で 2

七波「詩遥ちゃん、あたしのスマホどこにあるか分かる?」


詩遥「え? ……ああ、ここよ」


 詩遥ちゃんはあたしの寝ているベッドの脇の戸棚の開き戸を一つ開ける。

 そこにはあたしの服や背負ってたリュックが入ってた。


詩遥「リュックの中?」


七波「ううん、多分パーカーのポッケの中」


詩遥「え、パーカーの?」


 詩遥ちゃんはあたしの言葉で、丁寧に畳まれた服の一番上にあったパーカーを、軽く広げてポケットの状態を確認すると。


詩遥「……ホントだ、あるわ……よく落とさなかったな、あの状況で……」


 詩遥ちゃんは、スマホを取り出してあたしに手渡してくれた。


七波「えへへ、クセでなんでもポケットに入れちゃいやすんで」


詩遥「ちっちゃい子か」


七波「詩遥ちゃんがそれ言うかな」


詩遥「どういう意味かしら!?」


 にひひ、とあたしが笑うと、ふん、と憮然顔をしてみせる詩遥ちゃん。


 スリープ状態からオン。

 ……現れる結構な数のプッシュ通知。

 ゲームからのイベントのお知らせや、ツイッターからの情報、そして……。


七波「……」


 ……LINEの内容は後で見よう。


 そして。


七波(ん……?)


 ……。



 ……ああ・・そうなの・・・・



七波「……詩遥ちゃんさ」


詩遥「え?」


七波「……」



 遮断しろ。



七波「……今のその、詩遥ちゃんが言う『事態は混迷を極めてる』って、どう極まっちゃってんのかな?」


詩遥「っ……」


 詩遥ちゃんは声を詰まらせる。

 うーん、分かり合えたと思ったんだけど、全部が全部とはいかなかったらしい。


 あたしが知らなきゃいけない混迷とやらの混迷具合。

 それを知るためにはやっぱり目の前の警察屋さんに聞くのが一番手っ取り早いはず。


 でもこんな風に、眉の根をぎゅぎゅぎゅーっと顰めて、右手を拳にしてその人差し指の側面で額をコンコンやって、なんか変に躊躇っちゃってる人から色々聞きだせるモンなのかと少し心配で。……かわいい顔が台無しですぞ。


七波「……詩遥ちゃん」


詩遥「な、何?」


七波「そんな顔しないでってば。あたしの不細工が移っちゃったわけ?」


詩遥「えっ……? や、やだな、私、そんな酷い顔してた?」


七波「……」


 間接的にあたしの顔をdisられたような気がして軽く凹むなど。まぁ、詩遥ちゃんはあたしの変顔集を知らないはずだけどね……。


 ……それはいいとしてだ。


七波「……詩遥ちゃん」



 ……大丈夫。



 ちゃんと、言える。



七波「今のあたしに、話しちゃいけない事なんて、ないから」


詩遥「え……」


 あたしの真意を測りかねる、詩遥ちゃんの目を丸くした顔。

 あたしは構わず続ける。


七波「起きたこと、全部覚えてるよ。自分が何をしたかも、なんだろ……自分目線なら、まぁ大体。……でも、やっぱり詩遥ちゃん目線でも何が起きたのかは知っときたいわけ」


詩遥「……でも」


七波「……今のあたしに、あたし自身が理由で話しちゃいけない事なんか何もないよ」


詩遥「七波ちゃんの……理由でって……」


 今度は一瞬、どういう事を言われたか、判断しあぐねたらしい。

 ……でも。強張った顔が更に不安を帯びて行って。


詩遥「そんなことっ……!」


七波「ないよ。ないんだってば。咲子の」



 遮断しろ。



七波「……咲子の事も。ちゃんと認識できてるから。……話せない事があるんならそれは端折ってもいい。だから」


 高鳴るな、胸。

 今のあたしに、気遣いなんていらない。


詩遥「……」


 詩遥ちゃんは左手を腰に当て、また額を右拳でこんこん叩く。……何事か考える時の、詩遥ちゃんのクセらしい。


 そして……一つ大きく深呼吸をして。


詩遥「……分かったわ。じゃあ……七波ちゃん。先にあなたの事から聞かせてくれないかな」


七波「あたしの事?」


詩遥「宇宙人がどうのって話」


七波「……信じてくれるんだ」


詩遥「あんなことの後だからね。っていうか、信じるのは宇宙人がどうとかって話よりも、七波ちゃんがとてつもない事に巻き込まれてるってこと」


七波「……あ……」


詩遥「だからその情報の照合に、一度七波ちゃんの知ってることは話してもらいたくて……って何」


七波「……いや、別に何も」


 ちょっと嬉しかった。

 詩遥ちゃんがお兄ちゃんとおんなじで、宇宙人がどーのよりも、あたしの事を心配してくれたこと。


 だから思わず、調子に乗っちゃうんだよね……。


七波「こほん、ではお話ししましょう……昔むかし、この世に人間が現れる遥か前、世界は天も地もひとつになり、どろどろと溶岩のように……」


詩遥「人が現れてからの話にしてもらっていいかな」


七波「あ、はい」




 ……とりま、あたしは、かくかくしかじか、ああなっちゃってこうなっちゃったと、詩遥ちゃんにあの夜の事を聞かせる。

 例によって、ゲフリーさんに殺されかけた事については伏せさせてもらった上で。


 なぜ伏せたのかと言えば……そういえば今回は何でなのかな。

 お兄ちゃんに聞かせた時は、ゲフリーさんの真意を量ってから、と思ったからだったけど、その真意とやらを知った今じゃ、隠す必要が……。


 ……あそっか、分かった。今のあたしたちの関係を話すのが面倒だからだ。


 うん、そうに違いない……。




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