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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第3部
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1-3-19-2 【桜瀬七波】 魔人の魔法 2

 ……全く、どうしてこんな時に、そんな物語を思い出したのか、あたしにもよく分かんない。

 穂積への帰り道、まだぼんやりとしてる頭の中をいっぱいにしたのは、なぜかその、結末まで含めてどーしよーもない物語だった。


 ……。


 ……ううん、もしかしたら、あたしは気付いてるのかもしれない。

 『それ』が一体『どうしてなのか』――『その理由』を顧みたくないだけ。



 一言で言えば『萌唯さんに会った』から。……それ以上は、今は考えたくない。



 でも、勝手に頭に思い浮かんじゃう物はどうしようもない。

 一度振り払っても、何も考えずにいたら、じわじわと頭を埋め尽くしちゃうんじゃ、何か別イベントでも起こさない限りは、これは延々リピート……。


七波「……あ、やべ」


 そうやって無意識に考え事しながら歩いてると、『普段しないような変わった事』をしようとしても、すぽーん、て抜けちゃうんだよね。


七波「……ま、いっか」


 今の状況に考えると、導かれる結果的には、その方がいいはずだと頭が言っていた。



 あたしが『普段と変わってしようとした』のは、要するに『回り道』だ。


 上与野城のオフィス街から、商店街を通って、その商店街を外れてすぐの場所にある穂積へ至る経路。

 それはこの日のとっぷり落ちた時間では、まぁ安全な、人通りも多くて明るい道だ。あたしみたいな年齢の女の子がこの時間に歩くなら、この道を通るのが絶対正しい。


 ただ、これが少し大廻りになる。


 上与野城の食堂街からほぼ直線となる道を歩けば、もっと短時間で穂積に着く。

 咲子と待ち合わせの約束をした、7時には間に合う予定だ。


 しかしでございますよ?

 ……まぁ、ここまで言えば分かるよね。


 その近道となる――今歩いているこの道は『暗い』ワケですよ。


 与野城町の、繁華していない地区は結構寂れた様相を呈してる。

 トタン張りの建物とか、古い倉庫とか、バリバリに剥がれた金網仕切りの、無造作な砂利の駐車場とか。

 しかも割と空き家も多くて、人気が少ない場所が目立つ。


 昼間は全然大丈夫なんだ。

 逆に開けてるし、高い建物がないからむしろ繁華街より明るい印象がある。ヘンに人通りの少ない場所に入り込んだりしない限りは安全に歩ける道だと思う。


 小学校の頃は毎日のように通った道だ。

 正直『歩き慣れた』道だし、高校に入ってからだってフツーに使ってる。


 でもその小学校の頃は、『夜は通らないように』って結構先生からうるさく言われた。


 全く無いわけじゃないけど、街灯が極端に少ないんだ。その明かりが届かないところは本当に真っ暗だ。そりゃこのご時世、通らないに越したことはない。



 ……けどね。



 『歩き慣れた』道なんだ、この道は。

 無意識に道を歩けば、そこは通らずにはいられない程の。



 『あ、こっちに行くはずだったのに』って思っても。



 『ま、いっか』で済ませてしまう程の。




 ……よくなかった。




 どうしてあたしは、今自分が置かれた状況を顧みなかったのか。


 咲子なら、ちょっと遅れたって待ってくれるなんて分かってたはずなのに、なぜあたしは近道を……。


七波(……♪)


 ……楽しみだったんだろうね。

 もちろん、待たせたくないってのはあったと思うけど、咲子がどんなラフを仕上げてきてるのか、早く見たかったってのが強かったのかな。


 面白いモンで(ってのも変な話だとは思うんだけど)、あたしは道を間違えた瞬間、それを正当化しようという理由を探し始めてた。

 そして見つけたのがそれで、いいことか悪いことか、さっきの考えたくない事はそれでどこかに消えてくれた。あたしは少し速足で、慣れ知った道を駆け抜けていく。


 ……ところが。


七波(……あれ……?)


 ぎくりとして、歩く足のスピードが僅かに落ちる。


七波(ここって……こんな暗かったっけ……?)


 ――錯覚、だとは思う。


 気付かなければ、そんな錯覚も感じることはなかったと思うのに、今日に限ってどうしてそんな風に感じて、ぎくりとしてしまったのか。



 次第に。



 次第に。



 あたしは『道の明かり』に『疑問を抱いていく』。……意味なんか欠片もないのに。



七波(……)



 ……分からないことを理解しようとしない、そんな発展性のない考えをまずはやめてみる。



 『状況』。――そう、あたしの置かれたそれが沸き立たせる、不可思議な錯覚。意味のない疑問。



 道の向こうの薄暗がり。

 そこからあの赤い目がこちらに向けられていやしないか。


 そんな頭の奥にこびりついたイメージが、あたしを怯えさせている。


 でも、もう振り返れない。

 これ以上、必要のない情報を知覚することを、あたしの頭が拒否してる。

 何かがいるかもしれないという可能性を広げることを、あたしの頭が拒絶してる。



 それなのに。



 ふと。


 あたしの横に現れる、家と家の隙間、闇色の小路。……そこへと視線を投げてしまう。



七波(っ……!)



 そこに――あいつの黒い姿が、揺らめ……!



??「あの」


七波「ひぁっ!?」


不意に正面から声をかけられて、あたしは飛び上がらんばかりに驚いた。


??「だ、大丈夫?」


七波「ぁ……ぁ……び、びーっくりしたぁっ……!」


 顔を戻した先、うっすらと街頭の光が届くそこに現れたのは――黒のオフィススーツ姿の女の人だった。




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