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第8話 旅立ち

少し遅れました。


今回は前話より数年先の話です。

そして文字数が・・・

「セラ、忘れ物はない?」


シェータ師匠が心配そうに問いかける。

セラが頷いたのを見てもまだ安心できないのか、他にもあれこれ聞いている。


「紹介状がないと王都には入れても、学園には入れないわよ?あっ、後冒険者ギルドで登録するときは気をつけなさい?セラくらい綺麗なら、厄介ごとが向こうから勝手に寄ってくるから」

「うん、私は大丈夫。それよりベルが心配。変な女に騙されたりしないように見張っとかなきゃ」

「2人ともひでぇ・・・」


何が酷いって、シェータ師匠はセラだけ心配してるみたいな言い方している事で、セラに関しては俺がホイホイ着いていく馬鹿みたいに思われていたことだ。


「まあ、ベルも気をつけてな?シェータも別にお前のことは、どうでもいいって意味で言ってんじゃねぇから気にすんなよ?」

「ベルなら忘れ物とかあっても、最悪空間転移で取りにこれるじゃない」

「困ってる女の子がいたら見境なく助けそうだから心配」

「節操無しみたいな言い方はやめて・・・」



ガックリとうなだれる。

そして俺より少し背が低いセラを抗議の意を込めて視線を送る。


現在、俺とセラは15歳になった。


現在の俺の身長は現在175cmほどだ。

7歳から8年間修行を重ね、かなり身体も心も鍛えられたと思う。

魔術の方もさらに色々な技を開発して(ヴァン師匠で)実験したりできたので、更に進歩できたと実感できる。



一方セラの方はというと、身長は165cmほど。


会った当初から思っていた事だが、やはりかなりの美少女っぷりだ。

胸は前世の記憶の中の15歳女子と比べると大きいのではないだろうか?

こっちの世界の同世代女子には1人も知り合いが居ないので比べようがないけども。


髪は背中くらいまでのロングヘアー。

髪型はしょっちゅう変えているが、最近はハーフアップがお気に入りなようだ。


セラの魔術の修行についてだが、最初に俺がヴァン師匠へと襲撃していた時にさり気なくシェータ師匠と属性鑑定していたそうだ。

そして結果、なんとセラも系統外持ちだった事が分かる。

その名も、無属性。

属性が無いのだ。


それって使えるのか?という疑問もあるかもしれないが、この「属性が無い」というのが重要だ。


例えば魔力というのが水だとしたら、属性はその水に色を付けるものであるといえる。

色が濃ければ属性との相性が強くて、薄ければ弱い、という訳だ。


ここで透明な水と色水をまぜるとどうなるか考えて欲しい。

元の色よりは多少薄くなるが、透明だった水の方も色がつくのが想像できるだろう。


つまりセラの無属性は他人の属性に染まる(・・・)のだ。


更に先ほどの説明を思い出して欲しい。

属性への適性が高ければ高いほど色が濃い。

ならばより濃い色のものと混ざれば、それだけ色は濃くなるということが分かるだろうか?


つまり何が言いたいのかというと、現在セラはシェータ師匠より多少劣るが、基本と上位合わせて、8属性を使える。

しかもヴァン師匠の火属性、俺の雷属性に関しては、シェータ師匠を上回る適性を持つ、最終的に基本上位10属性を使える魔術師になったのだ。


ん?空間属性はどうしたかって?


俺のこの空間属性は先ほどの説明で言えば、水と混ざらない液体といったところだろうか?

流石のセラにも使えないようだ。


そんな事を思い出しながらセラを見ていると、セラが急に顔を背けた。


「・・・そんな見つめられると照れるよ」


なぜ、照れる・・・


妙な脱力感を覚えながら、そもそも何故今この場で、俺とセラが揃って王都出発する事になったかを思い出す。



あれは今日から1週間前のことだ。

ちなみにこの世界の暦は360日で一年で、火、水、風、土、木、雷、氷、金、闇、光の10の曜日がある。



その日の夕食、セラが来てからすっかり固定となった俺の隣がセラ、目の前がシェータ師匠でその隣がヴァン師匠という形で食卓を囲んでいた。

いつも通り談笑しながらの食事で、唐突にヴァン師匠が、何事もないような口調で切り出したのだ。


「ベル、来週から王都暮らしだな?」

「・・・はい?」

「行ったことなくても、王都までの道は1本だし迷わないでしょ?」

「待って」

「別に自分たちで家買って2人で住むのもありだが、金は自分たちで貯めろよ?」

「私、頑張って家を買う、最速で!」

「やる気十分ね、セラ。その調子よ」

「ねぇ、またこのパターンなの?俺だけなんも知らないやつ?」

「ぱたーん?なんじゃそりゃ?それよりもコルドラコ王立高等学院に入学するってこと、セラから聞いてないのか?」


王立高等学院に入学だと?

初耳だよ。


「セラ?俺、聞いてないけど?」

「私、何も聞いてないよ?」

「ん?何言ってんだ?ちゃんと伝えといてくれ・・・」


ヴァン師匠、覚悟ッ!!

またもやヴァン師匠を連れて転移する。

今度は前回と違って少し遠くの山だ。


「って頼んだじゃ・・・待て、ベル。落ち着け。セラが嘘ついてるだけだぞ?」

「男が娘同然の女の子を嘘つき呼ばわりして、恥ずかしくないのですか?」

「いやいや、なんで急に口調が丁寧になってんだよ?逆に怖えよ。俺は嘘なんかついてねぇって」

「この後に及んで言い訳なんて」

「言い訳じゃねぇから!」

「もういいです、分かりました」

「おっ、分かってくれたか!」

「ヴァン師匠、俺は今日貴方を超えます!」

「ちょ、待て!今のお前の実力じゃ洒落にならねぇ・・・うわっ!?殺す気か!?頭狙ったろ、今!」

「・・・チッ。流石師匠、簡単には超えさせてもらえないですね」

「お前さん今、舌打ちしたよな!?」


おっとこんな事でじゃれあっていても仕方ない。

文句を言うヴァン師匠を置いて食卓に転移する。


「あっ、おかえりなさい」

「ただいま」


セラが出迎えてくれる。

そして出迎えと同時に舌をちょろっと出して「さっきは嘘ついたの、ごめん」と謝ってきた。

うん、可愛いから許す。


そんなやり取りをしているとシェータ師匠が尋ねてきた。


「ところでヴァンは?」

「置いてきた」

「ベル、あんたもなかなか酷いわね・・・」

「まっ、ヴァン師匠は置いておいて「ベル、お前!この野郎!」流石師匠。早いね」


ヴァン師匠が帰ってきた。


「で、王立高等学院に入学ってどういう事?」

「無視すんな!」

「ヴァン、今から説明するから静かにして」

「シェータ、これ、俺が悪いのか?」

「ヴァン師匠、その気持ちよくわかる。理不尽な理由で注意されると納得いかないよね」

「ベル、お前も分かってくれ・・・いや、お前がそもそもいきなり転移して襲ってくるのが悪いんだからな!?」

「ヴァン師匠、うるさい」

「セラまでひでぇな!?俺は悪くねぇ!!」


と、まあヴァン師匠をからかうのはここらにしておこう。


「ベルは8年、セラは6年ここで修行してきたわよね?」

「そうだね」

「ここで少し思い出して欲しいのよ。2人とも出かけたことある?」

「えっ、あるじゃん」


修行だと言って火山にあるダンジョンに放り込まれたりしたし。

溶岩が流れているわ、炎が噴き出してくるわでものすごい暑かった上に、魔獣がそこそこ強くてとても面倒だった。

セラの魔術がなければかなり大変だったろう。


「ああ、そういうことじゃないわ。街に行ったりした事はあった?」


ん?そりゃあもちろん・・・あれ?

一度も行った記憶がないぞ?


「ないでしょ?」


そ、そんな馬鹿な!?

そういや最後に師匠たち以外の人間に会ったこと自体、セラを拐おうとしてたグゲスたちが最後か?


「それでね。先日、私とヴァンの知り合いから手紙がきたのよ。「元気にしてるか?」って」


あれ、話繋がってなくないか?


それとも手紙くれる知り合いもいないでしょ、ってことか?


違うんです、俺、メールとかライン世代なんですよ。

手紙は書いたことも貰ったこともないのですよ。

まあこの世界にスマホなんてないけどさ。

俺とセラが真面目にボッチな気がしてきた。


「その知り合いがね、学院の関係者なのよ」


なるほど、そういう繋がりね。


「で、貴方たち2人の事を手紙に書いて送ったのよ」

「ふむふむ」

「そしたら「ぜひ学院へ来て欲しい」って返事が来たのよ。だから「2人とも行かせるからよろしく」って返事したわけ」

「そういう事か・・・」


納得した。

でもせめて返事をする前に一度言って欲しかった。


「貴方たちの意思を聞かないで返事してしまったわけだけど」


おおっ?

そんな殊勝な事をシェータ師匠が言うなんて。



「黙っていた方が面白いかなって」

「ですよね!そんな事だろうと思ってた!」

「セラには手紙を送った日にもう話したわ」

「そこで伝えたなら、もう1人の当事者の俺にも話して欲しかったなぁ!?」

「セラは女の子よ?何かと準備に時間かかるじゃない?」

「男の子も引越しするとなると時間かかるからね!?」


生活の環境が変わるのだ。

しかも学校だぞ?

色々準備必要でしょう。


「な、俺は悪くねぇって言っただろ?」

「やだなぁヴァン師匠、冗談ですよ冗談。さっきのはただのじゃれ合いじゃないですかー」

「ただのじゃれ合いなら、殺す気で魔術使うんじゃねぇよ!?しかもなんだその口調、すげぇむかつくぞ?」


大丈夫、俺も自分で言っててウザいなと思ったし。




こんな風にバタバタしながら知った突然の王立高等学院への入学。

王都か、初めて行くけどどんなところだろうか?

流石に前世より人が多いなんて事は無いだろう。

王都って言うからには貴族とか王族とかいるだろう。

もちろん前世では会ったことがないし見てみたい。


「まあ、あれだ。色々大変だろうが楽しんでこいや」

「2人とも気をつけてね?」


折角の機会だ、楽しんでこよう。

前世の高校は卒業できなかったしな。


「うん、気をつけるさ」

「私、ベルから目を離さないようにするから」


俺は子供か・・・


「たまには顔見せなさいよ?週1くらいで」

「それたまにじゃないよ」


頻繁すぎる。

むしろここから通ってる状態に近いじゃないですか。


「まあそこまでとは言わねぇが、帰って来るときには遠慮するなよ?この家はお前たちの家でもあるんだからよ」


家、ね。

当たり前になりすぎて忘れそうになるけど、俺とセラは拾って育てて貰ったんだよな。

それでお金(王都での当面の生活費)まで貰って、学校に通わせてもらう。

本当にいい人たちだ。


「おっと忘れるどころだったぜ。ベルクス、セラリス」


ん?

いきなり愛称じゃなくて名前で呼ぶなんてどうしたんだろう?


「お前らはもう一人前だ、俺が教える事はもうない。後はお前たちが自らこの数年間で築き磨き上げた技術を更に鍛えろ」


「私もヴァンも貴方たちに教えたのは力の使い方と技術。私たちの真似をしているだけでは、単なる私たちの模造品にしかなれないわ」


「つまり、ここからは自分たちの努力次第だな。俺たちがやったのはお前たちの才能が開くのを少し手伝ったことと、俺らが磨いて来た技術を伝えただけだ。それをどう組み合わせて戦いに組み込むかは自由だ」


「学院にはもちろん同世代の、それも自分とは違う技術を持っている奴が大勢いる。慢心、油断なんてするな。学べるべきとこは学び盗める技術は盗め」


「それだけを目的で学院に行くんじゃないからね?ちゃんと友達も作るのよ?この家にも連れて来てね」


「そうだ、人脈も力だからな。ま、それを抜きにしても帰って来たい時には遠慮しないで帰ってこい」


「めんどくさい貴族とか絡んで来たら、私たちに教えなさい?その貴族の屋敷を更地にしてやるから。ふふふ、氷漬け?それとも埋める?吹き飛ばすってのもありね」


「そりゃあやりすぎだろ・・・。ともかくなんか困った事があれば遠慮なく頼れ!一人前になってもお前らが弟子で、俺たちが師匠である事には変わりねぇからな」


そして師匠たちが何やら袋に手を入れ取り出し、それを俺たちに渡してきた。


「んでこれが一人前の証だ。俺たちの関係者だって事を示したい時に使え」


それで渡されたのは紋章だ。

デザインとしては火竜の周りを10個の球が囲んでいて、交錯する剣と杖が背景となっているものだ。

俺とセラの分がある。


「んでこっちがベルの武器を作るようの金属だな。腕のいい鍛冶屋でしか加工できないだろうからちゃんと探せよ?」


今度はシェータ師匠の番のようだ。


「私からはこれね」


俺は鈍く灰色に光る鉱石、セラは宝石が一つついた金色の腕輪と袋をそれぞれ受け取った。


なんだろうこの鉱石。

魔力は感じるんだけど・・・


「ベルにあげた方は状態保存の魔術が込められた石ね。亜空間収納に入れておけば中の物の状態を保ってくれるわ。熱いものなら熱く、冷たいものなら冷たいままで保存できるようになるわよ」


なんだと!?


「凄い珍しいものだから無くさない事、まあ収納から出さなければ問題ないでしょ。ただし生き物には効果ないから注意してね」


でも狩った獲物とか、料理とかをそのまま入れておけるんですよね?

生き物を入れる予定はないからきにする必要もない。

凄い物を貰ってしまった。


「セラにあげた腕輪は魔力を貯蔵しておけるものね。普段使わない魔力を少しずつ貯めておいて、魔力切れで危なくなったら使いなさい。まあ危なくならないのが一番だけどね」


そうならないように鍛えたんだから、とシェータ師匠はいう。

保険という意味で貴重な一品だろう。


「後は動かない間、少しずつ空気中の魔力を吸収してくれるわ。動くと集めた魔力が散るから気をつけてね?」


どっかのドS魔人探偵の髪留めと肩掛け合わしたみたいな道具ですね。


「で、袋の方は異空間収納の魔術が込められた袋ね。ベルのほどは容量がないけど、ベルにあげたものと同じものが入ってるから」


売ったら普通に遊んで暮らせそうなレベルの一品をたくさん貰った。

売るつもりなど毛頭ないが。


ってかこの世界の相場ってどうなっているんだろうか?


「ありがとう」


下手に言葉を飾るのはあまり良くないような気もするし、素直に感謝の意だけ伝えられたらいい。


さて俺はどんな剣を作ろうかな?


セラは早速腕輪をつけている。

金色の腕輪は彼女の容姿にとてもよく合っている。


「ん、ちょうどいいサイズ」

「そりゃあ魔法具だからな。勝手にサイズ調整してくれるさ」


魔法具とはダンジョンなどで発掘される魔術の込められた、人類の技術では未だ再現できない道具の事だ。


ちなみに魔道具は人の手で作られた物のことを言う。


「おっとこれ以上引き止めても仕方ないな」

「そうね、大分話し込んじゃったわ」


そうだ、まだ多少時間に余裕があるとは言え、これから新生活が始まるのだ。

準備時間は多くて困ることは無いだろう。


「おし、ベル、セラ、楽しんでこいよ」

「さっきも言ったけど、帰って来るときは遠慮しないでね」


そんな見送りの言葉に返す言葉は何が適切でろう?

弟子として感謝の言葉もいいけれども、今の俺の心を表すには・・・


ふとセラの方を見ると何やらセラも、俺と同じ事を考えているようで視線があった。


2人を驚かせてみない?


そう目が言っていた。

いいな、それ。

俺もその案に賛同する。


そして最後に2人で悪戯(・・)をする事にした。


「今度こそ、いってきます。親父(・・)母さん(・・・)

「じゃあ、いってきます、お父さん(・・・・)お母さん(・・・・)


そうしてセラと共に空間転移でその場を後にする。


今、恥ずかしくて顔なんか見せられないからな。

顔を直視できる自信はない。


「ちょっとどんな顔してるか見たかったけどね」

「そうだな、まあそれは次会う時の楽しみにしておこうぜ」

「うん、それも楽しみだし、学院も楽しみ」

「親父と母さんが言うように楽しんでこないとな?」


親父と母さんのところにアクセントをおいて話す。


「うん、お父さんとお母さんに色々と話せるようにしとかなきゃね」

「だな、それじゃあ向かおうか!王都に」


そうして俺とセラは新生活に向けて新たな1歩を踏み出した。

お読みいただきありがとうございます。

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