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猛火のスペクトラム  作者: 雪乃府宏明
第1幕第2部
16/88

1-2-12-1 【桜瀬七波】 約束 1

 問診という少しばかり退屈な時間になるから、この間にちょっとあたしの事をもう少し掘り下げて話させてもらおうかな。


 桜瀬七波、16歳。県立与野城よのしろ高校に在学中。高校二年生。

 身長156cm、体重ゴニョゴニョkg。スリーサイ……この辺はまぁいいか。


 多分、知ってもらった方がいいのは、ここまででなんてーか『モヤっ』とした言い回しや表現で伝えきれなかったあたしの情報だろう。



 じゃ早速。



 ――あたしの境遇の事。


 今年16歳になったあたしだが……実はあたしは8歳以前の記憶というものが一切ない。


 出たよ、主役の記憶喪失設定。


 そして従兄妹のお兄ちゃんと二人暮らしという状況からも分かる通り、更にあたしには両親がいない、事故で死んじゃった、あたし一人だけ生き残った、という設定まで漏れなく付いてきているという有様。


 いやー、ありがちだよねー。

 ってーか、どうしてこういう物語の主人公って記憶がねーわ、親がいねーわの不幸境遇が多いかといえば、そりゃまぁ、普通じゃない設定をつけたいからだし、不幸から立ち上がるぜ! みたいなのの方が序盤は話を進めやすいし。

 ……まぁあたしはそんな不幸設定を背負ってるキャラの中では恵まれてる方で、凹んでたりはしないけど。


 んでまぁ……何にせよ、それだけの設定があれば『どうして?』っていう『疑問』にも繋がるじゃない? 転じて『興味』だよね。


 そもそもあたしはそういう設定があるからどーだとか言うつもりはなくて、結局それがその主人公たちにとってどんな意味を持つのかってことが大事だと思う訳ですョ。


 あたしの場合、そこで登場するのが、さっき見た夢だ。



 ――夢の事。


 ……怖い。


 はっきり言って、あの夢は、見たくはない。

 とは言え、夢の中で言ったかもしんないけど、見る夢は選べない。

 やめてって言ったって、眠りの中で無抵抗なあたしに、心は容赦なくそれを突き付けてくるわけだ。


 でも、肝心の部分は、見たことがない。……それはいい事なんだろうか、それとも腹を立てるトコなんだろうか?

 考えられる理由としては、他の人の見る夢と同じで、実は核心まで見てるにも関わらず、朝起きたら次の瞬間に忘れてるんじゃないかって事。そうじゃないと起きた時の冷や汗とか『なんで?』って話になるし。

 ……夢まで含めて記憶喪失って事なんだろうね。


 毎日見るわけじゃない、むしろ見る事の方が稀になってきた。ある程度見る事への覚悟はできたから、寝る事への恐怖はない。

 ……記憶を失った直後は酷かったらしいけど。


 でも、朝起きたら忘れてるあの夢は、見たら必ず全てが同じ内容であることは、把握できてる。




 だから、呼吸を忘れるほどに恐怖する。


 汗だくになって起きる。


 息が乱れる。


 悲鳴を上げて起きることもある。




 忘れた夢は何なのか? 失った記憶の向こうに、何があるのか?

 ――それはもう、ろくでもない事は分かってる。


 知る事は、幸せなのか、それとも絶望への落とし穴なのか。


 ……。


 ……正直、それを悩むことを今は必要としてない。


 知りたいと思ったことはあるけど。

 両親の顔を思い出したいと思ったことはあるけれど。


 記憶喪失という状態がそれをぼんやりとさせているのか、そこにこだわる気持ちは割と薄い。

 何より、今は不自由してない。……あたしを見てくれた精神科の先生も大体それでいい、みたいな事を言ってた。


 ただ、一昨日の夜のあの出来事の中を、ただ震えて何もできない哀れなフツーの女子高生よりはマシな生き抜き方ができたのは、心の奥――封印された記憶から生まれた恐怖への耐性によるものと考えれば、もしかしたら多少は心の闇とやらも人が生きるには役立つのかもしれんな……ふははは。


 うーん、厨二ちっく。うん、あたしはそんなんでいいんだ。


 塞ぎ込んで周りが見えなくなって、誰とも分かり合おうとしないアホガキな人生もあり得たかもしれないけど――結局アホは変わりないけど、それでもそんな意味の分からない闇を抱えながらも楽しく生きる術をくれたのは、きっと――。



 ――お兄ちゃん、桜瀬人治郎との事。アンド周りの人たちとの事。


 ここからはその話。その物語。




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