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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第4部
41/88

1-4-20-2 【桜瀬七波】 中心からの帰還 2

七波「……ひっ……っ……!!!!??」


 激しい身震いが、あたしを無理やり覚醒させる。


 無理に、不条理なまでに、強く、激しく――どこかに横になって寝ていたらしいあたしを、揺さぶり起こす。


七波「……」


 震えてる。


 あたしは、『あたし自身』に揺り起こされて、そのまま体を、震わせてる。



 がたがたと。



 がたがたと。



 それは何から来るのか。

 それは何を根元にして、あたしに絡みついてくるのか。


七波「ぁ……ぁぁぅ、ぁぁぁっ……」


 獣のように、呻き声を上げる。


 それはまるで、人であることを拒否するかのように。

 人であれば、感じずにはいられない感情を、拒絶したいと願うように。


 でも、それは叶わない。


 腰から上が、人形のように立ち上がる。

 強張った体で、あたしは寝ていた体を起こす。


 何かしようとして。

 何も考えたくないから、体を起こすという行為を、力いっぱい行った。


 そして、体を起こしたあたしは。


 そこから何も、できなくなって。


七波「さきこ……さき……こ……」


 『震えながら、腕を持ち上げる』。


 『両の手を見る』。


 いつものように。

 拒否することのできない夢を――夢の中の『それ』を、あたしは思い出さざるを得なくなって。




 ――ZASHAAASHAAAA!!



咲子『ウチは』



七波「ぁ……ぁっ……さきこ……さきこぉっ……」



 ZA、ZA、ZA!!



咲子『ウチはナナちゃんと』



七波「ぅあっ……あっ……あっ……!!」



 ZAHAAAAAA!!!! ZASHA!! ZAZAAAAAAA!!




咲子『ウチはナナちゃんと、一緒にイラスト描きたいねん』






七波「……ぅあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あぁぁっ!!! あっ……あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」






 溢れて来る、イメージ。



 遮断しろ。


 受け止めろ。



七波「ひっ……!?」



 黒い影との立ち合いを。



七波「あ、ひっ、ひぃぃいぎぃぃぃぃぃぃっ!!! ひっ……ぎぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」



 遮断しろ。


 受け止めろ。



七波「ぅ、あっ!?」



 出会ったばかりの人の、勇気を。



七波「ぁ、がっ!? あぁぁぁぁがっ……ぐっ、ぅぅぅぐ、ぐぃぎっ、ぃぃぃっ!!!?」



 遮断しろ。


 受け止めろ。



七波「ぁ……ぁっ……!?」



 あの場に現れた、親友の姿を。



七波「は、ひっ、ぃっ……ひあぁぁぁぁぁぁっ!? あっ!? ぅあああああああっ!!? やだっ……ぃやだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



 遮断しろ。


 受け止めろ。



七波「ぅあっ……ぅあぁぁっ……!?」



 親友を守ろうとした、自分の行いを。



七波「ぁっ……あっ!!? ぁぁぁああああああああああああああっ!!? ちがうっ……ちがうぅぅっ!!!」



 遮断しろ。


 受け止めろ。



七波「ぃや……いやぁっ! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



 自分の親友の夢を、希望を奪った、



 自らの行いを。



七波「ぅぅぅぅぅぅぁあああああああああ!!? ぁっ……ぅああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」



 遮断しろ。


 受け止めろ。




 ……遮断しろ。




七波「……あがはっ!!?」



 遮断しろ。



七波「ぁ……あぐっ……ぅっ、ぁっ……!!」



 ……遮断、しろ。



七波「ぁっ……ぁっ……」



 ……。



 ……。



 ……あたしの耳に、どさり、という音が届く。



七波「……」



七波「……」



七波「……んくはっ……!!」



 ……その音は。



七波「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。……んっくっ……」



 あたしがそれまで寝ていたベッドに、もう一度倒れ込んだ音だった。



??「……っ……!! ……ちゃん……!!」


七波「……ぇ……?」


 誰かの、声。


 あたしは傍らに首を傾けると。


詩遥「……七波ちゃんっ!!」


七波「あ……詩遥ちゃん……無事だったんだ……よかったぁ」


詩遥「……っ……!」


 詩遥ちゃんの顔が、強張る。


 ……ううん……あたしの顔を見たその顔には『恐怖が張り付いてる』。


詩遥「……」


 ……。


 あたしは疲れてはいたけど、うっすらと微笑んで。


七波「……ちょっと。やだなぁ、詩遥ちゃん……女の子の顔、そんな顔で見ないでくんないかな?」


 あたしはそんな事を詩遥ちゃんに言っていた。


詩遥「……。……七波ちゃん、よね……?」


七波「そりゃ、どう言う一言ですかぃ」


詩遥「……。……ううん、ごめん、なんでもないわ」


 詩遥ちゃんの笑顔。

 ……見ただけで分かる、引きつったような笑顔。


 ふと足元の方へ顔を向ければ、看護師さんがいて……その手に手に何かを持っていた。


 ……ああ、注射器かな。あれ? 隠しちゃった。


 そっか。……なるほど、そっかそっか。


七波「……あつつっ……!」


詩遥「……大丈夫っ!?」


 急に右肩に痛みが襲う。


 ……変なの。

 起きてたのに、ずっとこれを感じなかったのか、あたしの体は。


 痛みを遮断してたのか・・・・・・・・・・、あたしの体は。


七波「あ、あははっ……そうだ、あたし、撃たれたんだっけ。……あはは、参ったな。一週間の間に二度だって。笑えねー。あはは」


詩遥「……七波……ちゃん……」



 うん、あたしは。



七波(あたしは、あたしだよ)



 ……だからあたしは。


 大丈夫。






 うん。






 ……大丈夫。




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