第7話 予想外の展開
読者の皆さんにとっては予想外じゃないと思いますが、このタイトルです。
ざっと汗を流してから食卓に向かう。
先ほどのヴァン師匠との模擬戦(始めの趣旨は違ったけど)で動き過ぎて乳酸が出まくっているのが分かる。
こりゃあ明日は筋肉痛だな・・・
食卓にはすでに3人が座っていた。
普段は上座にヴァン師匠、俺とシェータ師匠が向かい合う形で座るのだが、今回は師匠たちが隣り合わせで、セラの隣の席が空いている。
このテーブルはヴァン師匠の体格に合わせてかなり大きめなので余裕があるはずなのだが、セラの席と俺の席が近い気がする。
とりあえずは俺の席に座る。
「おっ、来たか」
「お疲れ、ベル」
シェータ師匠は何事もなかった用に話しかけてくる。
あの辱しめ、俺は忘れていないぞ!
「まあ、ベル。こういうのは大人になったらいい思い出になるもんだし気にすんなや」
「・・・枕を高くして眠れると思わないでね」
「怖えよ!?ってかなんで俺だけが標的なんだよ!シェータがやった事だろう!?」
「あら?ヴァンが勝手にやったことじゃない。私は止めたのに」
「主犯なのに白々し過ぎんだろ!?」
まあいいや。
それよりも動き過ぎて腹減った。
「ヴァン師匠うるさい。それより早く食べよう。すげぇ腹減ったよ」
「そうね、セラ。早く食べましょう」
「はい、それじゃあ」
「「「いただきます」」」
「待て待て!俺が悪いのか!?揃いも揃って理不尽すぎる!ちくしょう、いただきます!」
いつもより賑やかな食事になりそうだ。
食事が終わり後始末も終えた。
その後はいつもならば各々やることがあるので、自然と解散となるのだが今日は違う。
セラの話をしなければならな。
そう思って席で待っていたのだが・・・
「ベル、何やってるの?早く寝ないと明日辛いわよ?」
とシェータ師匠が言った。
いや、早く寝ないと明日辛くなるのはそうなんだけど・・・
あれ、話し合いは?
「えっ?」
驚く俺を他所にシェータ師匠はセラとの会話に戻る。
「あんまり夜更かしは良くないわよ?それじゃあ、セラ。部屋に案内するわね」
「はい、明日からよろしくお願いします、シェータ師匠!」
「元気があってよろしい。それと今日のところの寝間着は私のお下がりで我慢してね?」
「一人部屋を貰えるだけで十分です」
「もう!そんな硬い口調じゃなくていいって言ったでしょ?」
「分かり・・・分かった。」
「まだ少し硬いけど、そのうち慣れてね。それじゃ・・・「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」ベルうるさいわよ?大声出して、近所迷惑よ」
何故俺が咎められてんの?
絶対おかしいよね、この状況。
「近所誰もいないでしょ!?強いて言うなら森の生き物だけど、そいつらもあまりここには近づいてこないし!!」
って、そんなことが言いたいわけじゃない!
「それよりさっきの話は何さ!?」
「さっきの話?助けた理由云々の話のこと?私はかっこいいと思うわよ。ね、セラ」
「う、うん、私もその・・・そう思った」
顔を赤くしてモジモジしつつセラが言う。
ありがとう、ちょっと照れるな・・・
じゃなくて!!
「そっちじゃない!さっきしれっとセラが師匠って呼んでたけど、どういう事なのさ!?」
家に入る前の違和感はそれか!!
自然過ぎて気付かなかったわ!
「何、ベル。セラがこの家にいるのが不満なの?」
セラが少し涙目になる。
凄い罪悪感が・・・
ってちげぇ!!
「それに関しては大歓迎だけどさ、そこじゃないよ!?」
「ならいいじゃない」
あれ?いいのか?って気がしてくるぞ。
「待って俺がおかしいの?俺の気付かない間に世界線でも変わったの?」
俺だけがおかしいのか?
「後半は何言ってるか良く分からないけど、セラを歓迎してるならそれでいいじゃない?」
そうなのかな?
と、また納得しかけるが、俺が聞きたい事を聞けてないことには変わりない。
「あれ、セラの事話し合うんじゃないの!?」
「セラの事?まだ結婚には早いと思うわよ?ベルもセラもまだ9歳でしょう?」
「ベル、私たち今日会ったばかりだし、少しそういうのは早いと思う。でも・・・嬉しい」
誰もそんなこと言ってないよ!
そんでもって可愛いな、チクショウ!!
「だぁぁぁ!「ベル、興奮し過ぎ。頭冷やしなさい」理不尽!?」
魔術で作った氷を頭にぶつけられた。
俺は悪くないはずだ。
「いやいやいや、俺なんも聞いてないんだけど!」
俺はなんも間違った事を言っていないはずだ!!
「言ってなかったっけ?」
「全く!一言も!概要にすら触れさえしなかったよ!!」
「セラも私が弟子にすることにしたから。今日からセラもここで暮らすのよ」
「末長くよろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をするセラ。
ってか意味合いが変わるよ、その挨拶!
長い溜息を吐く。
「はぁ・・・もう突っ込み疲れたよ。じゃあ大事な質問だけ。セラも俺と同じなの?」
この『同じ』は両親がいない、つまりは孤児か?という意味だ。
「私もベルと同じだよ」
「・・・そっか」
そうじゃなきゃシェータ師匠が弟子として引き取るなんて言わないだろうが、本人の口から聞くのとはまた別だ。
盗賊風の男に追われていた事。
街に行くのを嫌がった事。
色んな事情があるのだろう。
今は聞かないがいつか話してくれるはずだ。
とりあえず聞きたいことは他にも沢山あるが、確認をしなければならない事は済んだ。
何はともあれ、これから一緒に暮らすことになるのだ。
可愛い女の子と一つ屋根の下。
なるべく意識しないようにしないと、色々大変だな。
改めて挨拶をする。
「さっきも言ったけど、セラなら歓迎するよ。これからよろしく」
「うん、これからよろしくね」
本日2度目の握手を交わす。
その様子を見てシェータ師匠が満足げに頷く。
今日、俺に妹弟子ができた。
ベルにとっては予想外と言うより、急展開ですね。
ベル「黒歴史を知られた上に、セラの事も黙っていたなんて。ヴァン師匠、許すまじ」
ヴァン「理不尽すぎる八つ当たりだな!?」