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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第3部
29/88

1-3-17-2 【桜瀬七波】 開扉の先 2

七波(まって、待ってよ、待って……! 考えろ、あたし……!)


 誰かが中にいる可能性。それが濃厚にはなった。誰かが中に入って、その時にそいつが扉を開けっ放しにしたのかもしれない。

 ……いや待て待て、このビルは古い建物だ。立て付けが悪くて勝手にドアが開いちゃうって可能性もある。


 ひとつ分かる事は、中に何があるにしろ、その先に何があるにしろ、今のこのドアの状態だとそれに遮られて、向こう側が全然分からない状態だってこと。

 写った写メをよく見てみたものの、そのドア以外に気になるものはない。誰も写っていない。

 ……あたしの捜査は結局、閉めて先へ行くにしても、そこからビルの中を覗き込むにしても、そのドアへと辿り着かなきゃいけないって事らしかった。


 ドアはこちらに向かって開く形で、中の様子はあたしのいる側からじゃ、全く見えない状態。

 ……距離にして5mぐらい。


 あたしはもう一度角から……今度はあたし自身が顔を出して、自分の目で状態を確認する。


 ……特に写メの状態から変わってはいない。


 一度深呼吸で、呼吸を整える。

 くっそ、心臓のバクバクが収まらない。でも、気にしてたら余計に緊張するだけ……!


 ゆっくりと、恐る恐るそこから出て――状況の変化が怖くて、一気に扉へと駆け寄っ……!




??「寝ぼけた事言ってんじゃねェぞコラァっ!!」




七波(っ……!?)


 びくりと身を竦め、あたしの足はびったりと止まる。扉までたった1m。でも、それ以上進めない。


 やっぱり、誰かいた。警戒は間違いじゃなかった。

 慌てて壁に背を預け、早鐘を打つ心臓が生む呼吸を抑えて、聞き耳を立てて中の様子を探る。


??「あと何人殺せばあいつを逮捕できるってんだ? あぁっ!?」


 誰かと、話してる……? 一人じゃないって事?

 ……それは分からない。ここから聞こえる声は一人だけ、その怒号を張り上げてる奴の声だけだ。


 しかも、そのキレたような声の張り上げ方……あたしは聞き覚えがあった。


七波(あの、夜の……)



  ◆



――『ガキが……浅知恵でくだらねェ事してくれるじゃねェか……少しばかり焦ったぜ?』



  ◆



 『フレイバーン』――あいつの口調じゃないのか?


 やっぱり、ここはあいつの根城になって……!


 あたしは聞き耳を立てながら、壁に体を押し付けたまま、ドアへとゆっくりと近づいていく。

 ……壁に背を預けていなかったら、震える膝が簡単に折れてしまいそうだった。




??「ああ、また殺すぜ……! もう……形振なりふりなんか気にしてらんねェからな……!」




七波(んくっ……!)


 攻撃的なその台詞があたしの足を押し留めるかのよう。


 ギリギリと歯を食いしばって、その恐怖を奥歯で噛み殺し、荒い息を小さくついて勇気を振り絞る。


七波(……くっそ……ヤバいよ、コレ……!)


 ゲフリーさんの情報が頭をぐるぐる巡る。

 あいつは焦りで情緒が不安定になるって……今のあいつの状態って正にその通りじゃんか……!


 放っておく事は出来ないけど、あたしに何ができる……?


七波(そんなの……分からないけど……とにかく今は、奴の姿だけでも……!)


 あたしはそう考えて、ドアから恐る恐る中を覗き込む。



 でも。



 あたしがそいつの姿を捉えるよりも




 先に、目についたそれに。




 あたしの目は釘付けになった。




七波「……ぅぁっ……!?」



 倒れた、人。



 人……!



 人の……死体……!



七波「ぁ……ぁっ……!!」



 死んでる……。



 上半身の、



 左半分が、



 溶けて、



 死んでる……!



 扉から向こう側へうつ伏せになった男。

 ……青い制服は恐らく警察の物。ぞぶり、と左上半身が食いちぎられたようになくなり、頭部もほとんどなく、下の歯がわずかに残っているのみ。


 赤や白の肉がむき出しになって、中の体液や臓物がどろどろとこぼれ出て建物の床に大きく生々しいシミを広げていた。



 どさっ、とあたしは尻餅をついて、『その死体を凝視することしかできなかった』。



??「……何……っ……!!?」



 その死体の向こう側にいた男。

 そいつはあたしに、背中を向けていた。


 でも、あたしのその尻餅の音で、顔だけこちらに向けてきた。



 その顔。



 あたしはその顔に、再び目を見開く。



 あのオフィス街で、物陰からあたし達を見ていた男。――それはこいつだ。



 そしてその姿は見覚えがあって当然だった。



 その男の顔は――穂積の常連の――




七波(作……家……!?)




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